見出し画像

『キャズムとは逆の問題』

キャズム(深い溝)に関して問題になるのが「情報は段階的に伝わる」という思い込みです。何でも最初に試す記者やアナリスト、専門家などの初期の購入者たちが、人々に口コミで伝えます。そして次のグループへと情報はピラミッド状に広がっていきます。ピラミッドの頂点にいる影響力の大きな人たちに伝われば、下へ下へ口コミが広がっていくと考えられます。これが「キャズム理論」です。

溝を越えてピラミッドの底辺まで届けば商品は普及し成功を収めます。そこから生まれたのが「情報は段階的に伝わる」という思い込みです。「ピラミッドの下の人は、上の人の意見を聞くものだ」と。頂点にいる人とは日経新聞や有名な雑誌やサイトの記者たちです。でも現在はソーシャルメディアが発達し、情報の流れ方も伝わる速さも変わりました。段階的とは限らないのです。

出版ビジネスを例に以前の情報の流れと最近の変化を考えてみます。昔は出版社の名前も本の良し悪しの判断の基準になっていました。大きな出版社が信頼されていたのです。出版社では新刊を専門家や書評家たちに送ります。そして書評家たちが本を評価、人々はその書評を参考にして本を買っていました。有名な出版社で書評家の評価も高ければ良い本であると保証されたようなものです。そんな時代はもう終わりました。本は発売初日にKindleで電子書籍として購入できます。1時間後にはレビューが出始めます。別の誰かが本を買おうとアマゾンを見ると、4つ星、5つ星、3つ星といった本の評価が並んでいます。そこに書かれたレビューも読むでしょう。でも誰が書いたかは分かりません。プロの書評家のレビューとは違います。聞いたこともない素人のレビューで星の数が決まっているのです。誰でも書評を書ける時代に「深い溝」の理論は通用しません。

人々はアマゾンの星の数を参考に本を買うか決めます。ピラミッドの頂点から情報が流れてくるのを待ったりはしません。誰でも書評を書けるというのは大きな変化です。起業家には厳しい時代とも言えます。昔からの有名紙や有名サイトの記者に取り入れば済みました。誰でもレビューが書けるとなると、誰に商品を売り込めばいいのでしょう?今はどんな人がレビューを書くかも分かりません。専門家に気に入ってもらえばいい時代は遠い過去です。

今では売り込むべき相手も分からない時代になりました。こうなると簡単に使える良い商品を作るのが一番ということになります。平凡な商品でも専門家から推薦されれば売れるかもしれません。でも今はどこの誰かも分からない人々があなたの商品を買ってレビューを公表できるのです。しかもその意見は専門家のものと同じくらい重要です。専門家に取り入らなくていい代わりに、どこの誰に何を言われるか予想もできないという新しい時代になりました。良い商品、分かりやすい説明書、使い易い商品を作りさえすれば、よいレビューが得られるます。昔なら有名紙に取り上げて貰うことすらできなかったかもしれません。今は情報の流れを妨げるものはありません。良い商品さえあれば起業家にはチャンスなのです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?