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ウイスキーの聖地・アイラ島(前編)

「アイラ島を知っていますか?」と人に訪ねた時、帰ってくる答えは2通りある。

Yes or Noではない。

Whisky or Noだ。

ウイスキーに興味がなければイギリス人でも知らない、そんな大西洋に浮かぶ小さな島には、世界中のウイスキー通を虜にする8つの蒸溜所がある。
今回はそんなウイスキーの聖地、スコットランド・アイラ島について取り上げたい。


アイラ島はこんなところ

アイラ島(Isle of Islay)はスコットランド本土の西、インナーヘブリディーズ諸島最南端の島である。
歴史は古く中石器時代にさかのぼり、漁業や農業などで栄えて最盛期には18000人程度の人口を抱えていたものの、移住政策などにより人口は激減し、今では約3000人程度を数えるのみである。

しかしながら、この島は世界的に有名な8つの蒸留所を持ち、それら蒸留所から生み出されるアイラモルトと言われるウイスキー達は、その多くが強いピート香を放つ独特のスモーキーさで、世界中のファンの舌を唸らせている。
(なお現在は新たに作られたアードナホー蒸留所があるほか、1983年に閉鎖したポートエレン蒸留所も再稼働の計画があるなど、しばらくは発展が続いていきそうだ。)

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アイラ島へのアクセス

アイラ島には船か飛行機でのアクセスとなるが、多くの人にとって便利なのは飛行機だろう。
スコットランドのグラスゴー国際空港からアイラ空港まで定期便が運行されている。離島へのアクセスだけあり、小型のプロペラ機だ。

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もしくは、フェリーで本土のケナクレイグからアクセスも可能だ。カーフェリーであるので、レンタカーを借りての旅行などの場合、選択肢になるだろう。

年に一度のお祭り

アイラ島では、年に一度、毎年6月上旬にIslay Festival(Feis ile)と銘打ったモルトと音楽のお祭りが行われる。
期間中は蒸留所が日替わりでオープンデーを設け、観光客向けに様々なイベントが行われる。また、各蒸留所が限定のウイスキーを発売することもあり、世界中から多くのウイスキーファンが訪れるのだ。

せっかくアイラ島に行くのであればこの期間に訪れるのが良い選択肢であると言えるが、その場合特に宿泊施設は早めに確保すべきだ。

元々人口約3000人ののどかな島に、この1週間は世界中からウイスキーマニアたちが押し寄せる。私は半年前の前年12月に計画を立てたものの、その時点で既に殆どの宿泊施設は満室であった。
幸いにして1人だったこともあり、なんとか部屋は確保できたものの、かなり余裕を持って予約しておくのが吉だろう。

島内の主な集落であるボウモアポート・エレンのどちらかに滞在するケースが多いと思われる。参考までに島の蒸留所との位置関係は以下の通りだ。

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私はボウモアに滞在したが、地理的に島の中心部にあるため、どの蒸留所へも平均的にアクセスしやすく、また観光案内
所もボウモアにあるという利点があるので、個人的にはおすすめしたい。

また、島内の交通手段に関しても同様に事前の検討が必要だ。公共交通機関としてはバスが存在するが、その本数は非常に少ない。最も自由に移動できるのはレンタカーだが、当然ながらレンタカーを運転するとウイスキーが飲めないというジレンマと戦うことになる。タクシーのチャーターも選択肢だろう。

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Day1-1 ブナハーブン蒸留所

グラスゴーからの飛行機でアイラ島に降り立った私は、ひとまずバスで中心部・ボウモアに向かいホテルにチェックインを済ませると、早速最初の目的地に向かうことにした。
最初の目的地は、その日オープンデーであったブナハーブン蒸留所だ。

ブナハーブン蒸留所は、島の北東部に位置する。アイラ島に行ってウイスキーが飲めないのでは意味がないと、バス移動する気満々だった私に最初の試練が訪れる。
次のバスが2時間後という現実だ。事前に蒸留所内の見学ツアーを予約していたのだが、2時間後だと間に合わない。仕方なく、観光案内所でタクシーを手配することにした。

観光案内所にタクシーの手配を依頼すると、案内所のおばちゃんは島のタクシー運転手全員の電話番号を把握しており、順番に電話を掛けて確認してくれた。流石は田舎である。
しかしながら現実は厳しい。空いているタクシーはなかったのである。「1人だけ電話に出なかったから、そいつを捕まえれば可能性はある」といわれ、ひとまず観光案内所の外へ。あたりを見回してみる。

いた。

何たる幸運。(どうしてそのタクシーが残る1人のものだとわかったのかは正直失念してしまった。ナンバーか特徴を聞いていたのだとは思う。)
早速交渉を試みる。しかしながら現実は厳しい。既に予約が入っているとのことだった。

万策尽きた。
仕方ない、見学は諦めバスを待つか、と思ったその時。観光案内所からおばちゃんが出てきて私を呼んだ。
今からスウェーデン人のグループをのせてブナハーブンに行くタクシーに空きが1席あるから、相乗りで良ければ乗せてくれるそうだ」とのこと。
何たる幸運。もちろんお願いする。
こうして無事にブナハーブンまでの足を確保したのであった。

スウェーデン人達に紛れて大型のタクシーに乗り込む。中心地を少し離れるとすっかりのどかな風景だ。

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隣の席になったスウェーデン人は「俺は5年先までこの時期のホテルを予約しているんだ」と言っていた。おそらくそんな人達が大勢いるのだろう。ガチ勢の強さを知った時間だった。

