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エジプト航空に突然スカウトされる①

前:


"エジプト"の本当の国名をご存知だろうか。

なんと、実のところ国名がない、それが"エジプト"...


"エジプト"は古代ギリシャ語のアイギプト(←長くなるので、詳細は省略)が由来の、英語での国名である。

アラビア語ではエジプトをミスル MISR مصر(エジプト方言ではマスル)と呼ぶものの、

ミスル(マスル)とは、単に「土地」または「国」を意味するBALADبلدという単語とほぼ同義語に過ぎず、固有名詞の国名ではない。

エジプトがイスラム教徒(アラブ人)に支配される以前は、コプト派のキリスト教国家だった。当時はMISRUQIBTIمصرقبطي「コプト人の土地(ミスル)」と呼ばれた。

ところが、次にイスラム教徒の支配下に入ると、QIBTI(コプト教)の部分は廃止され、国はMISR(土地)として呼ばれ出した。

ここからミスル(土地)イコールエジプトの国を指すようになった。

だから、ややこしいがエジプトは本当の意味での国名が存在しない。

よって国営エジプト航空会社もマスル(=エジプト)タイラーン(=航空)という社名だが、厳密には『土地の航空』という意味不明な名前なのだ。

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国名自体が意味不明なだけあって、エジプト航空のやることなすことも意味不明だった。

航空一社が独占状態なので、サービス向上という意識なんぞ全くなく、

さすがにもうそんなことないと信じたいが、例えばエジプト航空のファーストクラスは別名、Cクラスと呼ばれており、これはcrew classの意味だった。


日本で60-80万円はしたかな?成田ーカイロ往復チケットを購入する。

が、ファーストクラスの空間に、いざ乗り込むとギョッ。エジプト人のクルーたちがすっかりそこでくつろいでいるのだ。

彼らはファーストクラスの客の目の前でタバコをモクモク吸い、大声で騒ぎポーカーのゲームまでしていた。ファーストクラス=クルーの休憩室だった。

おかげでファーストクラスのお客さんから、死ぬほどクレームが来たものだったが、エジプト航空に訴えても、「フンッ」でおしまい。

こんな調子だから、経由便だけどもシンガポール航空の方が断然人気があった。

(ちなみに、エジプト航空とイタリアのアリタリア航空は禁煙になるのがとても遅かった記憶...)

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国際線が国際線ならば、当然国内線も国内線。

まず、ハイジャックされ過ぎ。だからアメリカの『TIME』にも"エジプト航空のハイジャックは驚くべきほど"普通"のことだった"だなんて書かれたことも。(2016/3/29付)

それから、私がよく国内線を乗っていた時も、一体何回煙を出したことだろう...(その度に緊急着陸させられ、「ビッソーラ、ビッソーラ」。早く出ろ出ろ、と急かされた)


運行状況など、とりわけしっちゃかめっちゃかだった。

特にラマダーンの時期とカムシーン(砂嵐)の時期になると、もうぐちゃぐちゃ。フライトが訳の分からない状態になった。

例えば朝6時発アブシンベル行きのフライトが、その日の午後まで飛びたたないだとか、いきなりキャンセルされるなど全く珍しくもなかった。

むろん、案内もなければ謝罪の言葉もないし、代替便をよこすなども全くない。

エジプト人の乗客たちもうんざりしており、エジプト人の子供たちがよく大声で

「マスルタイラーン(エジプト航空)、来てよ、マスルタイラーン。お願いします、どうか飛んで来てよ!僕はいい子になるって誓うから、どうかどうか飛んで来てよ!」。

あまりにも不憫で、見ていて涙が出た...

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ところで、ちょっと一時、エジプト航空のパイロットとデートしていた時期があり(出会いは機内..😆)、裏話を教えてもらったことがある。

ちなみに別に私めがモテたとかでは一切なく、

外国人の女性(非イスラム教徒の女性)イコール"お金"に見える/外国に出る切符に見える/身持ちが悪く見える(=簡単に遊べる)、という風に見られていたので、

外国人女性は誰もかれもナンパばかりされるものだった。

ゴミ屋もゴミを回収しながら、流し目を使ってきた上、生ごみを持ちながら

「君の瞳に僕らの運命が見える」と言ってくる(←むろん実話)ので、ある意味あっぱれ!

とにかく、惚れっぽい&自分の発言に責任とか重みを持たない(持っても三分で忘れる)。

だから、「一目惚れした」だの「運命の相手だとびびっときた」だの初対面であれこれと、目に涙を浮かべ熱く語ってくる、一日に五回以上電話をかけてくるとか非常に情熱的かつ積極的だけども、本気にしないのが一番...


