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60歳からの古本屋開業 第6章 Beatlesレディオ Vol.01(3)ダメ出しなのだ

登場人物
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ


使えませんね。

「ダメですね。この録音は使えませんね。テンポがつっかえ、つっかえで聞き苦しい。話もあっちこっち行っちゃってますし。腕利きの音声編集かなんかがいれば、レット・イット・ビーみたいに何とかしてくれるんでしょうけど、ちょっとラジオ化は難しいですね」
 これがあの録音から数日後、内容をチェックした赤羽あかば氏の結論であった。
 ここに書き起こしたようなビートルズに関するやり取りを、その日だけで7,8本は録音したと思う。
 録音の最中は私的には大変楽しく、内容に富んで、最高に良い感じの録音であったという感触であった。多分その感触こそが酔っ払い特有の感覚であったのだろう。
 そもそも考えてみれば、シロートがお刺身食べてお酒を飲みながら好きなビートルズの話をシナリオもなく自由に語り、それがモノになると考えている方が図々しい話ではあるのだが。
「そうですかー」と私も録音を聞きなおしてみたが、確かにひどい。テンポも悪い。何より私の話がせっかくの話題の流れをぶち壊している。
 ビートルズの知識を豊富に持つ赤羽氏が、せっかくきちんと話を進めていこうとしているのに私が邪魔に入り、自分の知っている話題をそこに割り込ませ、話があちこちに飛びまくる。それは改めて聞いてみると身が縮むような内容であった。こんなアホな自分にこの年になって改めて出会うとは、録音というのは残酷である。ただ私の進行妨害で音声的には使用が難しいものの、文字に起こし、私の見苦しい部分を削除していくと、それなりに面白い内容のことは言っているようにも感じる。
 ということで、ここにペーパーラジオ「Beatlesレディオ」としてご紹介させていただいたわけだ。

もっと読者を!

「Beatlesレディオ」は、こうしたわけでレディオではなくペーパー化してしまったが、その他のコンテンツは続々とノートにアップされていった。
 反応はどうなのか・・・。
 読んでくれている人はいるのか・・・
 これがApple書房につながっていくのか・・・
 観てくれる人は増えているのか・・・
 ちょっとだけ仕事をしながら昔のコンテンツを整理して送り、新作コンテンツを作成しては赤羽氏に送り、という日々の中、そんな私の不安な気持ちを察してか、あるいは「そろそろモチベーションを上げていくか」という赤羽氏のさすがな計算なのか、彼から時折、読者からの反応の情報が知らされてくる。
「この前アップした『怪人デニム男』を読んだ人から『面白いです。毎回楽しみにしています』と連絡ありました。新作どんどん送ってくださいね!」
「60歳から古本屋を作る(この文章のこと)」を載せたら、古本屋をやっている人から『面白いです。古本屋、頑張って立ち上げてください』とメッセージがありました」
「茶色飯反響良いですよ。『全部美味しそうです』と感想送られてきました」
といったネタを小出しにして送ってくれる。これはうれしい。
 もともと褒められると調子に乗る性格であるにも関わらず、ここ数十年ほめられたことなど絶えてなかった私にとって、知らない方々からのこの飾り気のない激励、誉め言葉は非常にうれしかった。

 そんなことを繰り返して数か月、赤羽氏よりうれしいお知らせがさらに届いた。
「コンテンツのフォロワーの合計が500人を超えましたよ。なかなかのものです」
「おー、500人、それは凄いんじゃないですか。500人なんて、小さな劇場なら満員。結婚式なら一番大きい鳳凰の間あたりを借りなければならない人数じゃないですか。いやー凄い、うれしいなー」
「頑張りましょう」
「頑張りましょう! しかしこれは何か祝わないといけないですね。やはり500人突破記念、サイト主催者へのインタビューを行うというのはいかがでしょう」
「えええ! いいですけど」
「やりましょう、やりましょう!」
 暑いと言っては酒を飲み、桜が咲いたと言えば酒を飲み、季節が変わったと言えば酒を飲み。
 まさにその典型のような展開ではあったが、さっそく読者500人突破記念インタビューという飲み会が次の週、某JRターミナル駅前の、うるさくて安くて異様につまみが旨く店員が美女ばかりという信じられないくらい素晴らしい地下酒場(←実在します)の一角で開催されたのだった。

(つづく)


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