断れない性格
「久しぶりに会おう」とLINEが来た。
あまり会いたくない人から。
返事に困る。
こういう時に思い知らされる。自分のコミュニケーション能力のなさを。
しかし、実際に会ったこともあり、Twitterでも繋がっていて、Twitterには普通の会社員の普通の生活を垂れ流している。
つまり、「忙しい」と言って断ってもTwitterで美味しそうな肉やケーキを食べている様子を見られてしまい「忙しくないじゃん」と思われるのは時間の問題である。
そしてまた自分の嫌なところに気が付く。誰にでもいい顔をしようとする。
だがそうやって何となく人間関係を続けてきたし、誰も不快にさせないという点では悪いところではないか、と部分的には肯定している。
思い返すと、いつもそうだ。
誰かに不快な思いをさせると、その人から仕返しが来て、結局自分が嫌な思いをすることになる。
嫌なことを言われたり、やられたり、もううんざり。
だから、誰にでもいい顔をする。
仕事でもそう。
以前働いていた会社では、客先常駐で朝早くから夜遅くまで働いていた。
客先でお願いされた仕事を断ったことはなかった。
とにかく積まれた仕事をできる限り片付けた。
同じ客先に上司も常駐していた。上司から残業しすぎないでほしい、と何度も言われた。
でも仕事がどんどん積まれていくのだから残業して片付けるしかない、と言っていた。
本当は仕事を断った後に、何が起こるか分からなかったので、断るのが怖かった。
だから全部の仕事を引き受けた。
中には自分の力ではできなさそうなものもたくさんあった。
それでも、自分で調べたり、人に教わってどうにかして片付けた。
そう言っても上司が納得するわけもなく、だんだんと強い口調で残業を減らすように命令するようになってきた。何度も呼び出された。でも同じ説明を繰り返すことしかしなかった。
半年後、顧客から仕事ぶりを評価され、チームリーダーになった。
チームメンバーに上司がいた。
客先の会社にとっては、こちらの会社内の上下なんて関係ないのだ。
あれだけ文句を言っていた上司は、リーダーになった私のことが憎くて仕方なかったと思う。
あろうことか上司が私に嫌がらせをするようになった。
色々なことがあり、私の心は疲弊していた。
それでも、引き受けた仕事は全部片付けた。断れないから。
そして、1年後、私は転職した。
あの上司とはもう仕事をしたくない、と会社に告げて。
仕事を断らずに全部やったからこそ、それを見ていた顧客が良い評価をしてくれたおかげで昇進も昇格も昇給もした。
でもそれは、何者かになりたいとか、何ができるようになりたいとか、自分の夢に向かって努力をしたとか、そんな前向きな理由じゃない。
とにかくいつでも誰も不快させないために、お願いされた仕事を全部やっただけ。
それがどうだ。
結局上司に憎まれ嫌な思いをするのは私だ。
報われないものだ。
そして、やはり人間という生き物は怖い。
いつ身近な人が敵になるかも分からない。
だからこそ今でも誰にでもいい顔をしようとする。
または不快な思いをさせない選択をしようとする。
悪いところは断れない性格というだけではない。
言い返せないところも悪い。
でも、人間が怖いと感じることは止められない。
このまま、こうやって、人間嫌いのまま生きていくんだろう。
冒頭のLINEにはまだ既読すら付けていない。
おそらく、このまま返さないのだろうな。
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