【サステイナブルな資本主義を考える】随想:利便と格差は比例する!?技術革新が変化を迫る

ヒトの進化の歴史は数万年規模ですが、技術の進歩の歴史は数百年の話なので、記録も多く、学びやすいし語りやすいです。

そんな歴史をみてきて、自分が思うに、技術の進歩は「人力のリプレース」の繰り返しであると思っています。

産業革命の始まりの「飛び杼」の発明は、二人がかりでやらなければならなかった織機の操作を一人でできるようにしました。蒸気機関は重いものを遠くまで運ぶのに必要だったスタミナとパワーと人数を、数名の機関士だけで行えるようにしました。電球を端緒とする電気の発明は、夜間作業のための灯りを管理をする人の手間を減らし、電話の発明は遠くの人に会いに行く手間を減らしました。内燃機関は蒸気機関よりも副産物の処理の手間がかからず、小型化可能で機関士の数も減らすことができました。ラジオは一人一人に物事を伝える手間を減らし、テレビは視覚を補填しラジオより正確に情報を届ける手間を減らしました。

「手間を減らす」という言い方は優しいですが、技術は人の仕事を奪っているということもできます。写真は画家の仕事を奪いましたし、映画は舞台演劇の仕事を奪いました。2020年現在は情報革命の只中です。インターネット上で日々展開されるサービスは情報産業に従事する人の仕事を奪っています。雑誌やCDなど1990年代に隆盛を極めた仕事は、今やその勢いはありません。

もちろん、仕事がなくなった分、新しい仕事も生まれていることは間違いありません。Web業界で成果を上げているアメリカのFAANGや中国のBATHと言われる企業はここ20年前後で急速に経済力を増しています。

直近の未来はどうでしょう。今後普及すると予想される自動運転技術は物流・旅客業界に影響を与え、ドローン技術は空飛ぶタクシーで渋滞を緩和したり、ラストワンマイル配送をリプレースしたりするでしょう。バイオ関連技術はトランスヒューマニズムを進めて諸々のツールインターフェースを人の体内に移していくと想定されます。画像加工が一般化しVR/AR技術が進化しているので、エンタテインメントの主戦場はそこに移ると思われます。宇宙開発技術が新大陸発見と同じくらいの人類進化のインパクトを与える日は近いです。

「人力のリプレース」は人が手間をかけてやってきたことを「早く」「安く」「効率的」「正確」「安全」なものに変えていきます。ここ数年は情報流通が活発化し、資本が無くても既存事業をより便利にすることができるので、このペースは加速しています。これは生活者/消費者の立場としてはとてもありがたい話なのですが、資本主義経済の構成員の立場からすると恐ろしさがあります。

資本主義経済社会の構成員として生きるには、世の中に"価値を提供する労働"に従事することで、対価を得て生計を立てる必要があります。しかし、この"価値を提供する労働"をリプレースする動きが加速しているので、これに対抗するか、順応するか、はたまたピボットするかを迫られる機会が増えてきます。"対抗"、"順応"、"ピボット"はどれも変化です。企業が雇用や組織を維持しながらこの変化に対応していくことは難しいですし、医療の進歩によって伸びた人の寿命を終身雇用で支えながら変化するのは、なおさら不可能です。

こうした状況を受けて、企業に依存した人生設計の見直しや、国や会社による複業の奨励、個人の名前で稼ぐ術を身につけていく動きが活発化しています。直近10年、フリーランスやベンチャー企業の数は増え続け、独立・起業は珍しいものではなくなりました。こうした事態は個人のマイクロ起業化を促し、個人が収益化するためのパッションエコノミーの盛り上がりにつながっているように思います。

しかし一方で、独立した個人や起業した人たちの競争は厳しくなっていきます。インターネットによる情報革命で、競争相手は世界中に存在しています。この競争を勝ち抜くには、技術力や価格、細部の課題解決やローカライズなど様々なポイントで差別化し、セールスやマーケティングなどのセルフブランディングを通して、知名度を高める必要があります。

さらに、マイクロ企業家と言えど「"価値を提供する労働"をリプレースする波」から逃れることはできません。自分のスキルをAIが代替する日がいつ来るかわかりませんし、それ以前に受託案件がいつ止まるかわかりません。つまり、マイクロ起業家で収益が得られたら、その先が安泰になるのでは無いのです。企業に属していないので個人で変化に対応しなくてはならない。結果として企業に属するよりもタフさが求められます。

しかし、私は自由と民主主義を捨てて、社会主義や管理社会に移行すべしとは考えていません。価値提供の競争は世の中を発展させるエンジンです。「より良いものを作って、誰かに価値を提供しよう」とする人たちがいなくなれば、その国や共同体は衰退します。むしろ「より良い価値を提供しよう」とするマインドを持つマイクロ起業家は重要で、そういった人たちが最大限、活躍できる環境を作っていくべきだと考えています。

現時点で、私が知る限りマイクロ起業家のすべきことは以下です。

1. 最前線の実務を経験して、スキルや専門性を磨き続ける
2. 成果のある実績を積み上げて、セルフブランディングする
3. 価値を提供し続ける(信頼できる繋がりを培って案件を確保する)
4. 変化に対応するために選択肢となる情報のアンテナを張る

これらは一朝一夕で成り立つものではありませんし、どうしてもパレートの法則が働くので、成果を出せるのは一握りです。

しかし、こういった人たち(=マイクロ起業家)が、今の日本には必要であると私は考えています。便利で安全で、お金もある日本に足りないのは"希望"だと言われます。希望のない国に愛国心は生まれません。愛国心を培えない国の文化は消えていきます。経済か治安が底を打てば日本は変わるのかもしれませんが、変わらないかもしれません。そうなる前に「より良いものを作って、誰かに価値を提供しよう」と努力するマイクロ起業家を増やし、彼らがサステイナブルに活動できる仕組みを作る必要があります。これが私の目標です。

本件について、zoomで交流会を行っております。ご興味がある方はコメントやメッセンジャーでご連絡を頂けたらありがたいです。よろしくお願いします。

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