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成功企業のブランディング事例 Vol.8「パタゴニア」

成功企業のブランディング事例シリーズのVol.8へようこそ。
(Vol.7を見逃した方は、こちらからお読みください!)

本シリーズでは、様々な企業をピックアップし、その企業のブランディング手法や、それによって得られた効果についてご紹介します。

ニューヨークでサービスをローンチし、一年で約55,000ユーザーを獲得したZeBrandが、ブランディング初心者にもわかりやすい解説を目指します。グローバルで展開するブランディングサービスで提案している3つのステージに基づいて、体系的に企業を分析し紹介していきます。このシリーズを読みながら、ブランディング知識を蓄えていきましょう。

ブランディングに興味はあるものの、

・ブランディングが実際どんなメリットを企業にもたらすのか知りたい方
・ブランディング知識を蓄積したい方

に役立ちます。

ブランディングの概要に関しては、こちらの記事をご参照ください。

Define: ブランドの核となる方向性を整理し、定義する
・ブランドDNA
Design: ビジュアルアイデンティティをデザインする
・ブランドストラテジー
・ビジュアルアイデンティティ
Deliver: ブランドを世界中に届ける
・ブランドアセット

Refine: 世界や顧客の変化に合わせてブランドを見直す(Define, Design, Deliverを繰り返す)
・ブランドコーチセッション
・ブランドフィードバック
・ブランドスコア

ZeBrandによって定められたブランディングのステージの概略
Define、Design、Deliverのサイクルでブランディングを進めます

パタゴニアについて

パタゴニアとはアメリカ発祥のアウトドアブランドです。ロッククライマーであったイヴォン・シュイナード氏が1957年に立ち上げたロッククライミング用具の製造販売会社が前身にあります。パタゴニアという社名は南米のパタゴニアに由来し、「はるかかなたの、地図には載ってないような遠隔地」「どの国の言葉でも簡単に発音できる言葉」といった理由から名付けられたと言われています。
パタゴニアの製品はどれもデザイン性や機能性が高く、長年愛用される商品が多いことが特徴です。若いブランドが台頭し、入れ替わりの激しいアパレル業界で半世紀にわたって生き残り続けるパタゴニアの成功の秘訣を今回は探っていきます。

パタゴニアのDefine 〜ブランドの核となる方向性を整理し、定義する〜

パタゴニアの特徴

パタゴニアは、企業ではありながら利益追求だけでなく、環境保全活動に熱心な点が特徴です。パタゴニアは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」というミッションを掲げています。Webサイトを見るとパタゴニアの考えや、パタゴニアの活動が取り上げられており、パタゴニアの環境に対する強い思いを感じることができます。

現在のミッションは、2019年に新しく刷新されたものになります。元々は、「最高の商品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境機器に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」といったステータスでした。変更によって、ミッションがシンプルなものへと大きく変わりました。パタゴニア日本支社の環境・社会部門ディレクターの佐藤潤一氏は理念の変更について次のように語ります−「以前の理念には『How』どうやって私たちが環境危機への対策を実行していくかが書かれていた一方で、新しい理念は『Why』その理由だけしか書かれていないことがわかると思います。この変更には、これからは『How』といった手段はスタッフ自身に考えてもらいたいといった想いが表れている。」

一般的な企業では、環境について考えるのは、CSR部門など一部の担当スタッフに限られる場合が多いですが、パタゴニアでは部署に関わらず社員全員が意識して環境問題に取り組むことを求めています。

パタゴニアの企業風土

Unsplash / photo by Marvin Meyer

パタゴニアの企業風土はとてもユニークで変わっています。

パタゴニアでは出勤中でも「いい波がきたからサーフィンに行ってくる」といって自由に仕事を抜け、「いってらっしゃい」と送り出す有名な文化があります。

『社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論』(東洋経済新報社)

ただサボって遊びに行かせることを許しているわけではなく、この様な文化を作り上げることには狙いがありました。

パタゴニア創業者のイヴォン・シュイナードは社員をサーフィンに行かせることで以下の狙いを達成できると著者に書いています。

  1. 責任感を持たせる
    一人一人が自分の仕事を把握し、責任を持つことで度々上司にお伺いを立てることなく、好きなタイミングでサーフィンに行き、空いた時間に仕事をこなすことができるような組織づくりを望んでいます。

  2. 効率性を上げる
    好きなことを思いっきりできれば仕事も捗ります。何かを我慢することでストレスが溜まるくらいなら、一生懸命仕事をして好きなことをする時間を作った方が効率が良いのです。

  3. 融通をきかせる
    サーフィンは前もって予定を立てることができないからこそ、サーフィンに行くことを許可するには仕事のスタイルをフレキシブルなものにしていく必要性が生まれます。

  4. 協調性を持つ
    サーフィンに行っている間のフォローを他の社員ができる様な雰囲気がパタゴニアにはあります。周囲がお互いの仕事を知っていることで、誰か一人が仕事を抱え込むことなく、トラブルがあった際もお互いで助け合えるようになります。

  5. 真剣なアスリートの採用
    アウトドア製品を開発・製造・販売しているからこそ、自然やアウトドアスポーツに深い経験と知識を持つ必要があります。だからこそ、サーフィンを許可する必要があるとのことです。

