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非都市圏の進学校サバイバル術(前編)

本日、鳥取大学医学部医学科への合格の知らせが届いた。
この時期に合格発表が出るのは、推薦入試Ⅱ、センター試験の点数が必要で、加えて面接が必須な選考方式である。

この生徒は、高校入試の時期から数えて4年もの間、指導してきた生徒である。最初から医学部医学科志望であった。地元の公立高校へ進学すること以外は特に考えていなかったため、それを見越して高校入試の時期から、高校生活での学習を踏まえたアドバイスを行ってきた。

結果として、英検準1級取得、センター試験84%、自治医科大学一次試験突破、鳥取大学医学部医学科推薦入試Ⅱ合格、という成果を出した。

同様の環境で国公立医学部医学科を志向する生徒に対して役に立つと思うため、この生徒に対して行ってきた3年間のアドバイスをお話ししようと思う。名付けて「非都市圏の進学校サバイバル術」としよう。

⓪-A:前提知識としての地域性把握

非都市圏である地方の高校入試では、進学校といえども倍率が1倍前後である場合が多い(この時点で、公立進学校botなどに上位進学校としてラインナップされるところとは別格であることがわかるだろう)。鳥取県もその例外にもれず、その生徒の進学予定であった高校も、私が通っていたころから変わらず倍率低迷している状況であった。

私立高校がほとんどない地方ならではの動きとして、「大学進学を(ある程度)志向しており、かつある程度のレベル以上の生徒」しか該当高校に出願しないという調整が中学側で行われていた。

生徒数が多い時期にはそのことが選抜生を実質的に高めており、ある程度学力の高い層(つまり、日本語の読解力がある程度あり、暗記するコツもそれなりに掴んでおり、学内でも得点が比較的高い層)が進学していた。

しかし、生徒数が減っていく中で、本来中学側で選別されてきた機能も果たせなくなってきた。全国的な大学進学率の高まりにより、鳥取県でも大学進学を志向し普通科に行かせたい家庭の割合は増えているが、それでも倍率が1倍を切るという、選抜性の非常に低い高校入試となっているのが現状である。

また、鳥取県個別の事情として、医学部医学科への合格を目指し毎年の実績もある高校が県内に別に存在する(米子東高校)ため、生徒が通学に無理のない場合にはそちらに行かせる家庭も多い。

地元の高校では、国公立医学部医学科、東大・京大をはじめとした旧帝国大学に合格するのは、合計して現役では10人前後、年によっては浪人生と併せて30名程度であり、非都市圏の地方高校としては健闘しているといえる。医学部医学科志望、東大志望の多く(少なくとも半分以上)は浪人して予備校に通って合格するという様子です。

⓪-B:非都市圏地方進学校の課題

当該高校に限らない、非都市圏の地方進学校の課題を紹介する。

ある地域でのトップ高校(特に学力においては、全国レベルの強豪ではない場合)というのは、「全国での学力的な立ち位置の低さを実感しづらい」という逃れられない課題がある。

合格実績見れば一目瞭然じゃないか!と卒業生や外部の人は思うのだが、どうも内部にいると何か地元でトップだしなんとなくできるような気持ちになってしまうらしい。

実際にこうした高校に通っていた経験のある人なら何となく共感してもらえると思う。

「全国での立ち位置は模試で把握できるじゃないか!」という声が聞こえてきそうだ。

確かに、高校において、全国模試は各出版社・予備校のものを使って学内で行われている。しかし、その意義について生徒に対してほとんど実用的な説明がなく、危機感をなんとなく与えるための何となくの材料にしかなっていない。

模試の意義について説明する実態は、「模試作成側が付録として作る冊子を配る」程度である。しかし、それを何の指導もなしに渡して読む可能性は生徒たちの元々意識の高さに比例する。

もともとできる生徒はそれらを読んで参考にする可能性が高いが、読まなかった生徒個人が模試から何がしかの実のある反省をする事はほぼない。いくらB社が資料を作り込んでいようが、本人たちの手に渡る際に指導がなければ、ほとんどの生徒は「紙」としか認識しないのだ。

