見出し画像

不朽の聖地・アントワープ

聖地巡礼。
それは宗教における重要な場所に信者が足を運ぶことであり、現在では転じてアニメやドラマなどの作品のロケ地や舞台となった場所をファンが訪れることも指す。
ことアニメにおいては、2000年代以降に巻き起こった聖地巡礼ブームで西宮・秩父・飛騨など日本各地に様々な聖地が誕生し、コンテンツツーリズムによる地域経済振興に貢献がなされている。

アニメにおける聖地巡礼は1991年発売の「究極超人あ~る」OVA版が起源とされ、現地には聖地巡礼発祥の碑が建立されているそうだ。

しかし、世界に目を広げた時、おそらくはそれ以前から、とある名作アニメの聖地として多くのファンを集めている場所がある。
今回はそんな街、ベルギー・アントワープを取り上げたい。

アントワープはこんな街

アントワープ(英:Antwerp、蘭:Antwerpen)は、ベルギー北部フランデレン地方に位置する同国第二の都市である。

その歴史は2-3世紀頃まで遡るとされており、スヘルデ川の河口に位置するその立地から港湾都市として毛織物交易などで発展した。
現在でも世界第14位、ヨーロッパではロッテルダム(オランダ)に継ぐ第2位の貨物運輸規模を誇る世界有数の港湾都市となっている。

そんなアントワープが舞台として登場するアニメ作品と言えば、世界名作劇場の記念すべき第1作「フランダースの犬」である。

1872年にイギリスの作家ウィーダによって書かれたこの児童文学作品は、1975年にアニメ化されると、その最終回は視聴率30.1%を記録するなど懐かし名作アニメ定番中の定番として知られている。

優雅な玄関口

アントワープへは、首都ブリュッセルから電車で約40分程度の道のりだ。
その玄関口となるのがアントワープ中央駅である。

ベルギー人建築家ルイ・デラサンセリの手で設計され、19世紀末から20世紀初頭にかけて建設されたアントワープ中央駅は、様々な機関の選ぶ「世界で最も美しい駅」の常連となっている世界屈指の名駅である。

その外観もさることながら、内装も素晴らしい。
長距離の列車は基本的に地下に到着するので、エスカレーターで登っていくことになるが、エスカレーターの向こうには美しいコンコースが待っている。

後ろを振り返ると、トレインシェッドと呼ばれるホームと線路を覆う、高さ44m長さ185mの巨大な屋根に圧倒される。

さらにコンコースを抜けたエントランスホールも素晴らしい。

初めて訪れた際には、なにかのイベントでダンスホールと化していた。

冷静に考えればターミナル駅で社交ダンスをするというのはなかなかシュールなはずなのだが、それを画にしてしまうのがアントワープ中央駅の魅力である。

聖地

駅から聖地へのある街の中心部へは2km弱の距離だ。
市電を利用することもできるが、せっかくならば歩いて訪れるのも悪くない。中世から貿易で栄えた街らしく、歴史ある建物を横目に街を進んでいこう。

20分ほど歩くと、巨大な聖地が姿を表す。

ここ聖母大聖堂(Onze-Lieve-Vrouwekathedraal)は1352年に建設が開始され、169年の時を経て1521年に完成したゴシック様式の教会である。

123メートルの高さを誇る尖塔は神聖ローマ皇帝カール5世をして「一つの王国に値する」と言わしめたアントワープを象徴する建築であり、「ベルギーとフランスの鐘楼群」として世界遺産にも登録されている。

そしてここが、フランダースの犬の主人公ネロが鑑賞を熱望したルーベンスの絵が所蔵され、最終回名シーンの舞台となった教会である。

フランダースの犬 第1話「少年ネロ」より
©NIPPON ANIMATION CO., LTD.

早速内部へ。

身廊(入口から主祭壇に向かう中央通路)が他の教会と比較して明るい印象を受けるのは、ステンドグラスがごく一部にしか使われていないからのようだ。

祝福の塔と呼ばれる尖塔部分も、ふんだんに差し込んだ光が白亜の壁を照らすさまが美しい。

そして主祭壇奥に飾られているのが、少年ネロが足繁く通っては眺めた、ルーベンス作「聖母被昇天」である。

フランダースの犬 第1話「少年ネロ」より
©NIPPON ANIMATION CO. LTD.

