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20031129 空気の摩擦

 隕石や宇宙船が大気中を高速で移動すると空気との摩擦で、移動体その物が高温を発すると言われている。ところが「これは空気との摩擦ではない$${^{*1}}$$」という人がいる。これは一体どういうことか。

 空気の摩擦ではなく、「断熱圧縮$${^{*2}}$$」による結果だという。空気が急に圧縮されると高温を発する現象$${^{*3}}$$と同じだというのだ。高速で移動する隕石や宇宙線の機体によってその前方の空気が急激に押しつぶされるため、筒の中でピストンで急に圧縮された空気のように熱くなる$${^{*4}}$$のであって、空気との摩擦で熱が発生するのではないらしい。

 似たようなことは専門家のページ$${^{*5}}$$でも書いてある。「空気の摩擦ではない」ということは果たして本当だろうか。

 「空気の摩擦ではない」と断言するのは間違っている。隕石や宇宙船が熱くなるのは空気の摩擦その物である。では断熱圧縮ではないのか。根本は断熱圧縮と同じと考えても良い。

 「空気の摩擦ではない」とは言うが、そもそも「空気の摩擦」とは何か。ここで言う摩擦とは「摩擦力」および「摩擦熱」のことだろう。空気によって隕石や飛行船が抵抗を受けるのが摩擦力、それによって発生するのは摩擦熱である。空気によって受ける抵抗というのは、空気分子が隕石や機体に衝突することによって起こる現象である。

 ところが空気分子の衝突の勢いが全て隕石や宇宙船の運動の抵抗にならずに一部は熱になってしまう。固体の熱というのはそれを構成する原子の振動$${^{*6}}$$だから、一部が熱になると言うのは、空気分子の衝突によって隕石や宇宙船の表面の原子が振動して熱になるということである。振動が大きければ温度が高いことになる。

 この空気分子の衝突の頻度が高くなれば抵抗も大きくなり、熱も沢山発生する。つまり空気中の速度が速くなれば空気の摩擦力が増え、摩擦熱も増加する。

 断熱圧縮は、筒の中の空気で言えば、ピストンの動きが空気の熱に変換される現象である。空気の熱というのは空気分子が飛び回る速さで、温度が上がるというのはその速さが速くなること$${^{*6}}$$に他ならない。断熱圧縮で空気の温度が上がるのはピストンで跳ね返った空気分子はピストンの動きの分だけ速度が速くなる$${^{*7}}$$からである。

 これは隕石や宇宙船が空気分子に対して行う仕事と同じである。隕石や宇宙船が空気中で素早く動けば直前の空気分子は熱くなるし、隕石や宇宙船自体も熱くなるのである。

 「空気の摩擦ではない」というのは、空気の摩擦という言葉の定義を明確にしていない状態での主張であり、「断熱圧縮なのだ」というのは、断熱圧縮とは空気の方の現象を示している言葉であるということを無視した主張なのである。

 隕石や宇宙船が大気圏の突入で熱くなるのは「空気の摩擦のせい」と説明しても何ら問題はない。

*1 空気 摩擦 断熱 圧縮 大気 - Google 検索
*2 断熱膨張と断熱圧縮
*3 20031127 火炎注射器(2)
*4 20031126 火炎注射器
*5 宇宙の不思議 うそ、ほんと -再び地球へ-
*6 ?を!にするエネルギー講座(TOPページ) ?を!に...>解説集>>熱と温度
*7 中川のビジュアル物理教室 断熱変化の分子運動

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