さらに、全国レベルの立ち位置を測るための情報として重要な模試については、先生側にとっては当たり前の事実であるのに、生徒たちにはほとんど伝わっていない情報がある。その1つが「偏差値は模試の回数を重ねるごとに、次第に下がっていく」ことだ。

多くの公立高校で1・2年のうちに受験する模試のほとんどは「大学へ進学を希望しない層」も受験しており、結果として大学進学を志向する生徒が多い進学校の生徒たちは偏差値が高めに出る。特に進学クラスにいる生徒ほどそれが顕著に現れるため、自分はある程度できるのだと勘違いする。相当謙虚な生徒でも、多少の奢りが発生するほどに。

しかし、受験学年になると、「それまで模試を受験していなかった超進学校の生徒たち」もターゲットとなるため、それまで高偏差値だった生徒も、総じて偏差値は下がる。

一般的に、先生方はこういったことを生徒たちとは共有しない。先生方は、模試の平均点や標準偏差を見比べて、昨年以前の生徒と比べてどうだこうだ、という話をしている。

一方の生徒たちは自分の模試の成績表を参考にするしかないが、そこには次第に下がっていく偏差値と判定しか頼るものがない。絶望である。これをどのように見ればよいかという指導もほとんどないか、1回そうした指導をやっただけで伝わったことにしているのがほとんどです。

これは全国広く行われていることであり、私はこの事はとても問題だと考えている。必ずしも指導側の持つ情報を生徒が知る必要はないと思うし、また、その点において情報の非対称性がある程度あるのは仕方がないことである。しかし、生徒たちが受け取った情報がどのような意味を持つかは教えた方が、自力で自分の立ち位置を考えるきっかけになるのは間違いない。こうしたことを、自分で勝手に調べるやつが成長するのは当然だ。ただ、それをただ待つのが指導だというのか。私はそうは思わない。

私は、こうした現状を把握したうえで、生徒がどのようにサバイバルし、第一志望の合格を勝ち取るかを、生徒本人が自力で考えていく必要があると思い、それを意識して指導を行なっている。

こういった状況を「わかったうえで、覚悟して」入学し、いくつかのポイントを押さえながら学習を続けることで国公立医学部医学科へ現役合格するほどに学力が向上する可能性が上昇することは間違いない。

さて、ここからは当該生徒についての話に移っていく。

①高校入試前

私のところに来る以前から、実力テスト(鳥取県では250点満点)では8割以上得点するようだったから、高校入試対策はせずに、高校の内容を先取りしてやらせることにした。そもそも大学に行くと言う意思はあったので、高校に入ったら勝手に大学に行けると思ってはダメ、とか、結局普段から淡々と勉強できているやつが行きたいところに受かる、そこから目を背けていては目標達成なんかできない、という当たり前のことを叩き込んだ。

当該生徒は上の兄姉がいて、大学受験をする様子は見ていたので、大学入試の難易度に関しての説明は、実感があったようだ。

実際にやってもらったこと
英語は、復習を兼ねて、高校レベルの超基礎英文法・英文読解の勉強を行ってもらった。とってもやさしいシリーズと、ひとつひとつわかりやすくシリーズは中学レベルがわかっている生徒にも勧めやすく、非常に有用だった。

これらが終わった後は、東進のレベル別問題集の2〜3を与えて、問題をただ解くだけにせず、さらにパラグラフごとの要約を行わせた(安河内方式)。読解するにあたっては内容を掴むことを優先すること、そのために構造分析を行うこと、学校の授業でやりがちな完全な和訳を考えたりせず、読解スピードを下げないように指導した。

数学は、高校入試合格後から、数学1Aの先取りを行った。読解力がある生徒だと判断し、マセマの「初めから始める数学」を読み、不明点は質問しつつ、例題を解くよう指示した。答案の書き方も、なるべく解答例を真似して書くようにさせた。

