20020320 ダイヤモンド
ダイヤモンドが欲しくなるのは値段が高いからだろうか、宝石として加工された状態$${^{*1}}$$が美しいからだろうか。 欲しいとあまり思わない。高く売れるというなら欲しいが、それは投機の対象としてのみである。真の物欲からではない。私の定義する物欲とは「とにかく所有してみたいと思うこと$${^{*2}}$$」なので、ダイヤモンドは物欲の対象にはなっていない。将来、何かのきっかけで対象になることもあるかも知れないが、いつそうなるかは判らない。
物欲とは関係ない部分でダイヤモンドには興味がある。
ダイヤモンドの主成分は炭素$${^{*3}}$$である。主成分というよりは炭素その物で出来ている。炭素以外の成分は不純物とされるので純粋なダイヤモンドは炭素だけでできている。
黒鉛と呼ばれる物質がある。これもダイヤモンドと同じ炭素だけで出来ている。ダイヤモンドとの違いは物質を構成する炭素原子の並び方$${^{*4}}$$だけだ。たったそれだけで一方は宝石として扱われ、他方は単なる物質として扱われている。ダイヤモンドは工業製品としても使われる。一方、黒鉛も色々な物に利用されて$${^{*5}}$$我々の生活に入り込んでいるので、知らないうちに黒鉛を所有している場合があるが、黒鉛だけを所有したいと思っている人は皆無である。
その理由は黒鉛の見た目が汚いからだ。黒ずんだ鉛のような色をしているので欲しいと思わない。炭素原子の並び方が違うだけで透明になったり黒くなったりしてしまう。並び方が違うだけで硬さも全く違ってしまう。ダイヤモンドは最も硬い物質だが、黒鉛は非常に削られ易い物質$${^{*6}}$$である。しかし元はといえばどちらも「炭」の素である炭素原子が集まって出来た物だ。
ダイヤモンドの炭素原子の並び方はダイヤモンド構造$${^{*7}}$$と呼ばれる並び方をしている。丁度テトラポッド$${^{*8}}$$の中心とその四つの足の先に炭素原子を配置してそれをどんどん積み上げていった感じの並べ方である。こういう並び方をしているため硬いのだろうか。硬いためか振動もよく伝わるようだ。柔らかいと如何にも伝わり難い。音の伝わる速度が物凄く速い$${^{*9}}$$ようだ。
熱もよく伝える$${^{*10}}$$。固体の熱の正体はその固体を構成する原子の振動である。その熱が伝わる時、原子の並びそれ自体の振動がだんだん伝わっていくか、それと同時に原子に含まれる電子が固体内を自由に動いて振動のエネルギーを伝えるか、である。鉄、銅や金などのような金属は自由に動く電子を沢山含んでいるので熱を伝えやすい。電子は電気の素なので、金属の中でよく動く電子が沢山あるということは電気をよく通すことである。従って電気をよく通す物は熱も伝わり易い。
ダイヤモンドには自由に動き回れる電子が含まれていない。原子の結合は電子によってなされる$${^{*11}}$$。ダイヤモンドの場合はテトラポッドの積み上げで全て電子が使われてしまっているから電子がダイヤモンドのなかを動き回る余裕がない。大抵は原子の並びの振動の伝搬は電子の動きよりも遅いので、電気を通さないガラスやプラスチックなどは熱が伝わり難い。
ところがダイヤモンドは自由に動き回れない電子がないのにどんな金属よりも熱を速く伝えることが出来る$${^{*12}}$$らしい。音と同様に振動が伝わりやすいのだろう。
シリコン単結晶$${^{*13}}$$もダイヤモンドと全く同じ原子の並び方$${^{*14}}$$をしている。それなのにダイヤモンドよりもかなり熱を伝える効率が悪い$${^{*15}}$$。一体何が違うのだろう。物質を構成している原子が炭素とシリコンなので違うと言えば違う。原子の大きさは炭素の方が小さいのでダイヤモンドの方が振動を伝えるのに有利なのだろうか。
テトラポッドを積み上げるような並びができる元素で一番小さいのは恐らく炭素であろう。テトラポッド型の原子の並びが物質を最も硬くするのであれば、ダイヤモンド$${^{*16}}$$よりも熱を速く伝える固体は宇宙に存在しないことになる。
*1 ダイヤモンド・ミュージアム - Diamond Museum
*2 20010604 シリコンの歯車
*3 ダイヤモンドとは | フォーシーズ
*4 ダイヤモンド構造(diamond structure)
*5 東海カーボン株式会社----ファインカーボン
*6 各種物質の硬度(モース硬度)
*7 セラミックス材料学(亀川厚則) 19第3章 結晶構造
*8 テトラポッド
*9 優秀な工業材料の工業用ダイヤモンド
*10 ダイヤマテリアル株式会社
*11 化学結合
*12 新しい熱伝導材料
*13 20000428 CZ
*14 結晶構造
*15 ダイヤモンドの基礎物性
*16 ダイヤモンドの特徴とその応用
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