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『稲村ジェーン』 ヒット曲収録のサントラもおすすめ。ロケ地の鎌倉、登戸に夏を感じる。

評価 ☆



あらすじ
1965年、湘南稲村ヶ崎。ヒロシは病気療養中のマスターの代わりに海岸沿いにある骨董店を任されていた。ヒロシの元にチンピラのカッチャンがやってきた。レストランで演奏しているヒロシの友人マサシが骨董品を横流ししたという。カッチャンはその件でマサシを探しているという。



舞台が鎌倉で、僕の住んでいる近所ということもあるのだが、夏になるとこの映画を思い出す。



『稲村ジェーン』は1990年公開の日本映画である。ミュージシャンの桑田佳祐が監督した作品だがDVDになっていない。なかなか観ることの出来ない伝説の映画としても知られている。この映画に対抗して北野武が『あの夏、いちばん静かな海』を撮ったのは有名な話。どちらも夏のサーフィン映画です。



ふたつの作品はそれなりに面白い。当時、北野武監督が面白いといった友達と『稲村ジェーン』を推薦した友達と二種類がいた。北野監督を推した友達は映画評論家になってしまった……なんてことはありません。普通の人生を歩んでいます。『稲村ジェーン』を推した人はヤクザな人生を歩んでいる……なんてこともありません。実は僕なんだけど。いや、ヤクザな道を歩んでいる気がするが。



僕が『稲村ジェーン』を推した理由は、その破天荒ぶりが気に入ったからだ。サーフィン映画でありながら山に向かうし、物語はかなり滅茶苦茶である。でも、このあと、桑田監督は何本か映画を撮影すれば、きっとすごい作品を残してくれてたでしょう。興行的に成功しないだろうけど。



ところで「イナムラサーフィンクラッシック」って知ってますか? サーフィンの競技会で、稲村ヶ崎で不定期に開催される。2013年に開催されたが、その前までの24年間はまったくなかった。稲村ヶ崎に入ってくるビックウェイブを待ち続けたからである。地元のひとたちには伝説の大会と語り継がれていた。24年ぶりの大会となった2013年には約3000人のギャラリーが集まったそうだ。僕も行きたかったな。さらに2013年以降、地元のサーファーたちは再びビッグウェイブを待っている。何度かウェイティングがかかったが、やはり開催されなかったようだ。



この伝説をモチーフにして製作されたのが『稲村ジェーン』だった。出演は加勢大周、清水美砂など。もちろん音楽は桑田佳祐。伝説の波を待つ青年とそれを取り巻く若者たちの青春物語である。どちらかというと平成というより昭和30年代、40年代くらいを舞台にしたノスタルジックな味付けとなっていた。1990年に製作されたとは思えない。2時間40分の完全版だったものを短縮して2時間になったらしい。



全然違うけど、『稲村ジェーン』にラーメン屋さんが登場する。当時、神奈川県の登戸駅近くを歩いていたら何かの撮影をしていた。テレビだろうなと思っていたのだが、この映画を観てたら、そこのラーメン屋さんが登場してびっくりした。あ、しまった! 桑田佳祐がいたんだ。サインもらっとけばよかった、なんて思ったりもした。このラーメン屋に僕は二度ほど入ったけれど、味もすごかった。『稲村ジェーン』も真っ青な、独特な味でした。あのラーメン屋さんはいまでもあるのだろうか?



この映画はサントラがいい。僕は夏になるとよく聞いている。「希望の轍」「忘れられたBIGWAVE」「真夏の果実」など、名曲が勢揃いである。桑田佳祐は監督をやらずに音楽進んで正解だったのかもしれない。でも、この映画は結構心に残るし、良いカットがいっぱいあったけどな。



こういう観たいけど観られない映画はいろいろある。僕にとって音楽が優先で映像が後になっている作品は『稲村ジェーン』の他には『なんとなくクリスタル』だ。この二本立てができる映画館は多分、世界に存在しないだろう。いろんな意味で。



これよりも簡単な二本立てだったら『モーニングムーンは粗雑に』と『無力の王』を企画してくれる名画座はいないかな。高樹澪出演つながりということで。昔はこういう無理やり二本立てがあって面白かった。『鉄機兵、跳んだ』『沙耶のいる透視図』の二本立ては? 文学賞受賞つながりということで。客が入るかどうかはわからない。テレビドラマとして『家族の選択 貴女の亭主を殺してあげる』(鈴木清順演出)と『ザ・サスペンス「私を深く埋めて」』(堀川とんこう演出)も観たいな。清順作品は時折名画座にかかるみたいだけど。



ただね。テレビ番組は別としても、再発されない作品はやっぱり記憶の中にとどめておくくらいがいいようだ。実際に観直すと意外とつまらないと思うことが多い。ふと、夏の夕闇に思い出して、しばらく海辺を散歩しながら思いを巡らせるくらいがちょうどいいような気がする。



初出 「西参道シネマブログ」 2005-02-25



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