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20021120 1ドル360円

 かつて1ドルが360円$${^{*1}}$$の時代があった。その頃、「1ドル360円」という言葉の調子がよかったのか、360円という数字を間違えることはなかった。

 最近、この「1ドル360円」の由来について面白いことを知った。この「360」という数字は「円周が360度」だから「1ドル360円」という交換比率となったというのだ。道理で「360」という数字が覚えやすい訳である。

 と一瞬思ったが、どうもこの説は怪しい。太平洋戦争終了後、アメリカは占領下の日本の経済を自立復興$${^{*2}}$$させるために、円とドルとの交換比率を一定に設定して輸出の増強をさせようとした。これはアメリカ政府がGHQの顧問として派遣したアメリカのデトロイト銀行頭取ジョゼフ・ドッジ$${^{*3}}$$によって提案された「ドッジライン」という方針が基になった。

 web上を調べてみると、この交換比率を設定する時にドッジは「Yen」が「円」という意味だと言うことを知って、円周は360度だから「1ドル360円」と設定した$${^{*4}}$$、と言う説が沢山出てきた。

 私は語源や物事の由来をweb上で調べる時の一つの目安として「無料サーバを使って運営している個人サイト」「情報の出典が明記されていないサイト」の情報の信頼度はかなり低い、としている。特に無料サーバを使っているサイトはそれ自体が短期間で消失する可能性も非常に高いので文中のリンク$${^{*5}}$$の設定は避けるようにしている。従って参照するのは大学、独自のドメイン名$${^{*6}}$$を持った組織や企業のサイトが多くなる。

 そう言った観点から「円周が360度」説を見ると掲載しているのは「無料サーバを使って運営しているサイト」ばかりで全く信用できない。

 日本の円制度は明治政府の1871年の新貨条例$${^{*7}}$$に始まる。この時、1円金貨=純金1.5g=1ドルだったらしい。1897年に貨幣法および兌換銀行券条例中改正法律$${^{*8}}$$で1円金貨=純金0.75g=0.5ドルとなり、1931年から1940年頃までは1ドル3~4円となった$${^{*9}}$$。太平洋戦争開始からの交換比率のない時代を経て$${^{*10}}$$、1949年に360円に固定された交換比率は1971年まで続いた$${^{*11}}$$。そしてアメリカのドル防衛によりブレトンウッズ体制$${^{*12}}$$が崩壊し、スミソニアン体制$${^{*13}}$$が出来上がった。この時のドル切り下げにより1ドル308円になったが、1973年より変動相場制$${^{*14}}$$に移行し、現在に至っている$${^{*15}}$$。

 結局、360円の由来はよく判らない。円の国際的な貨幣価値の根拠が敗戦によってなくなった状態なのでいくらに設定してもいいはずである。どこから「360」と言う数字が出てきたのだろうか。これは全くの勘であるが、戦前の交換比率の1/100倍程度にしたのではないだろうか。「100」という数字にも根拠はないが、この数字は意味もなく人を納得させる効果を持っている。経済関連の人は「円」という図形から「角度」を発想して「360」という数字を出すことは出来ないような気がする。

*1 為替レート(360円からの円高の歩み)
*2 法政大学大原社研_経済安定九原則実施後の賃金政策の展開過程〔日本労働年鑑 1951年版814〕
*3 経済自立への道
*4 ガス君 on Twitter: "「1ドル=360円」というのは「円が360度だから」と言うだけの理由で決まったらしい。"
*5 20021117 リンクの制限
*6 20000507 ドメイン名
*7 明治政府の通貨制度
*8 [日本銀行の概要] 歴史年表
*9 JAPAN'S ECONOMY IN THE 20TH CENTURY - No. 3, January 21, 2000 http://www.jei.org/Archive/JEIR00/0003fig9.gif
10 円相場の歴史
*11 JAPAN'S ECONOMY IN THE 20TH CENTURY - No. 3, January 21, 2000 http://www.jei.org/Archive/JEIR00/0003fig10.gif
*12 金融大学 ブレトンウッズ体制
*13 金融大学 スミソニアン体制
*14 金融大学 国際通貨制度
*15 asahi.com : 金融・経済 : 為替

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