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ウラハラ

しぼんでいたものが、彼女の口の中で徐々に大きくなっていく。恍惚の表情を覚え『これが私の好きだったものだ』と丹念に舐めていった。

夫は高身長で見た目も良く、学生の頃はクラスメイトの中で一際目立っていた。その彼に見初められて付き合ったが、就職を期に遠距離恋愛になってしまった。暫くして放置されていることに彼女が気が付き別れようとすると彼が結婚を申し込んでくれた。好きであることを証明するように、毎日のようにセックスして愛を満たし合っていた、あの頃は。

子供が成長の過程で立ち行かなくなった。彼女は子供に寄り添い、ケアすることに全力を注いだ。一方夫は自らの理論を展開するばかりで身勝手に振舞った。夫婦言い合いになっても家族のためにと思い我慢していたが、意見の合わない夫に嫌悪を感じるようになってしまった。

「全摘になります」

致死性が高いため関係している部位を全て取り除く。彼女の主治医が淡々と話を続けた。しばらくの間は性交渉ができなくなります。そう言われたとき夫は少しだけ顔を上げた。既にレスなのだ、気にすることなどないのに。手術後、ポッカリと空いてしまった感覚になった。彼女はいじられた身体が収まるのをじっと待った。

身体を療養して1年経った時、子供の心の歯車が回り始めた。そのタイミングもあったのだろう、夫から誘われた。彼女の中の夫との溝は深く、許すことはできなかった。しかし、術後どのように行為で影響するものなのか、彼女の中で試したい気持ちが拒む気持ちを上回った。意外にもしてみると出来たことに安堵したが、やはり愛する気持ちにはなれず、彼女が満たされることはなかった。

一度すると断れなかった。時間がないから、子供が家にいるから、そう言ってかわそうとしたが、少しだけだと言って下着を降ろされ、夫だけ腰を振った。

あれだけ毎日していた好きなことが苦行になっている。日々の生活から逃れられないが唯一彼女が無心になれるのはオンラインゲームだった。仲間と楽しく話をしながらミッションをクリアする。SNSで会話することも、もっぱらゲームのことだった。

「保険の相談にのるよ」SNSで知り合った男性が言ってきた。保険外交員をしているのだという。彼女がメッセージの中で通院していることを話したから。その後も何度もアドバイスをしたいと激しく言うので、保険の話だけ会って聞くことにした。

男性は1時間経っても2時間たっても保険の話はしなかった。彼女もそんなことになるのではないだろうかと予想はしていた。そして男性はホテルに行こうと言い放った。

「君は表面では真面目で清楚を装ってるけど、実はそうじゃない面を持っている。その一面を俺に向けてくれたら嬉しい。」

さっきまでとりとめのない話をしていた男性が、彼女の本質を見抜いた言葉をかけてきた。気持ちいいセックスをしたい、夫ではない人としたい。そんな心の中に秘めていたものを見られた気がした。本当の自分のことを見つけてもらえて彼女は嬉しくなった。

「どんなセックスをするのかしらって思っちゃったんですよね」

微笑みながら目を輝かせて彼女はそう言った。小柄だが芯の強そうな雰囲気を漂わせる人だった。見た目もそうだが、SNSでの彼女は真面目で、ヲタクで、ゲーム好き。そんな彼女の本質とは裏腹に大胆な行動をする。瞳の中には好奇心が渦巻いているように見えた。

いまではお付き合いも3人目。イマカレは、毎回変わったことをする年上の男性。常に新しいことを彼女に提供してくれる。初めてのときに洗面所の鏡前でしたのが恥ずかしくも気持ちよかった盛大に潮を吹いてしまった。そんなセクシャルな話を無邪気に笑いながらしてくれた。

家族のことでさいなまれたり、大きな病気をして不満や寂しさを押し殺して生活していた。後悔しない人生を送りたいと強く思ったときに本当の自分を引き出してもらえた。好きな人ができたり、お互いが満たし合えるセックスができる。彼女の中の歯車も再度周り始め、明るい世界に生きることで人生がもう一度彩り豊かになった。

永遠に続くような優しい前戯のあと、激しく突かれて大きなオーガズムを感じた。しぼんだものを口にふくむ。お返しをしなければ、そんな気持ちになる。満たしてくれるそれが凄くうれしい。彼が愛おしい。


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