これらを踏まえると、パタゴニアのサーフィンの文化も理にかなった文化だと思えるのではないでしょうか。社内の文化は、ブランドとしての一貫性を保つために重要な要素になります。社員全体が一つの方向を向いて進んでいくためにも、社内文化への意識も、抜かりなくもっておきましょう。

パタゴニアのDesign 〜ビジュアルアイデンティティをデザインする〜


パタゴニアの理念や企業文化を理解したところで、実際のパタゴニアのデザインについて見ていきましょう。

パタゴニアのロゴ

まずはパタゴニアのロゴに着目します。パタゴニアのロゴはパタゴニア地方に位置する、アンデス山脈の山である秀峰フィッツ・ロイの稜線をシルエットで表現しているそうです。背景の手描き感のあるカラフルな空が親しみやすさを感じさせます。ロゴタイプは特徴的でポップな印象を与えますが、一方で白いPatagoniaのフォントがぐっと引き締まった印象にしてくれています。また、どんなカラーにも映えるデザインのロゴを使用することで、さまざまな商品ラインナップに対応できる様になっている点もこのロゴの良さと言えるでしょう。

また、パタゴニアの実際の商品についても見ていきましょう。例えば、新着製品に関してですが、3月時点では、以下のコメントとともに、おしゃれでシンプルな服が売り出されています。
「春の新着製品をお届けします。セージを思わせるグリーン、ヘムロックの木の様な落ち着いたトーン、そして温かみのあるイエローとブラウンが早春に彩りを添えます。春の訪れを待ちながら新しいコレクションをぜひ探索してください。」

https://www.patagonia.jp/shop/new-arrivals

最新の流行に乗った3年ほどで飽きられてしまう服ではなく、10年間ほど着続けることができるような服を目指して作っているそうです。

パタゴニアのDeliver 〜ブランドを世界中に届ける〜

パタゴニアは、ブランドの精神を体現し、理念を達成するためのキャンペーンをたくさん行っているので、今回はその中の3つをご紹介します。

Don’t Buy this Jacket 〜このジャケットを買わないで〜

2011年11月25日にニューヨーク・タイムス紙に掲載されたパタゴニアの広告

パタゴニアは、2011年のブラックフライデーの時期にニューヨークタイムズの広告であえて「Don`t Buy This Jacket」と謳う広告を掲載しました。当日は、米国アパレル各社がセールを仕掛け、最も消費者の購買意欲を換気する日だったにも関わらず、あえて、その日に大量消費への警鐘を鳴らす広告を打ったのです。売り上げを伸ばす必要はある一方で、より環境に配慮するには人類全体で消費を減らす必要があるという考えから、購買に対してよく考えてもらうことを促す必要性があると感じたそうです。この姿勢に賛同する人がいる一方で、偽善者だと批判する人もいました。ただ、注目したい点は、結果的にこのジャケットの販売が伸びたということです。

Worn Wearプラットフォーム

Worn Wearサイトより

こちらはパタゴニアの製品をより長く使うためのプラットフォームとなっており、衣料品のリユースを促進する事業です。リユースの拡大は新品の販売を減らしてしまう恐れがある一方で、このようなプロジェクトを数年前からスタートさせています。元パタゴニアの社長兼CEOであるローズ・マーカリオ氏によると、「個々の消費者として惑星のために私たちができる最善の行動は、モノを長持ちさせることです。適切な手入れと修理によって私たちの製品の寿命を伸ばすという単純な行為は、長期間にわたってモノを買う必要性を減らし、二酸化炭素の排出と廃棄物及び製品を作るための水の使用量を削減します。」と述べています。Worn Wearのプラットフォームサイトを実際に訪れると、各商品ごとにどの様に手入れや修理をすれば良いのかについてわかりやすく写真付きで解説がされています。他にもWorn Wear College Tourというプロジェクトでは、ウェアの修理やセルフリペアの方法を共有し、これからの未来を担う学生の皆さんと「責任ある消費」とは何かを共に考えるため、全国11大学を回るツアーを行っていたり、実際の店舗に持ち寄ってもらったウェアをリペアスタッフが実際に修理するといったイベントを開催していたりと、さまざまな活動が展開されています。

プロモーションビデオの作成

環境保護活動を続けるパタゴニアの取り組みの認知を高めるため、取り組んでいる自然保護活動について言及したプロモーションを実施しています。パタゴニアのプロモーションビデオの特徴は、先ほど説明したDon't Buy this Jacketの様な広告戦略などからわかるように、ただ製品を売り出すようなビデオでは無いという点です。例えば、合成殺虫剤を含んだコットンを使用するアパレル業界の実情と、農薬などを使用しないオーガニックコットンを使用するパタゴニアの取り組みを自然な形で訴求する記事や動画を制作し、配信/SNSで拡散を行いました。他にも、創立50周年を迎えたパタゴニアのプロモーションビデオでは地球という、私たちの唯一の故郷を守るためにはどうすれば良いのかという人類の大きな問題について考えさせられるようなビデオになっています。

創業50周年を迎えた際の記事より

まとめ

パタゴニアが愛される理由は、しっかりとした理念をもち、一貫して環境への強い意識を保ち続けている点にあるのだということがわかったのではないでしょうか。

成功企業のブランディング事例シリーズでたくさんの事例を知ることで、ブランディングに関する知識やアイディアを蓄えることにつながります。本シリーズの他記事にも興味がある方は、こちらからご覧ください。

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