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20020724 ケチャ

 ケチャ$${^{*1}}$$という民族歌謡がある。バリ島の男性が円陣になって「チャ、チャ、チャ」と叫ぶ姿は如何にも呪術的で、集団で読経する僧侶達を彷彿とさせる。

 バリ島$${^{*2}}$$の精霊と人間との生活が渾然一体となった自然の中で出来上がった伝統的な歌謡と勝手に想像していたが、全然違っていた。

 ケチャ$${^{*3}}$$が出来上がったのは1930年頃で非常に新しい。しかも作ったのはバリ島の人ではなく$${^{*4}}$$ドイツの芸術家シュピース$${^{*5}}$$である。ケチャ$${^{*6}}$$を説明したページには大抵このことが書いてある。

 自然発生ではなく外国人によって人工的に作られた民族歌謡というも珍しいと思う。これはヨーロッパ人から見た「南洋の文化とはこういうものだ」という思いが大量に入り込んでいるのではないだろうか。

 これが日本ならば、鳥居の下でスモウレスラー$${^{*7}}$$が相撲を取っていてその遠景には富士山が見え、笠をかぶった前歯が二本出た目の細い車夫が舞妓$${^{*8}}$$さんを乗せて走り回っているものだ、と思われているようなものだろう。これを基に能や狂言$${^{*9}}$$を作りかえられても受け入れ難い。

 バリ島の人々は外国人が作ったケチャをどうやって受け入れたのだろう。自国の文化というのにはあまり頓着しないのかもしれない。バリ島では文化としてではなく純粋な観光用の余興$${^{*10}}$$として考えられているのだろうか。

 バリ島の文化に触れるつもりで「ケチャ$${^{*11}}$$」を鑑賞するのは、遊園地のぬいぐるみ$${^{*12}}$$を見せられて喜んでいるようなものかもしれない。

*1 バリ舞踊のご紹介 | バリ島のことなら『サリツアーズ・バリ旅行専門店』/ 格安ツアー・スパ・ホテル
*2 Welcome to Bali Information Page
*3 Bali Travel News - Cover Story
*4 バリ島芸術をつくった男 ヴァルター・シュピースの魔術的人生
*5 Network Indonesia - Culture - Arts
*6 Bali - Kecak
*7 Automatic Face Processing System
*8 20000529 プラズマ
*9 20000722 居眠り
*10 文 化 表 象 と し て の 観 光
*11 神々の森のケチャ ~バリ島シンガパドゥ村の呪的合唱劇
*12 動物ぬいぐるみバンド

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