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【ss】文芸部 #シロクマ文芸部

文芸部に入部して4ヶ月、僕は今【夏】を探して彷徨っている。

文芸部に入ったのは同じ中学で顔見知りの先輩に誘われたのがきっかけだった。骨太のホラーやミステリーが得意なその先輩は、文学サイトに投稿しては高評価を得ている。

そんな具合に僕たちの文芸部は少人数ながらも日々精力的に活動している。夏休み明けの学祭に合わせて発行する文芸誌のテーマは【夏】だ。

そんなわけで、僕は今【夏】を探して町を彷徨っている。

蝉、入道雲、向日葵、甲子園、プール、夏祭り、終戦、夏の恋‥

どれもよくある夏のテーマだ、でも僕が書きたいのはそんなのじゃない。特別な能力を持った主人公の奇抜なストーリー、誰もが驚くような過激なセリフ、誰も思いつかない夏の物語を書きたい。

たどり着いた無人の神社の縁側に腰掛け、蚊に刺されながらも書いては消し、書いては消し、結局1行も進めずにいる。

よくある設定、ありきたりな展開、手垢のついた比喩、締まりのないオチ。僕の紡ぎ出す物語はなんてつまらないものなんだろう。

高台にあるこの神社からみえる町は、山に囲まれ南側に大きな川が流れている。どこにでもある地方の町の、どこにでもいる普通の僕にありきたりじゃない物語を創り出す事など出来るのだろか。

太陽がジリジリとアタマを焼く。向日葵は余裕のある顔をして僕を見下し、蝉は無能な僕を嘲笑う。

結局、なにも書けないまま日が暮れた。

夜になっても盆地のこの町は熱が逃げない。
それでも弱っている人間に夜は優しい。だからほんの少しだけ肩の力を抜いて夜の町を歩いていく。

遠くから聞こえる祭の太鼓、テレビの音と夕食匂い、コンビニの灯りに集まる蛾、編笠を被った浴衣姿の女性達とすれ違う。

僕の町、ありふれた、どこにでもある町、遠くない将来、多分思い出になる町。

振り返って僕の歩いてきた町の夜の景色をみる。

僕の町、ありふれた、どこにでもある町の夏の夜のちいさな物語をまずは書いてみようとふと思った。


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