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60歳からの古本屋開業 第6章 Beatlesレディオ Vol.01(2)とんでもビートルズ映画なのだ

登場人物
夏井誠(なつい・まこと) 私。編集者・ライターのおやじ
赤羽修介(あかば・しゅうすけ) 赤羽氏。元出版社勤務のおやじ


創造主について

(夏井)先日、散歩の途中で東長崎の「トキワ荘マンガミュージアム」に行ったんですよ。あの手塚治虫、藤子不二雄、石ノ森章太郎、赤塚不二夫とか、そうそうたる人たちが住んでいたマンガの聖地。あの当時の部屋が再現されているんですが、部屋には本当に何もなくて。4畳半にちゃぶ台、ほんの少しの食器が小さな棚にしまってあって、あとは本棚とマンガを描くための机。本当にそれだけしかなくて。この何もない部屋であの「火の鳥」や「銀河鉄道999」なんて凄い漫画が描かれたわけですよ。あの赤塚不二夫の想像もつかないようなギャクも、あの「ドラえもん」ここから生まれたわけですからね。
それに比べて僕らなんか、こんなにいっぱい情報があって、ネットで世界中の情報にアクセスができて、本や資料なんかも好きなだけ買えて、毎日栄養あるもの食べて、明るい部屋で暮らしてるのに、何を生み出したか、なんて考えて自分のふがいなさに切なくなっちゃいました。
 
(赤羽)あの何もない部屋で、ミュージシャンの曲作りのようにワイワイ録音するとかではなくて、一人でそのまま印刷できる完成形までマンガを描き上げてしまうわけですからね。凄いですよね。
 
(夏井)ビートルズも、どこかのコンサート会場に運ばれるワゴンの中とか何もないところでギターとか弾きながらあの名曲が出来上がるわけでしょう。なんなんでしょうね。
 
(赤羽)デビュー前、ハンブルクで武者修行の意味も込めてオースティンのバンに機材を全部積んで、そうすると自分たちが座る席がなくて、アンプの上に座ってごとごと揺れながら行くわけです。 
汚いところに寝て、映画館のスクリーンの裏の物置みたいな部屋で寝泊まりして。夜の仕事ですから昼間に寝るわけです。昼間に上映している映画館のスクリーンの裏、ものすごくうるさいところで寝てるわけです。それで夜になれば、町の荒くれどもを相手にライブ。当時のドイツのハンブルクと言えば戦後わりとすぐで、東西ドイツも分かれている時です。米兵も英兵もいっぱいいた。
なんでビートルズがハンブルクでやっていたかというと、その米兵の前で英語で歌えるロックンローラーが欲しかったからなんですね。
 
(夏井)昔の沖縄みたいなものですね。
 
(赤羽)そうそう。それでハンブルクは大きな歓楽街ですから。ビートルズは、もともとプレスリーとかアメリカの音楽を聴いて育ったわけです。アメリカの音楽をアメリカ人に聴かせるためにハンブルクにいた。まだアルバムも出してない時期です。
「スタークラブ」で録音したライブアルバムという、これはビートルズが訴訟まで起こして販売を差し止めた音源があるんです。こんなひどい演奏を世に出したくないという理由で。特にジョージが怒って! それがビクターから「デビュー! ビートルズ・ライヴ'62」というタイトルで、今は出てます。
 
(夏井)え? そんなのあるんですね。ちょっとYoutubeで調べて今聴いてみますか。あ、凄い「ビー」でもうビートルズって出ます。俺のi-phoneだからかな。
 
「The Beatles-Live at the star club in hunburg 1962」を再生中・・・
 
曲は、I Saw Her Standing There
 
(赤羽)このライブ、私もアルバムで持っているんですが、2枚組でまだ包装のビニールも破ってません。だから初めて聴きます(笑)

 ちなみにCDの1枚目に入っているのは
1 Be-Bop-A-Lula - with Fred Fascher on vocals
2 I Saw Her Standing There
3 Hallelujah, I Love Her So - with Horst Fascher on vocals
4 Red Hot - John on organ
5 Sheila
6 Kansas City/Hey Hey Hey Hey
7 Shimmy Like Kate
8 Reminiscing
9 Red Sails In The Sunset
10 Roll Over Beethoven
12 A Taste Of Honey
13 Nothin' Shakin' - But The Leaves On The Trees
14 I Saw Her Standing There
15 To Know Her Is To Love Her
16 Everybody's Trying To Be My Baby
17 Till There Was You
18 Where Have You Been All My Life?
19 Lend Me Your Comb
20 Your Feet's Too Big
21 I'm Talking About You
22 A Taste Of Honey
23 Matchbox
24 Little Queenie
 
(赤羽)I Saw Her Standing Thereは2曲目、当時の数少ないオリジナル曲ですね。
 
(夏井)あれー、何か知らない曲が並んでる。お、I Saw Her Standing There、2回演奏してますね。けっこう演奏上手くないですか。
 
(赤羽)そうそう、上手いんです。でもオリジナル曲がないから、特にこの曲なんかは毎日何度も演奏してますしね。そもそもビートルズはライブバンドですから実力ありますしね。
 