で話は戻って、そのパイロット氏にいろいろ聞いた暴露ネタによると、

気流だとか荒天候の理由でフライトが遅れる場合、勤務拘束時間も長引くので例えば朝食や夕食が支給されたり、または手当が出るのだという。

だから、本当は快晴で霧も何も出ていなくて、すぐに予定通り飛べるのに、わざと遅らせたりするのだそう。

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離陸が何時間も遅れ、アナウンスもないとそりゃあ待機している人々はいらいらする。

せめて「飛ぶのは七時間後です」など言ってくれていたら、例えば一旦空港の外に出て市内観光にするとか、ホテルの部屋で仮休憩するなどできる。

しかし、いつ飛ぶか分からないので、なーにもない空港から離れられない。(店も何にもないです)

ヨーロッパ人などは、その場でUNOのゲームを始めたり、分厚いペーパーバックを読み出したり至って冷静沈着だった。

ところが日本人、とくにオッサンやおじいさんたちは、じっと待てない。

気持ちはよく分かるが、

「ここは日本じゃない、先進国でもない、アフリカなんだ。社会主義がまだ残る、軍事国家のエジプトなんだ、サービス精神がないんだ、時間の概念が根本的に違うのだ」

と言い聞かせても、全く理解して貰えない。


空港の大勢の目の前で、何度怒鳴りつけられたことだろう。

「ガイドのお前は何やっているんだっ!さっさと航空会社のオフィスに飛んでいけ。早く飛ばすように苦情を出せ!」

「日本人の知恵を使ってどうにかしろっ!」


いくらエジプト航空に噛み付いても

「インシャアラーインシャアラー」、「マーレッシュマーレッシュ(まあいいじゃなか、ええじゃないか)」、そして「じゃあ乗らなきゃいいじゃないか」で終わるだけだ。


ツアーのオヤジやジイサンたちから公衆の面前で怒鳴りつけられると、最初は空港の柱の裏で泣いた。

するといつも空港清掃のエジプト人のオバチャンがトイレットペーパーを寄越してくれたり(さすがにバクシーシ要求はなかった)、またはヨーロッパ人の観光客が慰めてくれた。みじめだったなぁ。

(追記: 私も知恵をつけてからは

「空港内エジプト航空のオフィスに行き、交渉してきます」

と逃げキヨスクの裏側に匿ってもらい、お客さんに捕まって怒鳴られないよう、姿を隠していました。)

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離陸予定時間よりずっと早く飛んじゃうこともあるので、全く油断ならぬ航空会社だったが、とにかく唐突なフライトキャンセルもあったものの、たいていはなんやかんやで飛行機がやって来る。

すると、空港係員のマフムードさん(仮名)が大声で

「アブシンベル!アブシンベル!アブシンベルフライト124!」と叫ぶ。

これが、まさに神の声に聞こえた!

ガイドはみんな、何時間も前からマフムードさんの一挙一動に注視しており、彼が少しでも声を張り上げる様子でも見せるものなら、ガイドたちはいちいちドキドキし、目を輝かした。

ところが"フェイント"だと、ガイドたちははぁーとため息をつき、うなだれるものだった。そしてまたマフムードさんが何かアクションを見せると、全員顔をパッと上げ、真剣な面持ちで彼を見つめるのだった、この繰り返し...


ところが、本当にマフムードさんがせーの、で声を張り上げ

「アブシンベル!アブシンベルフライト124,ボーディング!」。

これを耳にする瞬間の歓喜といったら! 今でも忘れないし、一生忘れられない! 笑


また、マイクを使わず、声を張り上げるだけというのもさすがアフリカ...

マフムードさんの合図と同時に、ガイドたちは全員一斉に立ち上がり、自分たちのグループに手を挙げ合図を送る。

旅行のアンケート用紙を見ると、

「"さあやっと待ち構えていた時が来ました。アブシンベルへ行きましょう"とガイドのloloさんが叫んだ時、フランス国歌の幻聴がし、loloさんがオスカル様に見えました」

「ガイドさんに後光が射しました。メシアに見え、安堵の涙がこぼれました」だの書かれたことも度々あるほどだった。笑

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ところがところが、安心するのは実のところまだ早い。

フライトスケジュールがぐちゃぐちゃなので、例えばアブシンベル行き124便だけでなく、シャルムエルシェイク(紅海)行き79便や、ルクソール行き320便も同時に搭乗が始まる。

しかも滑走路に出る扉は三便とも同じで一つの扉。だから全ての飛行機に乗る乗客も全員、一箇所の扉に殺到する。

滑走路の扉の外に、アブシンベル行き飛行機へ乗客を運ぶ滑走路バス、そしてルクソール行き飛行機までのバス、シャルムエルシェイク行きバスと3台が来る。


マフムードさんは、一人一人の搭乗券を切りながら、

「(アブシンベル行きの搭乗券の)お前はナンバーワンのバスだ!」

「(ルクソール行きの)あんたはナンバーツーだ」

「(シャルムエルシェイク行きの)そちらさんはナンバースリーのバスに乗れ!」

といちいち言っていく。(←スゴイでしょう!)


