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『プリンセス・トヨトミ』 お好み焼き屋のオヤジに注目。これから父親になるひとに。
評価 ☆☆
あらすじ
2011年7月、会計検査院調査員の松平元、鳥居忠子、旭ゲンズブールが大阪に向かう。松平は「鬼の松平」と呼ばれる男。大食いで天然な鳥居忠子らとともに向かう大阪の社団法人OJOに向かう。監査に問題はなかったが、彼らがお好み焼き屋で昼食を取ろうとしてる時、ある奇妙なことが起こる。
2011年公開の『プリンセス・トヨトミ』を紹介したい。監督は鈴木雅之、出演は堤真一、綾瀬はるかなど。原作は万城目学。思い出すのはフジテレビのドラマ『鹿男あをによし』。このドラマは面白かった。妄想大爆発の万城目学の世界観に思わず笑ってしまった。
このひとちょっと危ないんじゃないか? と思うほどに荒唐無稽だ。『鹿男あをによし』は夏目漱石の「坊っちゃん」をベースにしている。神経衰弱のくだりなんて夏目漱石そのもの。
閑話休題(この表現は漱石が発明)、『プリンセス・トヨトミ』も変な話である。妄想もこのくらい大きい方がいい。大風呂敷だからつじつまが合わないところもいっぱいある。そんなのは当たり前という前提がいい。
だって、これは万城目学の妄想世界なんだから。最初のシーンは誰もいない大阪の街が描かれる。この物語が誰かの夢であることのサインだとすぐわかる。
問題はリアルさだ。荒唐無稽な設定のどこにリアルさを置くか? 普通の映画では細部でリアリティを出そうとする。ところが『プリンセス・トヨトミ』はそうしない。だから酷評が多い。期待はずれというひとの多くは「リアルではない」と不満をいう。まぁ、わからないでもないが、これは細部にリアルを求める物語ではない。
彼はリアリティを出すのに大阪人のメンタリティを突いている。なぜ、大阪人は東京を嫌うのか? なぜ、大阪人は人情に厚いのか? なぜ、大阪人は大阪をこよなく愛するのか? なぜ、大阪人は熱狂的な阪神ファンなのか?
その答えのすべてを「国松を可哀想に思った大阪の人たちが、いつしか大阪国を作り、独立し、陰でもうひとつの日本人の受け継いできた精神性をキープしたから」と説明する。めちゃくちゃ無理がある。だから面白い。
映画はキャスティングでリアリティを出そうともしている。茶子役の美少女、沢木ルカ。登場シーンからすぐにプリンセス・トヨトミだとわかる。トラブルメーカーになるだろうとわかるミラクル鳥居の綾瀬はるかも納得。さらに、中井貴一と堤真一も秀逸。
残念なことに、セットが映画になっていない。映像も撮影方法も映画ではない。特にカメラマンの罪は大きい。出資しているのがフジテレビで、スタッフの多くのがドラマ中心だから仕方ない。
フィルムの良さはなくても、映画としての構図の素晴らしさ、人間の動きの微妙な濃淡、そこに生まれる美しさに対して、もっともっとスタッフたちは敬意を表して仕事をすべきではなかったか。
他にも欠点はたくさんある。しかし『プリンセス・トヨトミ』には失われつつある日本人の精神性がある。金もうけのためだけに生き、自分のためだけに生きることが本当に楽しい? 守るべき誰かもなく、誰かに対して慈しみを感じることもない人生を本当に感動的だといえるのか?
『プリンセス・トヨトミ』は、象徴としての天皇制度を裏写しして、全体主義への危険性をもはらんでいる。そこは否定しない。しかし、典型的だった日本の無口な父親たちが大切にしていた何かが、この映画の中には埋まっている。
父親となった人間には、この映画に何か同感するものがある。これから父親になるひとたちも観て欲しい。そこにかつて日本人が持っていた何かを発見することができるかもしれない。わりと良い映画だったと僕は判断しているのだが。
初出 「西参道シネマブログ」 2012-2-16
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