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【海の教訓】

遥か彼方の孤島、そこには老人と若者、ふたりだけが暮らしていました。老人はかつて漁師であり、海と共に生きてきました。しかし今では、海から離れた島の内陸で穏やかに日々を過ごしています。一方、若者は海を愛し、日々海へ出ては漁を行っていました。

ある日のこと、若者が海から帰ってきた。手には見たこともないほど巨大な魚を持っていました。老人はその魚を見て驚き、若者に警告しました。「その魚は海神の使者だ。すぐに海に返すべきだ。」しかし若者は老人の忠告を無視し、その魚を自分のものにしました。

次の日から、海からは一匹の魚も釣れなくなりました。それどころか、海辺には高波が立ち、孤島は窮地に立たされました。老人は若者に対し怒りを込めて言いました。「これは海神の怒りだ。お前が海神の使者を食べたせいだ!」

若者は恐怖と後悔に襲われました。そして、海神に謝罪の意味を込めて、その魚を返すために海へと潜りました。しかし、海の中には何もなく、ただ深い静寂だけが広がっていました。若者は脱力感に襲われ、とうとう海から上がってきました。

その時、老人がニヤリと笑って言いました。「実はあの魚、海神の使者なんてことはない。ただの大きな魚だよ。だがお前が毎日大量に魚を獲りすぎて、海のバランスを崩したんだ。だから魚が釣れなくなったんだ。」

老人は続けて言いました。「海は我々にとって大切な資源だ。だから大切にしなければならない。お前がそれを学んだ今、海はまた魚で溢れるだろう。」若者は恥ずかしそうに頷きました。

数日後、海は再び魚で溢れ、島の生活は元通りになりました。若者は今や海と魚を大切に扱い、それぞれの生命に感謝するようになりました。

そしてある日のこと。若者が海辺で漁をしていると、波間から同じ巨大な魚が現れました。しかし今度は、若者は笑顔を見せて魚を手放しました。「君がここにいることが、この海が健康である証だからね。」

老人が遠くから見つめていました。そして、にっこりと微笑みながら、独りごとを言いました。「ようやくお前も、海との調和を理解したようだな。」

その言葉とともに、島の上空には青く広い空が広がり、海は穏やかな波を立てていました。島と海、人と自然、全てが調和している。それはまるで、新たな伝説が始まったかのようでした。

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