The GORK 22: 「禿山の一夜 サタンの邪教賛美」
22: 「禿山の一夜 サタンの邪教賛美」
俺は、文字通り「早鐘のような鼓動」を味わっていた。
もしかしたら窃盗犯の何割かは、金品目当てではなく、この興奮を味わいたくて、盗みを働いているのではないかと俺は思った。
部屋から出て行く十蔵の後ろ姿を見届け、緊急避難通路にある緊急電話からパスワードを打ち込み、十蔵の部屋のドアノブに手をかけた。
ドアが開いた瞬間の喜びから、いつ十蔵が帰ってくるのか、という不安な感情への急降下が引き起こした、心の波は俺を激しく飲み込んでいた。
ドアを背に、恐ろしく整理された十蔵の部屋を見渡しながら、俺は深呼吸をした。
『落ち着け、目川純。ここまで来たらやるしかないんだ。』
ロドリゲスが、手慣れた様子で手枷足枷を使って、鷹匠クンをX字型にコンテナの壁へ張り付けていく。
コンテナの鉄骨には、手枷足枷を接続する為の鉄製リングが溶接してあったから、元からそういう目的の部屋だったのかも知れない。
紫ガスマスク女装男は、その様子を椅子に座ってじっと眺めている。
鷹匠クンは、既にロドリゲスの手荒い攻撃を受けて、半分意識を失っているとは言え、こういった時には、男の子として、もうちょっと抵抗して欲しいものだと思った。
もっとも僕も男の子だけど、見かけは娼婦ファッションに身を包んだパンク少女なので、ギャースカ喚きながら、唯々諾々と張り付けの刑に処せられているから、大きな口は叩けない。
いずれにしても、僕たちはスーパーヒーローじゃない。
敵地のど真ん中で捕まえられたら、生半可な体術でいくら抵抗しても無駄なことだ。
この窮地を脱するには、チャンスを伺うしかない。
「あんただろう?猪豚を誘惑して、色々と俺達のビジネスを嗅ぎ回っていたのは。」
自分の正体を晒す気になったのか、紫ガスマスク女装男の口調が男言葉になっている。
それどころか、今まさに、自分のガスマスクを脱ごうとさえしているのだ。
やばい、これは本当にやばい。
自分の正体を晒すと言うことは、僕たちに対して、徹底的な束縛を考えているということに他ならない。
ガスマスクを脱いだ後、セミロングの栗色の髪を手櫛で纏めながら、女装男はフゥと短いため息を付いた。
細面の顔で、目鼻立ちがはっきりしているから、きついメイクが映える。
すらりとした脚を組んで、こちらを見上げているその姿を見て、まるで外国の映画女優みたいだ、、と僕は少し場違いな感心をしていた。
「外には鷹匠クンのお抱え運転手さんが待ってる。アタシ達が帰らなければ、それなりの手は打ってくれる、、、だから、」
「だから、なんだ?」
女装男は椅子から立ち上がると、鷹匠クンの側に行き、その頬を人差し指でツーッと撫でた。
「第一、こいつとお前の関係はそんなに深いものなのか?」
今度は女装男の手が鷹匠君の股間に伸びる。
「用があるのは、お前だけだ。この坊やは、やることをやったら、すぐに解放してやるさ。身元は分かっている。スキャンダルで、雁字搦めにしてやれば、ここでの体験は他には漏れない、、お嬢ちゃん、あんたの蒸発も含めてね。」
名残惜しげに女装男は、鷹匠君の側から離れると、今度は僕の方に近寄ってきた。
「何故、猪豚を嗅ぎ回った?正直に言ってみろ。人一人を始末するのは、結構手間暇がかかるんだ。俺は無駄なことをしない主義だ。話によっちゃ、無罪放免ってことも、ありうるんだぜ。」
僕は頭の中で計算する。
知らぬ存ぜぬを通したら、、いや、やっぱり拷問は避けられないだろう。
逆に、総てを話したら、、結果はどう出る?
