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生き様は音楽で

 平穏を愛している。変化が何よりも怖いので、普通に、無難で、代わり映えのない、そんな日常を欲している。人生つまらないって思える時、私はなんやかんや元気なのだ。

 新しいことを始めるエネルギーすら持ち合わせていない。取り巻く環境、人、流れていく風景が恐ろしく、自分だけ無の空間に取り残されていくような感覚に陥ってしまう。変化に疲弊し、ぼんやりとした希死念慮がずっと心にある。風呂にも入れず一日中ベッドから動けない、そんな日々を送っていた。

 昨日も帰宅して意識を失ったように眠り、明け方に目を覚まし、また眠った。カーテンから漏れる朝日は美しかった。外に出たい、でも動けない。人生と闘う人たちのドキュメンタリー動画を垂れ流して、私は自分の打たれ弱さを再認識するのだ。十分幸せな状況に甘える自分のこと、踏ん張れない自分のこと、それを責めるでも受容するでもなく、ぼんやりと消えたくなってしまう瞬間がある。

 もうすぐ好きなバンドが解散するから、今日はカレーを作って、ライブ映像を見ながら3%の酎ハイで乾杯する。この予定だけは今日布団に包まりながら決めた、唯一のことだった。

 家にやたらあるルー以外の材料を買い出して、知り合いからもらったローリエを入れて煮込み、なんの変哲もない普通のカレーライスを作った。久しぶりのお風呂も済ませたら、それだけでもう自分がとてつもなく偉い人間に思えてくるから、やはりお風呂に入るという行動には、一種の浄化作用があるのだろう。

 轟音を全身に浴びたとき、生きているって実感できた。画面の中でもやはり彼らは格好良かった。生のライブを見たのは一度きりだったが、音の歪みに酔い、湧き上がる言語化できない衝動や心のヒリつきを、耳で感じた体験だった。

 日々の焦燥感を昇華してくれたのは、いつも彼らの音楽だった。肯定も否定もしないけれど、漠然と抱えていたモヤモヤを吹き飛ばしてくれるような、音や言葉や生き様だ。

 映像に見入っていたらカレーの味はよくわからなかったし、普段飲まない酎ハイのせいか、いつもより音がやけに刺さって痛かった。解散宣言に対して嫌だと声を上げる観客に、諸行は無常だと返す姿を私は忘れない。

 取り巻く環境や、誰かとの関係性が変わること、大好きなバンドが終わることも、無常である。永久不変なものなどなく、事実、それを受け止めて生きていかなくてはとハッとさせられた。

 ありがたいことに、今すぐに音楽が消えるわけではないので、これからもそばに傍にいて、私を奮い立たせてくれるだろう。こんな音楽に出会えたこの人生は、すでに最高である。

 生き様は音楽、死に際は文学。これが人生のモットー、そんな風に生きていきたいと思っている。
 ナンバーガール、最高の生き様を見せてくれてありがとう。音楽のようにドラマチックな日々を生き、美しい文学のような人生の終わりを迎える日まで、明日からも懸命に生きていく。

#エッセイ #日記 #音楽 #numbergirl  #ナンバーガール #文学


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