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アートとホテルの関係性を考えてみる(ホテルに泊まって思考ドライブ ②:KAIKA HOTEL)

今回はこのホテル宿泊記録のB面。(建築やデザインに興味のある方はこちらのA面も合わせて読んでいただきたい)

(前提の確認)

今回は、このKAIKA HOTELを題材に「アートとホテル」をテーマに思考を巡らせていきたいが、実はテーマ自体はそんなに新しいものではない。

そもそも「非日常」を演出するホテルは、一見すると無駄なほど空間が広く設けられていたり、装飾的なモチーフ(手すりや天井の廻り縁だけでも感じることができる)があったり、各種の内装素材が凝っていたり、眺めていてそれだけで面白い、アートな空間となっていることも多い。

この「建築的なデザイン」と「作品としてのアート」の違いについては、以前もnote記事で書いたことがあって、考えると奥深い問題なのだけど、ここでは建築やインテリアデザインとは別に付加された絵画や彫刻などの展示物を「アート」として、アートとホテルの関係について考えてみたい。

アートホテルと呼ばれるジャンル

都内で言うと、汐留にあるパークホテルはアートをテーマにしたホテルとしてインバウンド客に人気がある。25階はアーティストフロアとして各客室を異なるアーティストの絵や造形が施されている。そして、客室までの廊下がギャラリーになっていて、販売もしているという徹底ぶり。美術館に泊まるような感覚だろう。(画像にリンクを貼り付けているので気になる方はチェックしてみてほしい)

図1

秋葉原にあるBnA STUDIO Akihabaraはやや悪趣味な部屋なんかもあってかなり尖っている。Zen GARDENという部屋はどこが禅なのかわからないが、泊まってみたい感じもする(いやしかし怪しげなラブホテルにしか見えない気もする)。

ほかにもUDSが運営するアンテルーム京都もエントランスホールがギャラリーになっており、共用部のいたるところにアートが飾られ、いくつかの客室がアーティストがデザインした特別な部屋になっている。

いずれのホテルも、美術館やギャラリーのような「展示空間」に見立ててデザインされており、ドストレートなアートホテルの印象だ。

好きな人は好きなのだろうが、私はここまでどストレートにアートな感じはあまり好きでない。「ホテルのコンセプトとして何か特徴が必要だからわざわざアートこしらえてきました」という感じがして、ナチュラルな感じがしないのだ。

(しかし、それはパッと見だけの印象であって、アートの中に埋もれて、そこで宿泊するという体験は思わぬ発見があるかもしれない。それに、実際には、ご当地のアーティストによるものであったり、地域ならではのテーマがあったりするかもいしれない。食わず嫌いせず、いつかチャレンジしたい)

アートストレージホテルというジャンル?

これらのホテルがアートの「展示空間」であるとすると、先日紹介したKAIKA HOTELは、アートの「保管空間」としてコンセプトメイクされているところが、面白いところだ。

この建物が元々企業の倉庫だったことに着想を得ているのだろう。サインもコンテナモチーフのものがあったり、パレット(荷物を載せて転がす台車)がおもむろに置いてあったり、倉庫であった記憶を演出しながら、「アートストレージ=保管庫」として空間が演出されており、前回記事でも繰り返し書いたリノベーションの粗さがそれを引き立てているためかナチュラルな感じがする。

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倉庫空間も実際には展示空間も兼ねているが、各アーティストが保管している自分の作品をチョイ見せしてくれている感じも、自然体だ。

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ちなみに倉庫空間とは別にギャラリーもあり、そちらは現在はホテルオープンに合わせて、コンテストがあったようでその優秀賞の作品が並んでいたが、絵画も立体造形も綺麗な感じのものは少なく、おどろおどろしいものが選ばれていてホテルらしくない。そして、なぜか屋上階にはふてぶてしいウサギが横たわっており、自然とカオスが混じっている。

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「掛け算思考型」と「足し算思考型」

このアートストレージや現代芸術のカオスな感じの空間は狙ってやっているのだろうが、客室は驚く程にシンプルであるところがこのホテルの肝だと思う。

先の「アートホテル」と呼ばれるジャンルのホテルは、ホテルを丸ごと展示空間に見立てており、構図としては「アート×ホテル」と掛け算になっている。

対してKAIKA HOTELはホテルに保管庫機能がくっついている形であり、構図としては「ホテル+アートストレージ」と足し算になっている。

一般的には「相乗効果」という単語に見られるように「掛け算的思考」の方がものごとの力を強くするイメージがあるが、異色なものの「足し算的思考」というのも、新鮮でそれでいて必然性があるとすると、パワーを発揮するものだと思う。

とあるテーマが散りばめられる「掛け算思考型」のコンセプトと、あるテーマが付加される「足し算思考型」のコンセプト、それぞれの良さがあると思うし、どちらか二律背反な概念ではないと思うが、今後ホテルだけでなく、いろんな物事を観察するときの見方として持っておきたいな、と思った。



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