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Une Semaine à Zazie Films 週刊ザジ通信【2月15日㈬~2月21日㈫】

これを書いている今日は2月21日。ベルリン国際映画祭出張、早いもので私にとっての最終日となりました。映画祭自体は26日の日曜日まで続きますが、EFM(European Film Market)と呼ばれる見本市は明日22日まで。日本から参加していた同業各社の皆さんも、今日明日で大部分が帰国の途につきます。マーケットのメイン会場であるMGB(Martin Gropius Bauという美術館)では、明日の最終日を待たずにブースの撤収作業をしているセールス会社も多く、“祭りのあと”感が濃厚に漂っていて、セラーとバイヤーが「また5月のカンヌで!」と挨拶を交わす風景に、ちょっとおセンチな気分になります。

見本市のメイン会場 Martin Gropius Bau の外観

先週の通信でも書いた通り、私のベルリンはミーティングが中心で、観た映画の本数は10本にも満たないのですが、試写をメインにされていた方は、1日5本、6本と観る作業を1週間近く続けていたのですから、30本以上観ていた方はザラにいらっしゃると思います。「映画観るだけの仕事なんて、ラクで楽しそう」なんてのは全くの誤解で、これが結構体力を消耗する作業。語学力の個人差ももちろんありますが、英語映画はヒアリング能力を試されるし、非英語映画は英語字幕を目で追うのが一苦労です。「これだ!」と思える作品に出会えれば疲れも吹き飛びますが、そんな幸運はそう簡単には訪れてくれないのが常。皆さん、収穫はあったのか気になるところです。

他社さんのことはともかく、自分はどうだったのか、と申しますと、「いいかも…」と思えた作品が1本あったので、セールス会社にリンクをもらって、東京にいる宣伝スタッフにオンラインで観てもらう手配をしたところです。皆が気に入ったところで、高くて買えないかもしれないし、他社さんが素早い判断で買っちゃうかもしれないし、この先はもうその作品と“縁があるか、ないか”、という感じ。しかしながら、思惑通りに買い付けが出来たとしても、公開してヒットさせることが出来るか否かは、これまた別の問題だったりします。それがこの仕事の面白いところでもあるんですけども….。

マーケット試写のメイン会場は、街中のシネコン CINEMAXX

話はちょっとそれますが、出張前の週末は2月10日から公開された新作映画
を“まとめ見”してからベルリンに出発したのですが、その中の1本、11日に観たフィンランド映画『コンパートメントNo.6』は満席大盛況の中での鑑賞となりました。都内は1館だけでの上映とは言え大ヒットと言って全く差支えのない興行です(好評を受けて2週目からは1日7回上映態勢!)。一昨年『TITAN / チタン』がパルムドールを獲ったカンヌ国際映画祭で、次席にあたるグランプリを受賞した冠はあるし、同じユホ・クオスマネン監督の前作『オリ・マキの人生で最も幸せな日』はファンの多い映画なので、元々注目度は高かったとは思いますが、メインキャラクターの2人がいわゆる美男美女ではなく(イーサン・ホークとジュリー・デルピーではない)、寝台列車でモスクワから世界最北端の土地に向かう、という設定に旅心は誘われるものの、実際画面に映し出される景色は暗くて陰鬱。そう簡単にロマンチックな気分に浸らせてはくれません。しかし鑑賞後感は抜群で、始めは「え?この人がヒロイン?この人が相手役?」と思っていた2人が、ラストには愛おしくてたまらなくなる素敵な映画なのでした。

なので、口コミで評判が広がってジワジワお客さんが増える…というのなら理解出来るのですが、なぜ初日から満席続きなのでしょう?理由を探るべく週明け、日頃からお付き合いさせて頂いている配給のアット・エンタテイメントさんの方に「なんで?」とお電話してみました(笑)。“この著名人からもらったコメントが効いた”とか、“このツイートがバズって潮目が変わった”とか、何か明確な原因があるのではないか、と。しかしその方も「まさかここまでとは」と驚いていて、ヒットの方程式をこっそり教えてもらおうと思った目論見は外れてしまいました。

コロナは遠くになりにけり。マーケット会場 スペインパビリオンのカクテルタイム

べルリンで何をつらつらと書いているのかというと、ヒットの法則が分かれば買い付けには苦労しない、ということが言いたかったから。 マーケットでは、セールス会社の担当者が新任の場合は、私や私の会社のテイストを承知していないので、「で、どんな映画を探してるの?」と聞かれることが多いのですが、そんな時は即座に「ヒットする映画!」 と答えます。 8割方の相手は肩をすぼめます(笑)。でも“ヒットしそうな映画”を追い求めるあまり、あざとさ炸裂な買い付けに走ると上手くいかないのもまた事実。結局最後は、どんな困難さが待ち受けていようとも、自分が“惚れ込んだ映画”をやるしかない、という至極当たり前な結論に達するのでした。

おっと、ベルリン映画祭の具体的なレポートをするつもりだったのに、例によって一人語りになってしまいました。しかし今回の映画祭、私的な一番のハイライトは、セールス会社のブースが入っている高級ホテルに出向いて、エレベーターで映画祭の審査員長と偶然乗り合わせたこと。クリステン・スチュワートですよ!旦那!

texte de Daisuke SHIMURA

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