人は変わるのか

今の自分が望んでいることは、何十年後かの自分も、望み続けいているのだろうか。

今回読んだのは「劇場」。

劇場 又吉直樹

東京で劇団を旗揚げした主人公 永田と、女優を目指し上京していた大学生の沙希。
出会った当初、二人は共に相手を必要とし、互いを補完しあっていた。
しかし、時間が経っていく中、二人の、お互いに対する存在の大きさや気持ちが変化していく。


著者あとがきによると、今回の作品は人間の変化がテーマだそう。

「演劇の世界に身を置く人物が、日常と演劇を往復しながら互いにどのような影響を与えて変化していくのかを見届けたかった。」
「いろいろな影響を受けたり歳をとったり、そもそも世界自体が変わっていくのだから、自然にしていたら、そこに混ざる自分の色も一緒に変わっていく。」

著者あとがき


出会った当初、永田にとっての沙希は、どうしようもない自分を救ってくれる存在でした。

沙希と出合い、一緒に舞台をやったことをきっかけに、演劇の世界での永田の人生は好転していきます。

しかし、演劇と向き合えば向き合うほど、沙希の存在が重荷になり、負担に感じるようになっていきます。

傍から見ていると、傲慢だとか、勝手すぎるだとか、売れて変わったなとか思ってしまうのでしょう。


でも、僕が本作を読んで思ったのは、著者の意図とは真逆なのですが、人間は変わらないのだということ。

人には皆変わらない価値観があり、それが一番中心にある人生を送っていて、その他のことは価値観を達成するために、タイミングが合致するかどうかで決まるんじゃないかなあ。


最初から最後まで、永田にとって一番大切なのは演劇で、演劇の世界でどん底にいた永田にとって、心理的に演劇を続けるために必要だったのが沙希だった。ある程度売れていったら、演劇をするために必要なのが、沙希ではなく、時間や、一人で演劇と向き合える環境になっただけで、永田はずっと変わっていない。永田が沙希を演劇よりも優先するような描写は一回も見られないし。

まあ結局、人が変わるか変わらないかって話は、人をどこまでの深さで見るかによるんだろうけど。


本作品は、人間の感情、中でも負の感情の描写が細かくリアル。

「劇場」が恋愛小説になっているかどうかもよく解らない。恋愛のことがよく解らないからこそ、若くて未熟なふたりがともに過ごしたどうしようもない時間を必死で書くことにつとめた。

著者あとがき

彼らが日々必死に生きて、本気の感情を吐き出して、もがく様子は目をそむけたくなるほどでした。

大好きな作風です。

あんまり好きな作家とかって考えたことなかったけど、又吉直樹、押していこうと思います。

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