(夏井)不思議だなー、これを訴訟までして止めようとしたんですか。
 
(赤羽)ジョージは気に入らなかったんでしょうね。それと録音は確かにひどいですよね。それも相当気に入らなかったみたい。恥ずかしいというのもあるんでしょうね。
 
(夏井)ああ、そっちですか。でもちゃんとしてるように思うけど。  
 
(赤羽)本当にたまたま、オープンリールのテープで録音してたみたいですよ。そのあとビートルズの人気が出て「これって使えるんじゃない?」ということで発売しようとして「ちょっと待て!」と。本当に奇跡的に残っていた音源らしいですよ。
 ビートルズの歴史を語るうえで欠かせないものだと思いますよ。  

参考までに、これがオープンリールの録音機。
実際には60年代の家庭用だったから、
もちろん、こんなにいいものではなかった。

ビートルズの曲がかからない映画について

(夏井)あれ、話聞いてたらなんだかCD欲しくなってきたなー。
そういえば発掘ものといえば、この前のインドの映画「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インド」。あれはひどい映画でしたね。英語の教科書より下手な洋風再現イラストが多用されていて、写真の間にエピソードの再現として使われている。がっかりするくらい変なイラスト。そして何より恐ろしいことにビートルズの曲は一曲も流れない、詐欺みたいな映画でした。
 
(赤羽)同じ発掘でも「Live at the star club in hunburg」とは価値は全然違いますけどね。ほんと、あれはいったい、何だったんでしょうね。
 
(夏井)私たち世代(60才代)のお財布を狙ってというか、ビートルズと銘打った映画なんかも最近立て続けに上映されてますね。
 
(赤羽)そうそう。2016年に上映された「 EIGHT DAYS A WEEK」、あれは、まだ納得できました。映画館で観る価値もあった。それに対して「ミーティング・ザ・ビートルズ・イン・インディア」は。
 
(赤羽)(夏井)ひどかった!   

入場者にポストカードが1枚配られた。
ジョン・レノンが当たった。それだけが救い。。。

 (夏井)私は上映始まってすぐに行ったんですよ、見事に騙されて。池袋の映画館に行ったら上演前に8人くらいの行列ができていて(開場前で8人だから少ないのだけれど)、一応行列なので、それなりにワクワクして映画にのぞんだわけです。
たしか公式サイトにも凄いキャッチが書いてありました。
 
「最高傑作『ホワイトアルバム』誕生に遭遇した1人の青年がビートルズとともに過ごした奇跡の8日間」
「あの4人との出会いが僕の人生を変えた!」
 
ですよ。期待しない方がおかしいですよね。
 
(赤羽)実は、私もうっかり観ちゃいましてね。
 
(夏井)そうですか、観ちゃいましたか・・・。
 
……2人でしばし遠くを見つめる。
 
(夏井)あれは近年まれにみる、ひどい映画でしたね。
 
(赤羽)ひどい映画でしたねー。
 
(夏井)映画が始まってから、いつホワイトアルバムの中の曲が流れるのか、曲作りのシーンが流れるのか、私はずーっと期待して(信じて)待ってましたよ。そして約2時間。あの映画が終わった時の失望感は大きかった。本当に唖然としました。「この映画ではビートルズの曲は1曲も流れません」て、注意書きを書いておいてほしかったですよ。世の中には言わないウソというのがあるんだ、と改めて思いましたよ。
 
(赤羽)あれはねー、ビートルズファンもちゃんと怒らないといけないですよね。
 
(夏井)本当にそう思います。
 
(赤羽)全編「シタール」しか流れないんですから。だいたい、よくわからないただのオジサンの個人的な8日間の話ですよ。2か月間インドにいたビートルズの、たった8日間、その中でたまにちょっと本人たちに会ってました。食事の場に参加させてもらったら、ジョンは優しかったです。ジョンとポールが並んで座って、なんか曲を作ってました。写真も撮りました、ですから。
 
(夏井)ね、ほんと。それでリンゴは退屈そうに座ってました。みんなが泊まった建物はここでした、ですもんね。
 
(赤羽)別にそこにいなくても、僕らでも簡単に想像できるような風景ですもんね。
 
(夏井)本当に騙されたなー。でも観とかないといけないんでしょうねー。
 
(赤羽)無理やりこじつければ、新しい発見は確かにあったのかもしれないけど、ビートルズの歴史の大局を左右するような事柄は何もなく、そして映画の最後には、その体験をした男性が個人的な感想を語って終わり。
 
(夏井)しかも、そのラスト、その体験をした知らないおじさんと知らない娘が、どこかの海辺の桟橋のベンチに座って、どこかにしまいこんで忘れていた、あの時の写真をガレージの奥で見つけた、とかいう話を延々と聞かされて。
 
(赤羽)それ僕らに何の関係もないし。いったい僕らは何を聞かされているんだろう、って気持ちになりましたよ。
 
(夏井)しかも娘はただの普通のおばさんだし。
 
(赤羽)なぜみんな黙ってるんだろう。
 
(夏井)それで上映時間2時間、良く作ったなー。
 
(赤羽)あの劇中のマンガもひどかったねー。再現シーンを描いたやつ。
 
(夏井)中学の時の英語の教科書に出てたマンガとそっくりだった。劇画でもない、コミック風でもない。独特の手抜きの説明的な絵というか。
 
(赤羽)へたくそなアメリカンコミックのやつみたいな。

これを映画館の大画面で見せられても。。。

(つづく)


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