この男が、猪豚や煙猿と平成十龍城にどう関わっているかによって、僕に対する処遇も変わってくる筈だ。
「あたしの友達の女の子が行方不明なの、、とても心配で、今、探してる。いなくなる前に、彼女が関わっていた人間を調べれば、なんとかなるんじゃないかって、、。」
僕は、世の中のことは何も知らない、無鉄砲な友達思いの可愛い子猫ちゃん路線でいくことにした。
「で、探偵ごっこの真似事か、、。」
「あんた、猪豚を旨くあしらったらしいな。」
女装男の瞳が真っ直ぐ僕の目を覗き込んでくる。
目尻の皺をファンデーションが隠し切れていない。
マスカラの塗り方もちょっと甘い、、でも沙悟浄ってネーミングは撤回、、かなり綺麗な叔父さんだし、、、とか、今の状況からは、かけ離れた感想が頭をよぎる。
「最近の高校生は大人なのよ。エロな親父は、一番扱いやすい。」
「確かに、、、やりかねんな。判るよ、俺にもアンタぐらいの娘がいる。まあ訳あって、一緒には暮らせない身の上だがね。」
女装男は、品定めでもするつもりなのか、僕の顎を指で支えると、グイと僕の顔を仰け反らせた。
娘?妙に僕に対してフェミニストなのはそのせいか?
「名は、、?本当の名前だ。」
「リョウ、、、梶本リョウ」
梶本は、二ヶ月程前に僕に交際を求めてきた金工科の先輩の姓だ。
しつこかったから、よく覚えている。
全部本当のことを喋るつもりはない。
それは、この女装男だってそうだろう。
娘がいるかどうかも怪しい所だ。
「俺の名は蘭府。花の蘭に都道府県の府だ。ただし、らんふとは発音がしにくいらしいな、昔は、時々ランプとよばれていた。」
「叔父さん、おとこの人?、、だよね。」
初めて女装男の顔に、苦笑じみた笑いが浮かぶ。
「初めは暴力団から逃れる為に、女に化けたんだが、これが結構、ツボでね。もっと早い内から、この趣味に目覚めていれば、俺の人生も変わっていたかも知れない。」
「さっき口封じみたいなこと言ってたけど、アタシ、此所のこと誰にも喋るつもりない。だって興味ないし。アタシが知りたいのは、沢父谷姫子って女の子が何処にいるかってことだけなの、」
「もし、この倉庫にいたらどうする?」
人体模型となった沢父谷姫子。
それは僕にとっても、沢父谷姫子にとっても最悪の結果だった。
蘭府は僕からするりと離れて、後ろで控えていたロドリゲスに、何かの合図を送った。
ロドリゲスはどういう訳か、嬉しそうな表情を浮かべて、壁際にあるロッカーを開け、そこから真ん中にボールの付いたベルトを取りだし始める。
「法律も正義も完全なものじゃない。よく法律は、権力者の為のもので弱い立場の人間にはなんの意味もないとか、知った風な口を叩く奴がいるが、そんなことは自明の理だ。 元来、人間は人間が作り出す枠組みやルール以外のものを必要としている。そこに登場したのが裏テンロンだ。裏テンロンは外界からの不可侵の壁を持っていると言われるが、それも違う。大きな目で見ると、裏テンロンを守っているのは、外界の我々の方だ。そしてあれがあるから、我々は、ルール以外の部分で発生する色々な問題を解決することが出来る。そういった闇の請負業的な事業を、裏テンロンに一気に集約した頭のいい奴がいたんだよ。」
「何、言ってるの?意味がわかんない、」
ロドリゲスが、ボールギャグを鷹匠クンの口に取り付け始めている。
鷹匠君が意識を取り戻しつつあるのが、ボールギャグの取り付けに抵抗する彼の動きで判った。
次にロドリゲスは、屈み込んで鷹匠君のズボンのジッパーを下ろしにかかる。
「何、やってるよの、、鷹匠クン、かわいそうじゃん!!」
こうやって窮地に陥ったのは、僕のせいで鷹匠クンは全く関係がなかった。
でもそんな理屈は、コイツラには全く関係なさそうだった。
「可哀想、、、懐かしい言葉だな。だがお嬢ちゃん、彼がこれから起こることを素直に受け入れることが出来たら、彼にとって世界は急変することになる、、、人間とはそういうものなんだよ。」
ウガァギャメロ、、言葉にならないうめき声が鷹匠君の口から発せられる。
ロドリゲスが鷹匠クンのペニスを引っぱり出して口に含む。
鷹匠クンは身体をよじってロドリゲスから逃れようとするけど、X字型の張り付けは予想以上に固定がきつく、彼の身体は殆ど動かない。
「あのギャグボールには、仕掛けがあるんだよ。圧力を加えると、催淫剤が染み出してくる。とても強力な奴だ。あれも、裏テンロンで手に入れた。」
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