〈キューバ紀行1〉ハバナの風に吹かれて
浮雲が陽を遮り、乾いた風が吹き抜けた。
筆が進む。執筆にもっとも大切な環境は、風だ。ハバナには、本当にいい風が吹いている。キューバに来て、この街を愛したヘミングウェイと北方謙三への共感が強くなった。
ここはハバナ旧市街、パルケ(公園)トリーリョ。キューバでは、ネット接続できる場所が限られている。その大部分が、街に点在する公園だ。そこで文章を綴っている。
こっちに来てから、ずっといい天気だ。頭上には抜けるような青空が広がり、空を削り取る高いビルも無い。大通りに舞う砂埃と排気ガスはエネルギッシュな雰囲気を醸し出す。
暑くも寒くもない気候。大きな祭りもなく、市民は日々の生活を淡々と送っている。2月はガイドブックおすすめのシーズンから外れているが、いちばん静かな時期。日常生活を観察したかった私には、おあつらえむきだ。
キューバには多様な人たちがいて、肌が黒い、白いという大雑把な区別は、あまり意味を持っていない。肌の色に関わらず、人々はみんな仲良く上機嫌。街を気ままに歩き、見知った人に行きあっては大喜びして、ほっぺを合わせキスの音を立てている。旅行者の私にも、目が合えば、誰でも微笑み返してくれる気分の良い人々が暮らしている。日本人の感覚からすると、少々なれなれしく感じるかもしれないが、私には心地よいフィーリングだ。
大阪出身の私は、かつて暮らした東京や新潟では「なんですぐ店員に話しかけるの」「馴れ馴れしいよね」と言われていた。ここでは異国人の私を誰も変に思わない。話しかければ、誰もが普通に、いや、すごく熱心に答えてくれる。日本のどの街よりも大阪人の気質に近いような気がしてならない。
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