そして、やはり側廊部に並ぶ絵画のなかで特筆すべきが、同じくルーベンスの傑作「キリストの昇架」そして「キリストの降架」だろう。

キリストの昇架
キリストの降架

十字架を背負い、処刑場であるゴルゴダの丘へと運ばれるイエスを描いた「キリストの昇架」および処刑されたイエスの亡骸が降ろされる「キリストの降架」は、少年ネロがどうしても見たかった絵として知られる。

「フランダースの犬」作品内において、これらの作品は分厚いカーテンで覆われており、閲覧には銀貨を必要とするため、貧しいネロにはずっと見ることが叶わずにいた。

そして最終話にネロは極寒の吹雪の中教会にたどり着く。すると、どうしたことか、普段は閉ざされているカーテンが開いており、ついにネロの念願は果たされるのである。

フランダースの犬 第52話「天使たちの絵」より
©NIPPON ANIMATION CO. LTD.

ルーベンスの絵の前でネロはパトラッシュと共に永遠の眠りについたのだ。

フランダースの犬 第52話「天使たちの絵」より
©NIPPON ANIMATION CO. LTD.

今は(入場料こそかかるものの)銀貨を払わなくともルーベンスの絵が見られる幸せな時代ではあるが、いざ目の当たりにした私の脳裏にはクライマックスのシーンが再生され、私自身もなんだかとっても眠くなってきたような気がする瞬間なのであった(時差ボケ)

フランダースの犬 第52話「天使たちの絵」より
©NIPPON ANIMATION CO. LTD.

フランダースの犬は、現地ベルギーやその他の国ではあまり有名とはいえず、聖地巡礼に訪れるのは殆どが日本人であるそうだ。

10年ほど前に訪れた際には、大聖堂の外にトヨタの出資で作られた記念碑が設置されていた。

5年ほど前に再訪した際には別のものになっていた。

その他のみどころ

ルーベンス

少年ネロが憧れた絵の作家であるピーテル・パウル・ルーベンは、実在するアントワープで活躍した画家である。
両親がアントワープ出身であったルーベンスは幼少期をアントワープで過ごし、画家として大成した後に再びこの地へと戻り、宮廷画家として先に上げた作品を始めとする傑作を残した。

聖母大聖堂を臨むフルン広場には彼の像も設置されている。

また、市内にある彼が住んだ家も現在は博物館として公開されている。

市庁舎

大聖堂にほど近い市庁舎も必見スポットである。

16世紀なかばに建立されたルネッサンス様式の市庁舎は、大聖堂と共に世界遺産「ベルギーとフランスの鐘楼群」を構成している。

市庁舎前には伝説の巨人シリヴィウス・ブラボーの噴水がある。

伝説によると、
アントワープを流れるスヘルデ川の川岸にかつてドルオン・アンティゴーンという巨人が住んでおり、付近を通り過ぎる船に通行料を求め、それに応じない者に対しては、その手を切り落として河へ放り捨てていた。
しかし、ローマの戦士ブラボーがアンティゴーンを倒し、その手を切り落として河へ投げ捨てたそうである。

噴水はその伝説をもとにしており、ブラボーがアンティゴーンの手を川へと投げ捨てんとする様子が表現されている。

一説によればアントワープという町の名前は、この逸話handwerpen(hand:手 + werpen:投げる)が基になっているともいわれている。

この市庁舎前の広場は中世頃の雰囲気をよく残しており、観光の拠点となる場所でもある。

余談だが、広場近くのレストランで食べたフィッシュアンドチップスは、イギリスのどこで食べたフィッシュアンドチップスよりも美味しかった。

永遠の輝き

また、アントワープは世界屈指のダイヤモンド取引を誇るダイヤモンドの聖地でもある。

13世紀頃からインドで算出されたダイヤモンドがベルギーへともたらされるようになるとアントワープはダイヤモンドの研磨及び取引で名を馳せ、原石の85%を取り扱うなどダイヤモンド取引の中心地となっている。

駅前にはダイヤモンドを扱う店が軒を連ねているので、お土産に良いかもしれない。

私がお土産としてダイヤを買ったかどうかは、いつかベルギーのお土産について記事にした際に明かされるだろう。

アントワープのマグネット

アントワープのマグネットがこちら。

縦長タイプのマグネットには市庁舎前の広場とそこから臨む聖母大聖堂が描かれている。ブラボーの噴水もきっちりと描かれているのがポイントだ。

不朽の名作の聖地として名高いアントワープであるが、ファンにはもちろんそうでない人にとっても絵画・建築など様々な面で魅力的な街であると言えるだろう。


最後までご覧いただきありがとうございました。

いただいたサポートは、新たな旅行記のネタづくりに活用させていただきます。