さてここで、まだ私が持っていた、搭乗券を見てほしい。↓

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小学校の学芸会のチケットより、この雑なチケットがエジプト航空の搭乗券だ。

フライトナンバーも行き先も座席ナンバーもなーにも書いてない。

ただ色分けはあって、毎回色は変わるのだが、例えば白の搭乗券はアブシンベル行き飛行機、赤い搭乗券ならルクソール行き、水色だったらシャルムエルシェイク行き。


ところが、マフムードさんは乗客一人一人を案内している最中に、誰かに声をかけられたり、無線で誰かと話したりしちゃうと、途中で"間違える"。

特に赤色搭乗券、オレンジ色搭乗券、ピンク色搭乗券など同系色の搭乗券ばかりだった時には、必ず途中でごっちゃになり混乱した。


その結果、グループ全員、アブシンベル行きの飛行機に乗らなければならないのに、

途中から、後から来るメンバーの数名はシャルムエルシェイク行き、またはルクソール行きの便に乗せられていた、ということも"頻繁に"起きた。

だから、ガイドや添乗員は必死に、自分たちのグループのうち誰かが、違う目的地の飛行機行きのバスに乗らないか、必死でチェックをする。

機内に乗り込んでからも目を皿にして、グループの人数確認をするが、全席自由席のことも多いため、一つのグループの席が固まっていない。みんな、てんでんばらばらの位置の座席にいる。

その上、何しろ毎回機内は日本人グループだらけだった。全員の顔もエジプト旅行の服装も似たり寄ったりだったので、突先に自分のグループのお客さんが誰か、見つけるのが容易ではない。

よって一時は、嫌がるCAからマイクを奪い(!)、

「パッ○ツアーさん、全員手を挙げてください」

「ルッ○ツアーさん、手を挙げてください!」

とガイドたちが交替でやっていた。笑


ちなみに、アブシンベル行きに乗らなきゃ行けないのに、乗せられたのはローマ行きの飛行機だったという珍事件もあった。

国内線国際線で空港も分かれているはずにも関わらず、どうしてこういうことが起きるのか、凡人の私にはちっとも理解不能だ...

↓追記:直行便が直行便でなくなることも頻繁にありました;


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ある時だった。

私が担当したツアーグループは、日本で無名の小さな旅行会社の、"初"のエジプトツアーだった。忘れもしない、全員で14名だった。

パッ○、ルッ○、農○、近○、名○、郵○などのツアーはすでにエジプトの旅行会社のアシスタントたちにも認知されていたが、その小さな旅行会社の名前は、まだ全然知られていなかった。

何しろ、それまでエジプトにツアーを出したことがないので、無名なのも当たり前だ。


エジプト航空がまたもややらかしてくれた。

146席しかないアブシンベル行き飛行機に、161席分の発券をしてしまっていた。(←全部自由席だから、こういうことも起きやすい)

やり手空港アシスタントたちは、さっさと自分の担当するグループの分の搭乗券を確保した。

が、私とペアを組んでいた、ターメルおじさんは前も書いたとおり、万年課長の窓際族で、いい人なのだけど要領が悪い。

案の定、ターメルおじさんだけが搭乗券をゲットできなかった。

「無名ツアーグループだから、お前のグループが我慢しろって言われちゃったんだ、えへ。ごめんね」

ターメルおじさんは苦笑。

私は呆気にとられた。


ここで乗れないと、その日はもうフライトはない上、残された観光全てに支障が出る。

第一、アブシンベルは目玉だ。旅行約款云々を抜きに語るとしても、アブシンベルに行けないとはありえない。

電車移動は、当時外国人ツアーグループの利用は、セキュリティー上禁止だった。そもそも電車移動には、合計15時間はかかる。


「ターメルさん!何がなんでもこのフライトに乗らないとアウトですよ、だから乗りますからね!」

「え、どうやって?」


これも今だから話せる! (偽)オスカル出動! 咄嗟とはいえ、我ながらよくぞやったな、と思うがlolo史上最高のミラクル作戦を決行した。

搭乗券も座席もないのに、本当に自分のツアーグループ全員を、この飛行機乗せることに成功したのだ。

そしてこの出来事(事件)をきっかけに、エジプト航空から

「仲間にならないか。うちで働かないか?」

とまさかのスカウトされることになったのであった!


つづく


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↑カイロ市内。この時は飛行機ではなく、観光バスが迎えに来なかった。時間もないので、分乗タクシーを数台捕まるところ。



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