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【掌編小説】かにぱん

幼馴染のミオに好きな先輩がいると打ち明けたのは新学期が始まってすぐの頃だった。

先輩とは夏合宿で少し仲良くなり、様子を伺いながらなら、ふざけたり出来るようになった。

そして文化祭翌日の今日、先輩に告られたとミオに言われた。「ごめんね、ごめんね」と泣くミオをおいて学校を出た。

そんな訳で家からも学校からも遠い公園のベンチに座ってかにぱんを食べている。

何かをはじめるのはいつも私だけど、最後に成果をあげるのはミオだ。

私が入るからと入部した美術部で賞を取ったのはミオで、一躍部の中心になった。

ショッピングモールで迷子を保護した時もそうだ。泣きじゃくる3歳児に声をかけたのは私だったのに、保護者にお礼を言われたのはミオだった。私はミオの横でオマケのようにぼーっと立っていた。


最も残酷な方法でかにぱんを食べてやろうと決めた。足を引きちぎり、指ですり潰しながらこねる。「痛いだろうーどうだ痛いだろうー」とつぶやきながら、魚の餌のような丸い塊をたくさんつくってやった。


勉強ができるミオはもっと上の高校に行くと思っていたのに、何故か同じ高校に入った。学校帰りのコンビニでミオはいつもかにぱんを買った。

「どこが美味しいの」
「噛み締めるたびに小麦の香りがぶわっとね」
「うざ」

この会話、何回リピートしたっけ。
ミオはカニの足をまとめてちぎり、胴体の方を私にくれた。


「ごめんね、ごめんね」と謝っていたけど、先輩と付き合わないとは言わなかったな。

オドオドして見えて芯のあるミオだから、先輩のことが好きだったら、悩んだとしても結局付き合うだろう。私はそれを近くで見せられることになるんだ。


丸めたかにぱんをちびちび齧っていると、地面に落ちたかにぱん目掛けて鳩が寄ってくる。おどかそうとしたら急に飛び立ったので、反対に自分の方が驚いてしまい、益々惨めな気持ちになった。

大学は絶対に違うところに行こう。ミオがついてこれないくらい遠い町に行って、新しい友達を作ろう。ミオとはだんだん疎遠になって、親から近況を聞くだけになるんだ。いつか結婚する人ができても絶対に会わせたりしない。遠い町でミオと疎遠のまま年老いていこう。

日の暮れた公園は少し風がでてきた。
かにぱんは乾いて硬くなり、食べることも捨てることも出来ないまま、ずっと握りしめて座っていた。

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