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短編小説

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気が向いた時に、書きます。
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616のマリア

616のマリア

マリアは葛藤を抱えた従順で自立したひとだった。
出会いがいつだったのかはわからない。忘れた。
気づくと、よくDMで会話していて、
マリアは私の体調を気遣ってくれることが多かった。

時折
ため息を吐くように、心の奥底のものをつぶやいた。
「彼とどうなっていくのかな」
マリアはM女という立場で、自称S男とつきあっていた。

本気で好きになってはいけない恋、だった。

周りはS男の不埒な交流関係を知っ

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短編小説 夕陽のような朝陽

短編小説 夕陽のような朝陽

最後がいつの季節だったのか、はっきり覚えていない。
ただ足元には、白い小さな花が絨毯のように散っていたのを覚えている。
その人は
「またね」
と、言わなかった。
私も
「今度はいつ?」
と、聞けなかった。
何も言わずに車のドアは閉まって、私は置き去りになった。

最後の会話を思い出してみる。
「朝陽なのにまるで、夕陽みたいだね」
そう言った彼の横顔。
長いまつげがくるんと、綺麗に上向きに揃っていた

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短編小説 夜の海

短編小説 夜の海

夜の海を知っている。
打ち寄せる波。街灯もない国道沿い。
真っ暗なのに波頭だけが白く見える。
不思議な夜の海。
私は軽自動車から降りて、防波堤に腰掛けた。
足元にはテトラポットが見える。
そこに、波が打ち寄せては

ざざざ ざざざ

と、繰り返し音を立てていた。

私は、男を待っていた。
友達の彼氏。仲良しの友達の彼氏。
これから抱かれるために。
待ち合わせをして、抱かれて、キスして、わかれる。

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