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20031125 空気で湯を沸かす給湯器

 最近、「空気でお湯を沸かす給湯器$${^{*1}}$$」というテレビジョン広告をよく見る。空気でお湯を沸かすとは一体どういうことなのか。それだけを聞くとさっぱり判らない。

 しかも電気を使って、である。空気でお湯を沸かすと言うのに電気を使うというのは一体どういうことか。ガスで湯を沸かすならガスしか使わない。灯油で湯を沸かすなら灯油しか使わないのが普通である。ますます判らない。しかも電気で沸かすよりも電気代が安いという。もう支離滅裂である。電磁気商法の一種$${^{*2}}$$だろうか。

 そうではなかった。空気の熱を利用していた。空気が持っている熱をある方法でかき集めて温度を上げてお湯を沸かすのであった。熱があれば何でもよい。水でも土でも何でもいい。空気は一番身近にあって、入れ替えが簡単なので使うのである。

 給湯器は熱を運ぶガスが入った管とそのガスを圧縮する圧縮機とで構成されている$${^{*3}}$$。管の中に入っているガスを一旦低温にしておく。低温のガスが入った管をガスの温度よりも高い外気に晒しておけば、ガスは暖まる。暖まったガスはそのままの温度で圧縮機に運ばれる。これで外気の暖かさ、すなわち熱が運ばれていることになる。

 温めたガスを圧縮機で圧縮する。ガスを急に圧縮するとガスの温度が上がる。タイヤに空気を入れるとタイヤが少し暖かくなる。これと同じ原理でどんなガスでも急に圧縮すると温度が上昇する。これを断熱圧縮という。

 急に圧縮すると温度が上昇するのは、圧縮した時のピストンの動きが熱に変わるからである。その熱が圧縮したガス全体の「温度」を上昇させる。ガスは外気から貰った「熱」と圧縮機のピストンの動きによる「熱」とをもらって、更に圧縮機で「温度」を上げてもらうのである。

 物を温めるには「熱の量」と「温度」とが必要だ。「熱の量」とは物の温度を上げるのに必要なエネルギーのことである$${^{*4}}$$。いくら温度が高くても熱の量が少ないと相手の物をなかなか温められない。逆にいくら熱の量があっても相手を自分の温度以上にはすることが出来ない。水が満杯に入ったやかんにパチンコ玉を千度に熱して入れてもやかんの水はそんなに温度は上がらない。百度のお湯でいっぱいのやかんの中にパチンコ玉を入れてもパチンコ玉は百度以上にはならない。

 従ってこの給湯器は、外気から「熱」を貰って、圧縮機で「温度を上げて」、湯を沸かすのである。湯を沸かすと熱が水に移動するので圧縮されたガスの温度は下がる。

 今度は圧縮されたガスを急に膨張させる。すると圧縮機でガスを圧縮した時と逆の現象が起こる。ガスの温度が更に下がるのである。そして低温になったガスは再び外気で温められる。これの繰り返しで湯が沸かせるというのである。外気の熱を取り込んでいるので電熱器だけで湯を沸かすよりも効率がいい$${^{*5}}$$。

 外気の熱を取り込んでいるから「空気でお湯を沸かす」と表現しているが、圧縮機でも熱を作っているのである。圧縮する時には電気でモータを動かしているので「電気でもお湯を沸かしている」のだ。電気エネルギーを電熱器のように直接熱に変えるのではなく、まずはモータで運動エネルギーに変換して、それで空気を圧縮して熱に変えている。「空気と電気とでお湯を沸かす」と表現すべきだろう。

*1 エコキュート
*2 20030427 電気の本質
*3 エコキュートとは
*4 熱エネルギー
*5 電気温水器って何? エコキュートとの違いは? 電気でお湯をつくるシステムの基礎知識 | 住まいのお役立ち記事

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