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「義烏指数」とは〜中国の市場から米大統領選を予測できる仕組み〜

2016年に行われたアメリカの大統領選では、多くの世論調査ではヒラリー・クリントンの支持が高いと示しているのにも関わらず、義烏のメーカーからはトランプの優勝が予測されていた。トランプの逆転優勝により、「義烏指数」がたちまち有名となり、巷では「義烏指数」が世界の動向を先回りに予測できると噂されるようになった。

しかし、一体義烏のメーカーはどのようにして正しく米大統領選の結果を知り得たのか。また、なぜ義烏に注目すれば世界の動きがわかると信じられるようになったのだろうか。

1. 義烏や「義烏指数」とは

中国浙江省金華市に位置する義烏(ぎう, Yì Wū)市は、世界最大の日用品の卸売市場がある。中でも、輸出がメインとなる義烏国際商貿城というマーケットでは、世界中からバイヤーが集まり、日本で売られている中国製の製品の多くもここから卸されている。

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この義烏のマーケットが、最新な国際情勢を予測できるとの噂が近年流れている。予測の判断を下すカギは、海外からの注文であった。このように、義烏に流れてくる海外からの注文や、商品の価格変動といった情報は、「義烏指数」(Yiwu index)と呼ばれている。義烏のマーケットは世界最大であり、毎年200以上の国や地域に2600億以上の商品を輸出する。つまり、この指数の実態は、世界の消費動向のビッグデータでもある。

さらに、義烏のマーケットを「権威のある調査機構の一つだ」と半分冗談めかして言われている。もちろん、正式な調査機構は義烏のデータを参考にすることはないだろうが、それでも義烏からさまざまな予測が出され続けている。

2. 過去の驚きな予測

「義烏指数」が一躍有名になったきっかけは2016年の米大統領選だった。しかし、それ以外も義烏のマーケットからさまざまな予測がされていた。

アメリカで新型コロナウイルス感染症がまさか爆発的に流行すると思わなかった3月、義烏に大量な注文が殺到した。それは遺体収納袋の注文だった。

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”3月の葬儀用品の注文は先月と比べ487%増加。3月20日から4月20日の遺体収納袋の問い合わせ件数は22100%増加。葬儀用品の輸出先トップ3はアメリカ、メキシコとイタリアである。中でも、アメリカは他の国々をはるかに超えている。”こうした「義烏指数」を受け、感染症の事態がアメリカを中心に、世界的に悪化するのだろうと予測されるようになった。

3月20日の時点では、アメリカの累計感染者数は1万人を超えたばかりだった。アメリカ国内では、感染症に対し楽観的な考えを持つ人も多かった。しかし、その後わずか7日で8万3500人に達し、世界最多となった。

さらに、義烏のマーケットはワールドカップの優勝者も予測していた。これの背景には、応援で使われる旗やメガホン、メダルの多くは義烏から輸出していることがある。

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2014年のブラジルW杯では、義烏に寄せられた応援用の国旗の注文はドイツがもっとも多かった。結果はやはりドイツの優勝だった。

さらに、2018年のロシアW杯では、決勝戦の直前にフランスの記念メダルの注文が大量に押し寄せた。この情報をもとに、義烏側は再び優勝者の予測に成功した。

3. 2020年米大統領選の結果はいかに

今年11月に行われる米大統領選を巡り、義烏側の発言は再び注目されるようになった。旗や横断幕を専門とする義烏のメーカーが、2020年米大統領選に関連する注文がすでに入っていると表明した。もっとも注文が入っているのは”Trump 2020"が印字されている旗である。二位は"Keep America Great"、三位は"No more bullshit"とのことである。いずれもトランプ陣営のメッセージである。

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今回もトランプ支持が強いことが義烏への発注からわかる。しかし、注文の総量は2016年の選挙と比べれば4分の3近く減っているようだ。

4. 指数を取り巻く状況の変化

このような「義烏指数」の誕生の背景には、中国が「世界の工場」として長年活躍してきたことがある。

しかし、感染症の影響で、国境を超えたサプライ・チェーンがうまく稼働できずにいる。そのため、義烏への注文も大幅に減少している。

さらに、アメリカを中心に、先進国は製造拠点を中国以外の途上国や自国へ移動しようとする動きが見られる。これは、中国の一国に依存することのリスクを減らすためである。日本もまた例外ではなく、政府は工場移転をする会社に支援する方針をすでに示している。

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以上の要素は中国の「世界の工場」としての地位を脅かす原因となりうる。しかし、コストや技術などの面から考えれば、実際に中国から撤退するのは難しいのである。

こうした状況でも、「義烏指数」に基づいた予測は果たして的中するのだろうか、注目するところである。

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