ジャファル・パナヒ監督『チャドルと生きる』抑圧されるイラン女性たち
<作品情報>
<作品評価>
70点(100点満点)
オススメ度 ★★★☆☆
<短評>
上村
やはりパナヒは素晴らしいですね。イランの女性たちが受ける苦難をリレー形式で描く群像劇になっています。
群像劇とは言ってもパズル的な見せ方ではなく、一瞬すれ違うくらいです。それぞれは淡々と描いてはいるものの、しっかりとメッセージ性は伝わってきます。いかにイランでは女性に自由が保障されていないかを見事に描いています。
未婚で妊娠した女性、自分の娘を捨てる女性、娼婦と間違われる女性…様々な女性を主人公にしてその扱いを問うています。その語り口がまさにパナヒですし、軽妙でありつつ扱っているテーマが重いのも流石です。
少し短いかなとは思いましたが、かなり辛くなる映画なので、むしろこの短さで良かったと言えるかもしれません。90分足らずでこれを描ききったパナヒを賞賛したいです。金獅子賞も納得の傑作です。
吉原
本作は分娩室のシーンから始まります。幸せムードな光景かと思いきや、産まれた児が女児であることを知るや否や「超音波では男だった。役立たずの嫁と言われて離縁されてしまう」という衝撃的な発言。
そこから無BGMかつ長回しで(厳密には違うが)描かれるのは、誰を主人公にするわけでもない複数の女性が遭遇する不条理。
彼女達に関係するのは「前科持ち」であることのみですが、彼女達が何の罪で収監されたのかは明示されません。だからこそ彼女達がイスラム教社会で受けている処遇がより強調されます。
本作の監督であるジャファール・パナヒと言えば、上映が禁止される内容の映画を撮る監督として有名ですが、彼の作家人生におけるその流れが出来たのは本作からの様です。
おそらくはイスラム教国家ではない国での上映及び賞賛を狙っていて、自国をターゲットにする気は更々なく、祖国及びイスラム教の現状を世界に伝え、議論を呼ぶことが彼の使命であり信念なのではないでしょうか。
しかし本作で描かれたことを全て鵜呑みにすることはできないし、国家だけの問題ではなく、イスラム教の問題でもあるので、本作で描かれているイスラム教国家における女性問題を無闇に批判することは外野である私たちにとっては非常にナンセンスです。
これがキリスト教社会や日本の様な国での物語であれば、「女性蔑視」の映画という印象を受けるでしょう。しかし、欧米諸国から見たイスラム教の女性蔑視的風習は必ずしもイスラム教国家において女性蔑視という訳ではないことも忘れてはならないのではないでしょうか。
パナヒ監督は改革派の監督なので、彼の眼鏡を通すとイスラム教が悪い様に映ってしまう可能性があります。彼を通して我々が感じたことを全て正しい、イスラム教の教えは悪だと思うのではなく、議論の一助にすることが最善なのではないでしょうか。
<おわりに>
イランにおける女性たちの置かれた立場、その厳しさを描いています。力強いメッセージ性のある作品です。
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