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『ジャングルの夜』第三話

 歳をとるというのは、大体のヤツにとって、つまらない人間になるというのと同じで、千多も、結局は寝てしまった。眠りに落ちる前に、「もし一時間とか二時間で起きたら、そこから誰かと合流しよう」などと考えたが、目が覚めたのは夜中の三時を過ぎていて、なにをするにも中途半端な時間だった。
 酔っ払いは隣のベッドでいまだにいびきをかいて寝ていて、もう一人の同室の人間はまだ帰ってきていないようだった。

 せめて沖縄の風にでもあたろうと、歩いてコンビニまで行くことにした。コンビニまでは片道五、六〇〇メートルあり、寝起きに散歩するのにはちょうどいい距離だった。夕方に雨が降ったせいで路面は湿っていた。

 コンビニで本州では見かけないコーラフロートを模したジュースと、これも物珍しさから、カエルのイラストが付いた「なかよしパン」とシマウマのイラストの「ゼブラパン」というものを買った。帰りに近くに海があるのを感じながら一服して、「明日は早起きして行動的に過ごそう」と思った。こうして一日目の夜は過ぎていった。

 八時になる少し前に目を覚まして表を見ると、曇ってはいるが雨は降っていなかった。台風が近づいてきているという情報を聞いて心配していたが、天気予報を確認すると、どうやら進路はずれるようだった。

 ビュッフェ形式のモーニングを食ってから、シャワーを浴びて、原付免許しか持っていない千多は、見当を付けていたレンタルバイクの店へ電話した。辛抱強く待ったが、いつまで経っても相手は電話にでず、諦めて違う店へ電話した。そこで、「今日はもう貸し出せるバイクはない」と冷たくあしらわれ、どうしたものかとしばらく思案した。

 寝る前に三線の体験教室の予約をネットから取っていた。那覇市内でホテルからもそう遠く離れているというわけではなかったが、歩くには少しだるい距離だった。問題は更にそのあと、昼からは北へ十七キロほど進んだ先にあるアメリカンビレッジへ行こうと思っていた。そちらの方面へ住んでいる旧知の人間に会いに行くついでにぷらっと見て回ろうと思っていた。

 さすがに歩くには遠すぎるが、交通機関はあまり便利ではなさそうだった。「台風の心配さえなければ、前もって予約していたのに」と恨めしく思いながら、ホテルから少し離れていてもいいから、やはりバイクを借りようと探してみて、すぐ近くで自転車を借りられることを見つけた。

「頑張れば自転車で行けない距離じゃないか」と年甲斐もないことを思い、千多は自転車を借りることにした。

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