高校入試に対しては、学校で与えられた新研究という問題集を繰り返し取り組み、特に理科と社会については何度も繰り返して完璧にしておいてほしい、と伝えた。

②高校1年時

案の定、高校入試は倍率1倍前後で変わらず、無事に合格した。高校入学直前までは先取りの指導をしたが、高校入学後は、毎週の学習報告と毎月1回の面談のみに切り替えた。

面談と学習報告のみ、と聞くとギョッとする保護者の方や生徒もいるようだ。「授業しないのにお金をとるの?もったいない!」というのがその理由だそうだが、わたしから言わせれば、授業を受けていればよい、授業をしている場所にいれば成績が上がると盲信するような態度では、そもそも学力など上がらないと思っている。

むしろ、学校での授業をふまえて、どのように自学自習を組み立てるかに焦点を当てて指導したほうが、生徒の学力を上げるには好都合なのだ。

授業をただ聞いているだけでは、授業中には学力は上がらず、そこで習ったことを物にしてこそ学力としてカウントできるのだ。

こう言えば誰にでも理解してもらえるのだが、何しろ授業をしないことに対する拒否反応は強い。「授業をしない」とわざわざ書いてあるのに、どのような授業かわかりません、と問い合わせがあるぐらいなのだ。

学校で過ごす時間は誰にとっても平等なわけだから、放課後にチマチマ工夫するよりも、学校の時間をどのように過ごすかの方がよっぽど大事なはずなのだ。

少し横道に逸れたが、大事な話をさせてもらった。

ここからは科目別に気をつけたことと実際の進捗を説明していく。

数学
高校1年時は、貯金があった(入学までに数学1Aの全範囲を一通りやった)ため、数学は復習に徹してもらった。学校で課される課題の量を瞬時にこなすことを徹底してもらった。

①なるべく授業中に済むものは済ませる/②休憩時間に数問でもできるようならやってしまう/③課題を先読みして、余裕のあるときに先までどんどん進めて、どうせ提出を要求されるため全部ノートにやっておく。

などのポイントを伝えた。

学年後半になるにつれて、数学2Bを少し先取りさせた。全体を復習する教材として、基礎問題精講と標準問題精講を活用してもらい、1年の間に1Aの範囲は基礎→標準を一通りやりあげて、2年時以降も折を見て復習するよう指示した。

あれ?青チャートとかじゃなくていいの?と思われる方もいるだろう。教材としてコンパクトなものを選んだのは、ちゃんと理由がある。

学校で課される数学の課題が「4STEP」と「FOCUS GOLD」、さらに「リンク」、先生のプリント、という感じでとにかくありとあらゆるものを、同じ問題をやらせないぞ!という勢いで冊子を変えられるためだ。それに対応するべくコンパクトな問題集を提案して実際にやってもらっていた。もちろん、不足を感じたら「FOCUS GOLD」で追加して演習するように指示はした。

また、4STEPのような、計算練習・公式確認が中心の問題集については、なるべく授業中に並行してやってしまうように指示をした。授業中にただ聞くだけの時間を作ってしまうのはもったいないためだ。聞いてる側から演習してモノにしていくつもりでやるように、と強調した。

英語
英文法をさらに綿密に仕上げるため、「今井の英文法教室」を使って、英文法についての「説明」をできるように意識させて取り組ませた。

この本はそこまで網羅性が高いわけでもない(入門書に比べれば十分詳しいが、網羅的参考書と比べたらどうしても網羅度は下がる、程度)が、説明が非常に丁寧なため、この「文法の説明に情熱を注ぐ」ことを印象付けるために2〜3周取り組んでもらった。

追加して「基礎英文解釈の技術100」を一通り取り組ませた。本人に、入門70と基礎100と選ばせて基礎100を選んだため、この時点で相当な基礎力がついていたと思われる。人によっては無理せず「入門70」の方をした方が良いし、今なら「入門 英文問題精講」の方がよいだろう。

また、当該生徒はのちに英検準1級を合格するのだが手厚くやらせたのはリスニング対策である。1年時で受けたGTECの結果からも、リスニング技能の強化が必要なのは明らかだったため、英検対策を準2級から始める際には、リスニングを徹底しろ、油断するな、これを全然練習せず当然のように落ちるマヌケがたくさんいるのだ、と強調してやってもらった。ちなみに中学以前で英検は一切受験しておらず、いきなり準2級から受験した。

