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「朝が来る」辻村深月の小説を映画化、妊娠に人生を翻弄された二人の母の物語

辻村深月の人気小説を河瀨直美監督が映画化した、「朝が来る」を観ました。

本作は、実の子を持てなかった夫婦と、実の子を育てることができなかった14歳の少女を繋ぐ「特別養子縁組」によって、新たに芽生える家族の美しい絆と胸を揺さぶる葛藤を描くヒューマンミステリーです。

映画「朝が来る」は、昨年10月に劇場公開され、先月からNetflixでも配信がスタートしました。2016年にはTVドラマ化もされています。

この作品を観たきっかけは、映画「あん」を手掛けた河瀨直美監督が、特別養子縁組というテーマをどう映画化するのかに興味があったからです。

不妊治療を経験する中で、里親制度や養子縁組を調べたことがありました。もし子供を授からず養子縁組をしたらどうだったのか、と考えながら鑑賞しました。

この記事では、映画「朝が来る」のあらすじと、おすすめポイントについて紹介します。


あらすじ

一度は子どもを持つことを諦めた栗原清和と佐都子の夫婦は「特別養子縁組」という制度を知り、男の子を迎え入れる。それから6年、夫婦は朝斗と名付けた息子の成長を見守る幸せな日々を送っていた。ところが突然、朝斗の産みの母親“片倉ひかり”を名乗る女性から、「子どもを返してほしいんです。それが駄目ならお金をください」という電話がかかってくる。当時14歳だったひかりとは一度だけ会ったが、生まれた子どもへの手紙を佐都子に託す、心優しい少女だった。渦巻く疑問の中、訪ねて来た若い女には、あの日のひかりの面影は微塵もなかった。いったい、彼女は何者なのか、何が目的なのか──?


”自分かもしれない” 2人の女性の苦悩や葛藤に共感

「朝が来る」には、なかなか子供を授からず不妊治療の末に養子縁組を決める夫婦と、若気の至りで予期せぬ妊娠をして生活が一変するカップルという、2人の異なる立場の女性が登場します。

妊娠できず苦労する女性と妊娠して苦労する女性。私は栗原夫婦の苦労に共感しかなかったですが、それぞれの苦悩や葛藤に心が動かされました。


新世代の女優、蒔田彩珠(まきた あじゅ)の存在感

永作博美さん、井浦新さんはじめ実力派キャストが並ぶ本作で、18歳の女優蒔田彩珠さんが存在感を発揮していました。同級生に恋をして14歳で子どもを妊娠、その子を養子に出す母親・片倉ひかり役を演じています。

学生時代のあどけない表情から、産後に生活が一変して別人のような顔つきになっていくギャップを見事に演じていました。ちなみに蒔田さんは、この作品で第44回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞しています。

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「役積み」から生まれる、ドキュメンタリーのような生々しさ

本作では、栗原夫婦が養子縁組を考えるきっかけになるテレビ番組や、NPO法人の説明会で、おそらく実際に養子縁組をされた方のインタビューシーンが出てきます。フィクションを観ているはずなのにドキュメンタリー番組を観ているかのような、不思議な感覚が何度かありました。

河瀬監督の作品には、出演俳優が役を積み上げる準備期間を体験する「役積み」というものがあるそうです。共同生活をする家に撮影前から実際に住むなど、カメラのない状態でも経験をしていくことで生まれる経験が、登場人物の表情や台詞の一つ一つに生々しさを与えていました。

「特別養子縁組は子供のための制度」という言葉が、記憶に残りました。


さいごに

「朝が来る」は、妊娠が与える人生への影響と、人間の強さや弱さ、家族の絆について真摯に問いかけてくる作品です。時折差し込まれる海や草花などの映像の美しさも河瀨監督ならではです。

こんなご時世だからこそ、「朝が来る」を観て家族の形をあらためて考えるきっかけになればうれしいです。

エンドロール後の一言まで聞き逃さないでくださいね…!


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