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北ウェールズ名城探訪・後編

前編はこちら。

コンウィから次の街へ向かう前に、腹ごしらえをすることにした。
いただくのはウェールズのご当地料理であるウェルシュ・レアビット(Welsh Rarebit)だ。

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ウェルシュレアビット(ウェルシュラビットとも)は、平たく言えばチーズソースのかかったトーストである。

単純なチーズトーストではなく、ビールやウスターソースなども入ったチーズソースとなっているのが特徴で、正直今となっては詳しい味は覚えていないが、とにかく美味しかったということだけは確かだということだけは言える。

メナイ吊橋

味の詳細はさておき、次なる目的地へと車を走らせる。
次の城があるのは、ウェールズ北西部に接するアングルシー島だ。

途中本土とアングルシー島を結ぶメナイ吊橋を見物しに立ち寄る。

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アングルシー島の先端・ホーリーヘッドは、アイルランドとの最短地点であるため、かつてロンドンからアイルランドへ向かう渡航者はアングルシー島を経由して向かうのが主要なルートとなっていた。

しかしながらアングルシー島と本土を隔てるメナイ海峡は潮の流れが激しく、渡し船での行き来には多大なるリスクを伴っていた。

そんな中で1824年にこの橋が完成したことで、ようやくその問題が解決されたそうだ。

そんな歴史に思いを馳せつつ、ふと橋の周囲を見渡すと、どえらい位置に家が数軒建っていた。

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特に雨が降っていた訳では無いのにこの水位。常に浸水の危険と隣り合わせだろう。そして橋もないので、船での移動を必要とする立地である。

どうしてこんなところに住もうと思ったのだろうか。
ハザードマップが見たくなった瞬間である。

なお、現在はポンプによる水量調節がなされており、浸水の心配は基本的に無いそうだ。

Wikipediaより

究極の二択

アングルシー島に入って北東に車を走らせること15分。次なる目的地のあるボーマリスの街にたどり着いた。

駐車場に車を停める際、とある事実に気づく。
その駐車場は有人であり、料金を管理人に支払うシステムであった。
そしてカード文化のイギリスにしては珍しく現金しか受け付けていなかったのである。

駐車料金は2ポンド。
小銭入れを見る。小銭はない。
札入れを見る。そこには2枚の紙幣があった。
駐車するにはどちらかの紙幣を用いる必要があるということになる。

エントリーNo.1 50ポンド紙幣

出典:Bank of England (2011年発行の旧紙幣)

イギリスで流通する最高額紙幣である。
記事執筆時点のレートで約8,100円相当の価値を持つ。

8,100円と聞いた後では意外に聞こえるかもしれないが、英国にて日常生活を送る中でこの50ポンド紙幣を見かける機会は皆無である。
ATMでも出て来ないし、日常使われることもない。
観光客と両替商以外に保有するものはいないと噂され、市井では想像上の存在なのではないかという説がある。(一部誇張)

そんな50ポンド紙幣を私が持っていたのは、ちょうど数週間前に渡英してきていた友人と、諸々の費用精算をしていた際に受け取ったからである。
渡英9ヶ月目にして最初で最後の感動の対面であった。

ニセ札のリスクが忌避されることから、受け取りを拒否される事も多いと言われる。
わずか2ポンドのためにこれを使うのは、拒否されるリスクが有る。

他の選択肢も検討すべきだろう。

エントリーNo.2 5ポンド紙幣(北アイルランド)

出典:Bank of Ireland UK

イギリスで流通する再小額紙幣である。
通常2ポンドの支払いに対する最適解のはずだ。
しかしここで問題となるのが、発行者がBank of Ireland UK(北アイルランド銀行)であるという点である。

イギリスは4つの国から構成される連合王国であり、通貨としてはスターリング・ポンドが採用されているが、イングランド、スコットランドおよび北アイルランドでそれぞれ独自のポンド紙幣が発行され、流通している。(ウェールズでは発行されていない)

いずれも等価のポンド紙幣であるので、理屈上はどこの国で発行されていても使えるはずである。
しかし、イングランド銀行発行のものがどこでも使える一方で、逆には制約がある。
いや、本来制約はないはずだが、受け取りを拒否されるケースが多いのである。

そしてスコットランド銀行発行の紙幣より数段レベルの高いUMA紙幣が北アイルランド銀行発行の紙幣なのである。
その知名度の低さは、ロンドン・ヒースロー空港勤務の両替商をして、「これ何?」と言わしめるレベルである。(実話)

その前の月、北アイルランドを旅した際にお釣りとして手渡された5ポンド紙幣は、哀れにも母国を離れて私と共にイングランドへと渡り、活躍の場を失っていたのである。

このカードをここで切るのは説明が面倒だ。

厳正なる審査の結果、エントリーNo.1の50ポンド紙幣に栄えある活躍のチャンスが与えられる運びとなった。

係員の若い男性に「ごめんよ、これしかないんだけど。。。」と言い訳をして幻の再高額紙幣を差し出す。

( ゚д゚)?!

