無心への入り口 「わたし」に出会ういのちの対話
ゴルフダイジェスト誌が2020年09月29日発売の2020 No.38号で、「無心のゴルフ」というテーマの特集を組んでくださいました。
そして、特集への記事掲載にあたり、編集者の方が、わざわざ高松まで取材に来てくださいました。この編集者さんは、以前から禅に興味をお持ちで、私の考えを深く理解してくださっています。なので、とても安心してインタビューに答えることができました。
私は、話すのが苦手です。
何かを言おうとすると、どこかぎこちなくなったり、取り繕ったり、相手のことを考えすぎて、結局本当に言いたいことと遠ざかって行ったりします。無心とは真逆の状態です。
しかし、素晴らしい聴き手がいてくれれば、自然に言葉が出てくるのです。これは、自分が話しているという感覚ではなく、聴き手に言葉が引き出されていく感覚です。
引き出されると、「無心」になれます。
無心になれると、さまざまなアイディアが湧いてきます。自分で考えたものとは違う、思考の構造が顕れてきます。新たな枠組みです。そして、自然に考えが整理されていきます。後から振り返ると「自分が言いたかったのは、こういうことだった」と分かるのです。
巧みな聴き手に引き出してもらうのは、本当に心地よい時間です。
普段は、コーチとして人の話を聴く立場ですが、あらためて「聴いてもらう」ことの大事さを感じました。
ちなみにスポーツにおいて、無心でプレーするというのは、究極の集中力状態である「ゾーン」とつながる重要なテーマです。
ただ「無心」は、言葉にしようとするほど遠ざかっていきます。無心を手のひらで掬おうとすると、スッと抜け落ちてしまいます。無心をいったん言葉で切り取ってしまうと、木の枝から落ちた葉っぱのように色褪せてしまうのです。
無心になろうとすると、無心には辿り着けません。でも、無心への準備をすることはできます。
編集者の方に無心で語るうちに、そんな気づきが自分の中に起こってきました。
無心そのものは語れなくても、無心への入り口は、いろいろあるのです。
引き出してもらうというのは、その一つのでしょう。誰かに話を聴いてもらうことで、無心になれます。
私が選手とのコーチングでもっとも大事にしているのは、答えをもって望まないことです。もちろん、私も答えを持つことはあります。
問題に対してこうすればいいのではないかという考えは自然に浮かんできます。それを一旦すべて手放すのです。真っ白な心に戻して、選手の話に耳を傾けます。
ビジネスでのコーチングでもそうですが、クライアントさんが問題だと思っていることがあります。しかし、多くの場合、それは真の問題ではありません。真のテーマは、あなたが見ているものではなく、もっと深くにあるのです。
禅においては、修行を通して、この真のテーマを見られる目を養っていきます。
私は、修行を重ねる中で、既存の「私」ではないもう1人の「わたし」に出会いました。
もう1人の「わたし」は、真のテーマを知っています。これは特別な体験という訳ではありません。
あなたもどこかのタイミングで、もう一人の「わたし」に出会ったことがあるのではないでしょうか。あるいは、どこかでその存在を知っているのではないでしょうか。
「わたし」は、自分を救ってくれる存在です。
それを仏教では「仏」というのかもしれません。
しかし、「わたし」が知っている真のテーマは、言葉にすることが出来ません。
それはあなたの「いのち」だからです。
「自分が苦しんできた理由がわかった」「私が生まれてきた意味に気づいた」「これが自分の使命(ミッション)だ」と話されている方がいます。素晴らしい気づきだと思いますが、恐らくそれは真のテーマではありません。
以前、私がセッションで起こった気づきを禅の師匠にしたときに、「それはいのちの影ですね」と言われました。
いのちの影???
まったく意味が分かりませんでした。せっかくつかんだという手応えを感じていただけに、すごく悔しかった覚えがあります(笑)。
ただ、それ以来、ずっと「問い」があります。
「いのち」とは?
いまだに答えも出ていませんし、言葉にはなっていません。
「いのち」とは言葉にならないもの。
だからといって、諦める必要はありません。
私にとってセッションとは、「わたし」に出会う旅かもしれません。その旅はもちろん、クライアントさんの旅ですが、クライアントさんと一緒に旅をする私にとっての旅でもあります。
セッションの中で、たくさんの気づきが生まれます。たくさんのことが言葉になっていきます。
以前は、「気づき」がコーチングの素晴らしさであり、可能性だと思っていました。だから、セッションでいかに気づいていただくかを研究していました。
どんな質問をすればよいのか。
どんな聴き方をすればよいのか。
一番、クライアントが安心できるコーチのあり方とは?