そんなこんなでタクシーはブナハーブンへと到着した。

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ブナハーブンは1881年に創業した蒸留所であり、アイラ島の蒸留所にしては珍しく、ピートをほとんど使用しないためクリアな味わいが特徴である。
おそらく今後新たなウイスキーを詰められるときを待っているのであろう多くの樽たちが出迎えてくれる。

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タクシーを使ったため、逆に見学の時間に早く着きすぎた私は、ひとまず蒸留所をうろついてみることにした。

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この年の限定ウイスキーは2種類だった。ひとまず試飲をしたが、まだ先は長い。ブナハーブンでは購入しなかった。
時間も昼を過ぎ、小腹のすく時間だ。アイラ島での最高の贅沢を試してみることにした。

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ウイスキーと牡蠣だ。
漁業も盛んなアイラ島では新鮮な牡蠣もその名物であり、牡蠣とアイラモルトの相性は抜群だ。

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牡蠣に少量のウイスキーを垂らして食べる。なんと贅沢な瞬間だろう。
来てよかった、と恍惚感に浸りながら時を過ごす。

そうこうしているうちに、見学ツアーの時間だ。
マッシュタンと呼ばれる麦の糖化を促す金属槽や、

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蒸留に用いるポッドスチルなどを解説を受けながら見学する。

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そしてお待ちかねの試飲タイム。
一通り見学してわかったような気持ちで飲むと、なぜかより美味しく感じるのだから単純なものだ。

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次なる目的地へ

見学を終えたところで、ブナハーブンを後にし、次なる蒸留所へ向かうことにする。次に目指すのは、同じく島北東部に位置するカリラ蒸留所だ。

ところがここで問題が一つある。ブナハーブンからカリラへのバスがないのだ。ブナハーブンからカリラは約7.5キロの道のり。流石に歩きたくはない。どうしたものかと考えていると、Park & Rideのバスが目に留まる。どうやら、蒸留所内の駐車場だけでは来場者をさばききれないため、臨時の駐車場を用意してそこと蒸留所までをバスで結んでいるようだ。
駐車場がどこにあるのかは知る由もなかったが、方向的にはカリラ方面に向かいそうなので、とりあえずこれに乗ってしまえば、多少なりと近づけるだろう。
そう考えて、バスに乗り込む。

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ブレブレなのは恐縮だが、途中アードナホー蒸留所の建設予定地を通りかかる。まだオリジナルブランドのウイスキーは発売していないようだが、今後が楽しみだ。

そして、駐車場へ。思ったとおり、ある程度近づくことが出来たので、ここからは歩いていくことにした。
地図を頼りにカリラへ向かう。
なお、2017年時点で、島内のネットワークは中心地でかろうじて3G、その他大多数のエリアは圏外か2Gであった。地図は予めダウンロードしてオフライン利用できるようにしておきたい。
のどかな道を進む。

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所々の案内板が、正しい道を歩いているのだと教えてくれる。
30分ほど歩いただろうか。ようやくカリラ蒸留所へと到着したのであった。

Day1-2 カリラ蒸留所


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うまく位置共有が出来ないので、スクリーンショットを載せておく。
カリラ蒸留所は1846年に創業され、アイラ島の蒸留所の中でも最大規模の生産量を誇る蒸留所だ。特にジョニーウォーカーのキーモルトとして知られ、スモーキーな味わいを生み出す鍵となっている。

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海辺に佇む蒸留所の姿が印象的だ。

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カリラでは特にツアーには参加せず、外から施設の様子を眺めたり、

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ショップを眺めて試飲するにとどまった。

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この写真のブレ具合からするに、既にブナハーブンでいいだけ飲んで酔っ払っていたのだろう。
この年の限定ボトルであった12年が美味で、1本購入した。

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限定1500本とのことだったが、まだ在庫に余裕はありそうに見えた。

ボウモアへ戻る

ホテルへと戻ろうと、蒸留所の建屋を後にする。
飼い猫だろうか、黒猫がのんびりと机の上でくつろいでいた。

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ここで分かってはいたことながら、次なる問題に直面することになる。
バスがないのだ。
すでにボウモアへ戻るバスはすべて出てしまっている。ボウモアまで距離にして約17キロ。流石に歩きたくはない。

こうなるとやることは一つだ。
駐車場をうろつきながら、車へ乗り込もうとする人のうち、なるべくいい人そうな人を見つけて声をかける。

1st Try。日本人ではなさそうだが東洋系のいい人そうな男性に狙いを定める。
私「ボウモアまで帰りたいんだけど、バスがなくて、、、のせっててもらえませんか?」
男性「ブリジェンドまでなら良いよ」

何たる幸運

ご厚意に甘えて乗せてもらう。インドから来た医者らしい。あまりイメージがないが、インドはウイスキーの消費量が世界一だそうであり、アムルットなどインドウイスキーの銘柄もあるのだ。

ウイスキー談義をしながらブリジェンドへ。そこからはまだボウモア行きのバスがあったため、無事帰り着くことが出来たのであった。

翌日はオープンデーであるアードベッグを始めとする、南部の3蒸留所へ。そして翌々日は満を持してボウモア蒸留所を訪れるのだが、後編に続く。

最後までご覧いただきありがとうございました。
後編もお楽しみください。


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