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20000802 茶碗の割れ目

 瀬戸物$${^{*1}}$$の茶碗や窓ガラスが割れたら、そのまま割れた破片を付き合わせても元に戻らない。割れる前は当然のことながら完全に一体化していたのであるが、割れた後は接着剤等で付けないと元に戻らない。何故戻らないのか。

 空気中で物を割ると割れた表面に瞬間的に割れた部分の表面に空気中の分子や水分が付着して茶碗の割れ目が一体化していた時と全く違う状態になってしまうからか。

 それならば超高真空中$${^{*2}}$$で茶碗を割ったらどうか。破片を合わせれば元に戻るか。何となく戻らないような気がする。陶磁器は多結晶体なので複雑な割れ方をして目に見えないような破片が発生するかもしれないので、完全には元に戻らないのかも知れない。

 単結晶$${^{*3}}$$の場合はどうか。単結晶の場合、割り方によっては非常にきれいに割れる性質$${^{*4}}$$を持つものがある。それは結晶を構成する原子の結合の性質によるものだから割れた面というのは結晶が規則正しく並んだ割れ目が出やすい。

 このような単結晶を超高真空中で割って、直ぐにその割れた面を付き合わせると元に戻ってしまうだろうか。恐らく戻らないだろう。いくらきれいに割れても原子の配列の段差は出来てしまう。一旦割れて分離した結晶の破片の割れ目を完璧に一致させるのは不可能だろう。それに何かの作用によって割れたということは、その作用によって割れた部分は元の状態から変化したのだから、それが何もしないで元に戻るというのはエネルギー収支が合わなくなってくる。これが元に戻らないと思われる一番の原因のような気がする。

 ただし割れた破片を付き合わせて摩擦や電流で熱を加えたり圧縮したりして結晶を構成する原子を動かし、段差をなくしてやればくっ付ける事はできる$${^{*5}}$$だろう。でも熱で段差をなくすということはエネルギーを与えていることなのでこれは厳密な意味で元に戻ったのではない。やはり割れる前の状態とは少し違うのである。

*1 1300年のやきものの都、そして、2005年日本国際博覧会の開催地である瀬戸市
*2 20000329 真空(2)
*3 20000504 SOI
*4 劈開断面STMによるGe(111)2x1→c(2x8)表面構造相転移の研究
*5 接合技術

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