また、早期から鉄壁を用意してもらい、学校の単語帳と並行してもらった。

当該生徒に言ったか覚えてないが、基本的に辞書は「英作文」に入ってから使えば良いと指示しており、学校の授業の予習で調べる程度で辞書をひくな、単語帳の索引を引いてくれ、と言っていた。たかだか学校で課される長文を読む際に辞書を使うのは、情報量多すぎるし、初心者が使うと単なる単語の意味当てはめゲームになる。むしろ単語帳に載っている意味を瞬時に出るように普段から練習しろ、と。これは賛否両論あると思うし辞書を引く派の意見ももっともなので別に強制しない。

国語
国語については、とにかく古文漢文の暗記事項を逃すと勉強にならないうえに授業が無駄になるのでそこを徹底させ、実際にしっかり覚えてくれた。読解力の観点ではほとんど申し分がなかった(当該生徒は数学のマセマで自力で読解できたので、そう判断した)ので、現代文はセンター対策ぐらいで特に手入れをしなかった。

一般的に、現代文に関しては「やさしく語る現代文」と「入試現代文へのアクセス 基本編」をやれば、理系ならほとんどの大学(あとは共通テスト対策をやれば良い)は十分だろう。あとは好きな本をたくさん読んでもらいたい。難関大志望者なら、論理トレーニングをやって欲しい。

ちなみに、国語については現代文・古典ともに学校の学習があまり負担にならないように気を付けろと言ってあった。例えば書き写すだけの予習は何の意味もないと思うので、時短でやるとか打ち込みでやるとか工夫をすべし。また、授業中も余裕があることが多いために、むしろ授業中にいろんな調べ物を先取りしてやっておくなどして、自習時間を食わないように気をつけて、と指示をしてあった。

理科・社会
理科基礎(1年時は生物基礎と化学基礎)や社会(1年時は現代社会のみ)は、必要なら参考書を買うように指示をしたぐらいで、授業の範囲を完璧にすることを徹底させた。特に、受験でも使うことになる化学基礎は覚えることが多いというのを意識させて、油断せずに内容がわからないところを徹底して復習して、できればインプット用の本「化学の新研究」を最初から使ってくれ、と言っておいたし、実際に買って、少しは使っていたようだ。本格的に使うのは2年以降。

その他気をつけさせたこと
夏休みや冬休みに、県外の予備校や県内の映像授業系予備校(県庁所在地の東進衛星予備校など)で、医学部医学科入試で戦うことになるライバルがどんな授業を日々受けているのかを確認してこい、というアドバイスを行った。

何しろ県外予備校の講習へ行くにも、それなりのお金がかかるわけだから、推奨に留めたのだが、実際に、高3になるまでに、県外予備校の講習に2回、映像授業の講習(東進の特別招待講習)を1回、受けに行った。これは、上記の地域性の課題で述べた「全国での立ち位置が低いことを実感しづらい」ことを克服するために行ったものである。

前半の最後

とても大事なことを伝える。

当該生徒は、他の生徒と比べても、普段の学習時間の確保が上手で、平日はコンスタントに2〜3時間程度、土日で5〜6時間は勉強していた。しかし勉強だけでなく趣味である映画鑑賞もよく行っていたし、1年の終わりまでは部活もやっていたし、音楽活動もしていた。

これが受験学年になると、平日で3〜5時間、土日で8時間以上が当たり前(そうでない日もあったが、大抵は模試などが理由)になっていた。

成功要因としては、この「行動習慣」が一番大きいことを付記しておく。学習習慣を確立できない生徒は、いくらその場での瞬間最大風速が強くても、本番までの持続ができずに最終的に運頼みで突破するしかなくなる。そして、運で受かってしまう人も少なくないので、勘違いする人が多い。学力を伸ばすのに、確実なやり方でやっていこう。

後編へ続く

自己紹介

この記事を書いた私はドリームラーナーズの石原と申します。鳥取県倉吉市で進路指導と学習法指導の塾を運営しています。学習指導は中学生・高校生・大人、英語の指導は小学生から対応しています。LINEなどを活用して、遠隔地でも進路指導・学習指導に対応しています。

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