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ユルマズ・ギュネイ監督『路』獄中から指揮した人間ドラマ


<作品情報>

仮出所を許された囚人たち5人のたどる運命をそれぞれのエピソードで描く。製作はエディ・ユブシュミットとK・L・プルディ、監督・脚本・台詞は日本では初登場のユルマズ・ギュネイで、彼は84年9月に47歳の若さで死去した。獄中からのギュネイの指示に従ってシェリフ・ギュレンが演出、撮影はエルドーアン・エンギン、音楽はセバスチャン・アルゴルとケンダイ、編集はユルマズ・ギュネイとエリザベス・ヴェルクリ、録音監督もギュネイが担当。出演はタールク・アカン、シェリフ・セゼル、ハリル・エルギュン、ネグメットゥン・シバノグルなど。

1982年製作/トルコ・スイス合作
原題:Yol
配給:フランス映画社
劇場公開日:1985年2月2日

https://eiga.com/movie/64916/

<作品評価>

70点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆

<短評>

上村
トルコのユルマズ・ギュネイ監督が獄中から指揮を出し撮り上げた労作です。コスタ・ガヴラス『ミッシング』とパルムドールを分け合いました。
ユルマズ・ギュネイは二枚目俳優として多くの映画に出演しましたが、1960年にクーデターが起こると、執筆した小説が共産主義的だとして投獄、二年後に出所してから監督デビューしました。
自身がクルド人ということで本作もクルド問題を描いた作品になっています。「神の名のもとに」という美名に隠れた極端な男尊女卑、家制度の闇を描き出します。
体を売ったという理由で8年間自宅で監禁される女、トイレでイチャついただけで「公然わいせつ罪だ!」とリンチされそうになる夫婦、そもそも犯罪を持ちかけたのは妻の兄なのに生き残った男を「家の恥だ」となじり追い返す妻家族…
極度に保守的でとことん男尊女卑なトルコ社会を描き出します。そりゃ政府の目の敵にされるわなという作品です。
重く苦しい話ですが、雪やクルド人の住む山間部を映す撮影が非常に美しいです。
他の方も言うように全員背格好の似た髭のおじさんなので区別がつきづらい上に、シーンごとに場所が細かく変わるので「これは誰の何の話だっけ?」と混乱するのは確かですね。もう少し整理してほしかったです。
ただやはり獄中から指示を出したとはいえ、直接監督、編集できなかったのにこのヘヴィー級の作品ができたというのは凄いことです。
ぜひDVDなどでリマスターしてもらいたいし、他の作品もソフト化してほしいですね。製作状況を抜きにしても素晴らしい作品だと思います。

吉原
トルコ映画ってあんまり観た記憶がないなぁと思い調べたら、同じくパルム・ドールを受賞した「雪の轍」と日本と共同制作の「海難1890」くらいでした。
本作は仮釈放になった5人の囚人達の1週間を描いたオニバス形式の作品で、全員が同じ髭を生やしているので、誰が誰だか途中からわからなくなってしまいます…
ニコラス・ケイジ似だったり、ザック・エフロン似だったり、声が大塚明夫ボイスだったりと印象付けて観ていても時間経つと識別がかなり難しくなってしまい、ちゃんと物語を追えているかはかなり微妙でした。
「仮釈放」と聞くと私は「レ・ミゼラブル」のジャン・バルジャンのイメージが先行しますが、刑務所の外に出て新たな人生を始めようとするバルジャンとは異なり、実家に帰省するイメージ、この映画は実家帰省もの映画なのかもしれません。
イスラム教が多いトルコで、家父長制と軍事統制の中で、苦しみながらも生きていく人々の人生を描いた作品なのですが、先日鑑賞したイラン映画「チャドルと生きる」とはまた別の雰囲気がありまづ。トルコ映画はそこそこ過劇なエロティックなシーンも挿入できると言うことは結構驚きでした。
本作の制作途中に監督自身が投獄されており、刑務所の中から指導して制作されたと言うのはあまりにも有名な話ですが、「チャドルと生きる」「人生タクシー」のイランのパナヒ監督と同様に本作の監督ユルマズ・ギュネイも反体制派の監督なのでしょう。国への想いと、改革の志に感動しました。

<おわりに>

 獄中から指揮したという壮絶な逸話があるこの作品、監督の気概に感服です。

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