見出し画像

20090605 超音速と白い雲

 航空機が音の壁もしくは音速の壁を破る瞬間として、紹介される写真$${^{*1}}$$がある。丸い雲の真ん中を飛行機が突き抜けている姿はまさにその瞬間と言う感じだ。しかしこれは超音速でなくても発生する現象らしい。音の壁を越える瞬間とは関係がないようだ。このことは先日書いた$${^{*2}}$$。

 ところがこのページ$${^{*3}}$$には、音速を超える瞬間にこそ、この白い雲が発生すると言うようなことが書いてある。しかも飛行機の先端から音が出て、それが雲を作ると言うのだ。本当にこの説明は正しいのだろうか。

 まず最初に「飛行しているジェット機の先端は、圧縮サイクルから始まる音源になっている」とある。風切り音は発生しているかもしれない。しかしこの風きり音は音速を超えた時に発生する衝撃波とは直接関係$${^{*4}}$$がないだろう。例え風切り音が発生しなくても衝撃波は発生する筈である。そして「飛行機のスピードが音速を超える直前は、強いドップラー効果が起きている」とある。強いドップラー効果とはどういう意味か。ドップラー効果とは音源と観測者との相対的な速度によって音源から出ている本来の音色が変化する現象を言う。走行する救急車のサイレンの音が高く聞こえたり低く聞こえたりする$${^{*5}}$$のはよく経験する。これと衝撃波や白い丸い雲とは関係ない。「強い」の意味は本来の音の高さと聞こえてくる音の高さが大きく違うと言う意味か。「強い」と強調する意味はどこにあるのか。強いと高圧縮になると言うことだろう。

 「音速と等しくなったとき、出された全ての圧縮波の先端のみがぴったり重なり、ジェット機の直前に非常に高圧な円板状の層(衝撃波、音の壁)が生じる」と書いてある。音の壁と言うのは、かって音速が航空機速度の限界と考えられていた頃の比喩表現$${^{*6}}$$らしい。本当に物体としての「音の壁」ができる訳ではない。ただ、衝撃波の元となる高圧な空気層が機体の先端で発生しているはずだ。

 最後に「音速をこえた直後、高圧層を維持する条件が突然消える。高圧部は爆発的に膨張し(ドーンと爆発音を出す)断熱膨張で急冷され、水蒸気が凍結して雲となる(音波は基本的に断熱過程)」と説明は終わる。音速を超えても目の前には常に空気があるのだから超音速で飛翔する限り高圧な空気層は発生し続ける。「音の壁」を破ったから解放される訳ではない$${^{*7}}$$。「音速をこえた直後、高圧層を維持する条件が突然消える」というのはおかしい。従って「高圧部は爆発的に膨張し云々」以降の説明は意味無し。

 では、どうしてあの白い雲$${^{*8}}$$が発生するのだろうか。

*1 Gil Refael
*2 20090519 衝撃波
*3 第4節 ドップラー効果 ◆ジェット機が音速をこえたときに雲ができる理由について
*4 20090520 衝撃波(2)
*5 身近な計測-ドップラー効果
*6 2m×2m遷音速風洞 | 風洞設備 | JAXA航空技術部門
*7 JAXA|極超音速飛行実験「HYFLEX」
*8 The Prandtl–Glauert Singularity – Amazing Jet Plane Shock Collar ~ Kuriositas

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?