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発明好きな時計屋【約2000字のお話】



うちの近所には、小さな時計屋がある
住宅の1階が店になっていて
老舗感満載の個人店だ
しかし前から、営業時間に疑問を抱いている

ドアに書いてあるのは
【10:00~19:00 月曜定休】
なのに11時でもシャッターが閉まっていたり
月曜日でも開いていたりするのだ
いくら自営業とはいえ、自由すぎでは……


そんなある日、腕時計が壊れた
これを機会に、行ってみることにした

*******

その日は仕事が長引き、到着したのは19時半
しかし、店の明かりはついたままだ

「すみません、もう今日は終わりですかね……?」
閉店準備の可能性を考慮し、おずおずとドアを開けた
すると、奥から人の良さそうなおじさんが顔を出し
「いえいえー、始めたばっかりなんでいいですよ」
と、部品を手にしたまま、にこやかな笑顔を向けた

「じゃあ、腕時計の修理をお願いしたいんですけど」
「はいはい、ちょっと見せてもらいますねー」
私は店主に腕時計を渡し、話を切り出してみた
「前から気になってたんですけど、営業時間って変わったんですか」
「ああー、あれはあってないようなもんですから」
「は?」
店主は何やら新しい道具を取り出しながら続けた
「僕、時計使わないんですよ。全部体内時計で賄ってます」
「体内時計ガバガバでは……でも、こんなに時計があるのに?」


「だからこそ、かもしれませんね……さあ、できましたよ」
そう言うと、時計全体を布で拭き、私に手渡した


「もう終わったんですか!?」
素直に驚くと、店主は満足そうな顔で頷いた
「自分で言うのもなんですが、腕は確かなんです」
「本当に、あまり自分で言うことではないですね」
あはは、と2人で笑いながら、私は周りの時計が気になっていた
個性的な色や形のものが、ちらほら陳列されている


「ああ、気になりますか? 実は僕、発明が好きでしてね
遊び心を入れた時計を作っているんです……例えばこれ」
店主は1番近くにある置き型時計を指さした
丸みを帯びた三角おにぎり型で、上にボタンが付いている
何の変哲もない目覚まし時計にしか見えない


「他に比べれば地味ですけど、その分機能がすごいんです」
「機能?」
「はい……いやあ、なかなか人が来ないんで、説明できるのが嬉しいです」
「それはご主人が時計を使えばある程度解決すると思うんですけど」
「実はこの目覚まし時計……」
私のツッコミには触れず、店主はにこにこ顔で話を続けた


*******

「実はこの目覚まし時計、自分の好きな音にできるんです。
好きな人の声でも、音楽でも、なんでもOK!」
「ええっ、そんなことできるんですか?
あ、USBでダウンロードとかで?」
「いえいえ、念じるだけで、いいんです」
急にスピリチュアルな話になってきた
「5秒間想像して、最後の1秒にあったイメージが時計に記憶されます」
聞けば聞く程、信じられなくなってくる
しかし、これまたちょうど、目覚まし時計が欲しいと思っていたところ
話の種にもなるだろうし、買ってみることにした



「では、1度ここで試してみましょうか」
店主は簡単に操作説明をしてくれた
「いいですか、5秒間イメージし続けるんですよ。
少しでも邪念が入るとうまくいきませんから」
それから、私は目を閉じて念じる姿勢に入った

「では、いきまーす……1、2、」


百合坂45の橘ののみちゃん、『おはようっ、朝だよ!』


「3、4、」


百合坂45の橘ののみちゃん、『おはようっ、朝だよ!』


「デスボイスって、できます?」


ド派手なメタルバンド、『ヴォォォォォォォォォ!!』


「はい、5秒経ちましたー」
「ちょっと! 今、明らかに邪念を入れたでしょ!」



店主は楽しそうに時計のボタンをポチっと押した
「すみません、ちょっといたずらしたくなってしまって。でも大丈夫。3日経てば再設定できますから」
「すぐ変えられないんですか!?」
わーわー言いつつも、デスボイスなら起きれるし
3日は我慢してもいいか、という気になった
あのおじさん、なんか憎めないんだよな……



*******

その日の夜、朝7時にセットして寝床についた

……

……

……

カチッ 

ヴォォォォォォォォォ!!


「うわあっ」


一瞬で目が覚めた
しかし、様子がおかしい
時計を見ると、まだ午前3時
アラームはちゃんと7時になってるのに

すっかり目が冴えてしまった私は
電気をつけ、付属の説明書を引っ張り出した
〈故障したと思ったら〉のところか?
違う、どこだ……?

ヴォォォォ バシッ



そうして、原因が発覚した

この時計には『一般モード』と『店主の体内時計モード』があります
 ※初期設定は『店主の体内時計モード』です
 ※3日経てば、再設定可能です

「実は僕、発明が好きでしてね
遊び心を入れた時計を作っているんです」




私は目覚まし時計の主電源を、そっとオフにした





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