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20090910 日本人発明伝説(2)

 「エレキギターを発明したのは日本人$${^{*1}}$$」と断言しているページを見かけた。本当にそんなことがあり得るのか。以前、同じ様なことを話題にした$${^{*2}}$$ことがある。「エレキギターは寺内タケシ$${^{*3}}$$が発明した」と言う伝説$${^{*4}}$$についてだ。これは明らかに間違っている事が判っている。寺内タケシ氏が生まれたのは1939年$${^{*5}}$$。アメリカでは1934年にリッケンバッカー社$${^{*6}}$$のGeorge Beauchampと言う人がエレキギターの特許を出願$${^{*7}}$$している。少なくとも世界で初めてエレキギターを発明したのは日本人である寺内タケシではない。

 断言している件のページでは、その日本人とは寺内タケシ$${^{*8}}$$氏ではなく、「政木和三」と言う人と主張している。この人自身は自分の著書$${^{*9}}$$の奥付(おくづけ)$${^{*10}}$$で「発明・開発したものは、自動炊飯器、自動ドア、瞬間湯沸かし器、エレキギターはじめ三〇〇〇件にのぼる」と書いている。ドクター中松$${^{*11}}$$並である。

 政木和三氏が生まれたのは1916年生まれで、少なくともリッケンバッカー社のGeorge Beauchampが特許を出願した1934年よりも前に生まれているので、George Beauchamp$${^{*12}}$$よりも早くエレキギターを発明している可能性がある。ただし遅くとも氏が十八歳になるまでに発明していなければ、世界で一番最初とは言えない。寺内タケシ氏は五歳でエレキギターを作製した$${^{*13}}$$と言うのだから時間は十分ある。

 「昭和十一年、大劇に出演した田端義夫$${^{*14}}$$がギターに小さなマイクをつけているのを見て、すぐに設計」という政木氏に関する記述を見つけた。昭和十一年は1936年だから George Beauchampが出願した1934年よりも後だ。これで政木和三氏が最初ではないことになる。田端義夫が歌手として世に出てきたのは1939年$${^{*15}}$$らしい。どうも政木氏は、田端義夫のデビュー前からの熱狂的なファンだったようだ。田端義夫は「昭和十三年にディック・ミネさんの舞台を見に行った。その時にミネさんは自分で輸入した電気ギターを持って出てきた。当時、電気ギターはアメリカにすでにあった。それで自分でも作ってみた」と語っているらしい。ディック・ミネを見に行った昭和十三年は1938年だから、歌手デビュー前である。確かに歌手になる前から田端義夫はエレキギターを持っていたことになる。エレキギターの特許出願が1934年なので、1938年であれば商品として出回っている可能性は十分ある。田端義夫の話には矛盾はない。

 そもそも政木和三氏にはエレキギターをいつ発明したと言う証拠がweb上には全く見つからないので、単なる伝説に違いない。トランジスタ日本人発明説$${^{*16}}$$と全く同じ構図だ。それにしても少し調べれば間違っていると判る様なことをさも常識の如く語る人の気持ちが知れない。まぁ、雑記草でも同じ様な誤謬を犯している場合は多々ある筈だ。本人は正しい常識と確信しているので、これを自ら正すことは難しい。自分の考えが常に正しいかどうかを確認する様に習慣付けなければ直らない。生涯勉強である。

*1 エレキギターを発明したのは日本人 - Google 検索
*2 20040114 エレキギター(2)
*3 TERRY TERAUCHI OFFICIAL HOMEPAGE
*4 HATAHATAHインタビュー
*5 いばらきもの知り博士:茨城が生んだ「エレキの神様」寺内タケシ
*6 Rickenbacker International Corporation
*7 Mini-Science on Pickups rickenbacker11.gif
*8 WFMU's Beware of the Blog: Takeshi Terauchi MP3s
*9 Amazon.co.jp: 本: この世に不可能はないー生命体の無限の力
*10 本の豆知識-本の奥付を読む-|日宝綜合製本株式会社
*11 20050912 日本人発明伝説
*12 Early History of Rickenbacker
*13 TERRY TERAUCHI OFFICIAL HOMEPAGE ◆プロフィール
*14 歴代会長 | 社団法人日本歌手協会
*15 田端義夫 - goo 音楽
*16 20050909 トランジスタの発明

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