一瞬目を丸くする係員。

しかしすぐさま、口角が上がりニヤニヤし始める。

「おい!これニセ札じゃないだろうな!お前顔覚えたからな!(・∀・)」

そう言うと、お釣りを取りに事務室へと戻る男。
部屋に入ったと思えば、中から先程の男の声がする。

「おいおい!見ろよ!!50ポンド紙幣だぞ!!!(゚∀゚)=3」

こうして私は48ポンドを受け取って無事駐車に成功し、財布に眠った不良債権はついに日の目を見たのである。

なお、選ばれなかった可哀想な北アイルランド紙幣は、後日ユーロへの両替を試みられ、両替商に「これ何?」と言い放たれる悲劇へとつながるのである。
広い意味ではお前の国のやぞ。

その後、あの哀れな5ポンド紙幣が無事祖国に帰りつけていることを願ってやまない。

また、イングランドの50ポンド紙幣と北アイルランドの5ポンド紙幣を同時に1つの財布に収納した状態でウェールズを旅した人間は、人類史上少なくとも日本人では私が唯一である可能性がある。

未完の要塞・ボーマリス城

そんな紆余曲折を経てたどり着いたのがボーマリス城である。

ボーマリス城(Beaumaris Castle)は、1282年にイングランド王エドワード1世によって構築された城の1つである。北ウェールズの征服を目的として建設が開始されたものの、スコットランド侵攻などの影響で作業は途中で中断。結局城郭が完成することはなかった。
しかしながら軍事建築としての評価は高く、「グウィネズのエドワード1世の城郭と市壁」として世界遺産に登録されている。

未完成の城ながら、城の周囲には今も水濠が張り巡らされている。

橋を渡って中へ。

内部にはさらに壁があり、二重の膜壁が構成されている。

この城が未完でありながら世界遺産に登録されているのは、その二重幕壁構造の美しさであるとされ、13-14世紀の軍事建築最高峰であると言われる。
上空からの姿見るとその均整の取れた全景がよく分かる。

Cadw, OGL v1.0OGL v1.0, via Wikimedia Commons

とはいえ、地上からの見学ではなかなかその全景に迫れないのが残念なところだ。

水辺の名城・カーナーヴォン城

ボーマリスを後にしてアングルシー島の名所中の名所、皆さんご存知世界一長い名前の駅であるLlanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwyllllantysiliogogogochに立ち寄る。

その後、アングルシー島を離れて向かったのはカーナーヴォンである。

この街にあるのが、同じく世界遺産に登録されているカーナーヴォン城である。

ローマ時代には既に砦が存在していたとされているが、やはり13世紀後半のウェールズ侵攻において、エドワード1世によってイングランド王家のウェールズにおける本拠地として今の形に建設されている。

海沿いに立つため、満潮時には水面に映る姿が見れるそうだが、残念ながら訪問時は完全に潮は引いていた。
何故か祖父母が住む岡山県の田舎町と同じ匂いがしたことが思い出される。

そして日は開けて翌日、城の中へ。

イングランドによるウェールズ統治の象徴として建造された城は、防御力も重視され、高い壁と8つの塔によって覆われている。

イギリスの次期国王にはプリンス・オブ・ウェールズの称号が与えられるのは、前編で述べたとおりだが、その戴冠式が行われるのがここカーナーヴォン城である。
現在のプリンス・オブ・ウェールズであるチャールズ皇太子も1969年7月1日にカーナーヴォン城で叙位式典を執り行っている。

引用:Daily Post
引用:Daily Post
引用:Daily Post

また、ウェールズ地方は、映画「天空の城ラピュタ」にて大いに参考にした場所、とされている。

そしてカーナーヴォン城は、前半部でシータが幽閉されていた軍の城のモデルではないかと言われているのだ。
そう言われると、どことなくそんな気もしてくるものだ。

本日のマグネット

今回のマグネットはこちら。

ボーマリス城は、均整の取れた上空からの姿。
カーナーヴォン城は潮の満ちた海越しの姿になっている。
いずれも直接は見ることが叶わなかった景色だ。
マグネット越しの対面ということで望みが果たされたことになる。

イギリス内の他の知名度の高い観光地に押されて、あまり知られていないウェールズであるが、今回あまり取り上げられていない食文化も含めて、素朴ながら魅力のあるコンテンツが揃っている。

イングランドから少し足を伸ばして、城と羊のあふれるこの国の文化に触れてみるのも悪くはない。
その際はなるべく小額の紙幣を持って臨みたいものである。


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