ただ、禅の修行する中で、言葉にならないものがあることが分かってきました。
言葉になる中で、同時に言葉になっていないことが生まれてきます。
自分を知るほど、分からないことが出てくるのです。
分からないことが多い人ほど、いのちに触れているのです。
いのちは見えませんが、いつもあなたを助けてくれているものです。
逆説的な表現ばかりで、すみません。考えてみれば、禅は逆説の表現ばかりです。
言葉にするということは、何かを切り取るということです。
切り取っていくというあり方が、言語化です。
目に見えないものを見える化できます。
また、言葉を通して、コミュニケーションを取ることができます。
言葉を紡ぐ中で、いろいろ理解できることがあるでしょう。
ただ、切り取ると言うことは、言語になっていないものがあるということです。
言語になったときは、言語になっていないものに出会うチャンスです。
上手く言葉にできないことがあります。
伝わらないことがあります。
最近、「許せない」と思うことがよくありました。
「許せない」という言葉が出てきたとき、「許される」世界に出会うチャンスです。
「許せない」という言葉の周りには、広大な世界が広がっています。
それはどんな世界なのだろう。
ただ、そこに心を向けてみます。
「許せない」だけでは、その言葉はとても固くて、誰も寄せ付けないエネルギーを持っています。
そこに許せる世界が広がっていることに目を向けたとき、そのエネルギーはどう変わるでしょうか?
私の場合は、今から10年ほど前に「許せない自分も許す」という言葉に出会ったとき、孤独なエネルギーが少し周りと交わったように感じます。
ただ、「許せない」も「許す」も、私からの視点です。同じ場所からの言葉といえます。
禅をともに学ぶ仲間は、次のように話していました。
「誰かを許せないと感じた時、ひとつだけ明確にわかることは、自分も誰かに許されていない存在だと言うことでしょうか。人は無自覚に他者を傷つけている事も充分に考えられます。」
許せないということは、自分も許されていない人であること。
「誰かが悪いから許せない」というのは、一方向しか見えていないあり方です。自分も許されていないという真実が加わったときに、その「許せない」は、どう変質するでしょうか。
私は、少し許された気持ちがしました。許せる、許せないに加えて、許される、許されないが交わることで、柔らかくなった感じがします。
そして、本当は許せないのではなく、許されていないのが真実ではないでしょうか。「許されていない」から「許せない」という言葉が生まれてきているのではないでしょうか。
愛するというのは、愛されているから生まれます。だから、飛び込んでいけるのです。
この2つの交わりには、他力と自力が引っ張り合っているような、いい緊張感があります。だからこそ、どんな一瞬も気が抜けません。
そして、とても心地よい安堵感があります。人である幸せを感じます。
人の言葉は、もともと引き出されているものなのです。
引き出される体験をしていくなかで、真の「わたし」へと近づいていきます。
まだまだ言葉になっていない世界があります。そして、言葉になっていないことに心を向けてみるのは、真の「わたし」に近づいていく入り口です。
「無心のゴルフ」は、ゴルフをしない方でも、楽しめる内容になっていると思います。ご興味のある方は、ぜひ読んで見てくださいね。
週刊ゴルフダイジェスト2020 第38号の内容について
「無心のゴルフ 無心とゾーンのメンタルトレーニング」
https://www.zen-mental.com/media/mental-training-innocence-zones/
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
今回、まさか「いのち」という言葉が出てくるとは、思ってもみませんでした。
以前、ある方に、「赤野さんの話し方は営業マンみたいですね」と言われたことがあります。無意識のうちに上手く伝えようとしているのだと思います。
以前は、そこに疑問はありませんでした。むしろ自分の話し方には自信を持っていました。
しかし、上手く話せてしまっていることで、消えてしまっているものもあります。それは、「言葉を紡ぐ」という有機的なやりとりから生まれる自然な言葉です。
一方で書くのは、自分を知るプロセスのように思います。
まさに日記がそうだと思うのですが、自分で自分の心に問いかけながら、思いが引き出されていきます。書きながら、涙が溢れてくることもあります。それは、自分で自分の思いを受け止めたからです。
以前の記事に書いた「ゾーンコミュニケーション」は、「わたしに出会ういのちの対話」と言えるかもしれません。
日記を書くように話せたらいいなあと思う今日この頃です。
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