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「カビが生えない」食品は危険な食品?

こんにちは。管理栄養士の奥野です。

今回は食品添加物についてです。食品添加物はどのように使われるのか? ということを、食品メーカーで実際に商品設計・製造導入を行った経験からお伝えしたいと思います。

●長期間「カビが生えない」食品

「食品添加物に関するセミナーで、買ってそのまま1年以上保管されたパンにカビが生えていない様子などを提示された。食品添加物が入っていて、カビが全く繁殖できないほどの力。だから食品添加物は危険だ。」
とおっしゃる方がいらっしゃいます。

確かにパッと聞くと「食品添加物!恐ろしい!」と思うかもしれません。家で作ったものは3日もすればカビが付くこともありますものね。

しかし、加工食品の製造現場を知っている人間であれば、「そういうこともあるかもな」と思える話なのです。もちろん食品添加物のせいではありません。

まずは、どうして食品にカビが生えるのか? を考えてみましょう。

●カビはなぜ生える?

そもそも「カビが生える」ためにはどのような環境が必要か考えてみましょう。
①食品にカビが付着している
②カビが繁殖しやすい(できる)環境である

この2つの条件両方が必要になります。
カビが繁殖できる環境は以下の通りです。
・15℃〜35℃、5℃以下の低温域で繁殖できる種類もいる
・水分が多くても少なくてもOK(水分活性※:0.7以上)
・pH3〜9 酸性環境でも繁殖可能
・酸素がある
加熱には比較的弱く、ほとんどのカビが100℃以下数分の加熱で死滅します。
他の食中毒菌などと比べた時の特徴は「低温で増殖できる」「比較的低いpHで増殖できる」「水分の少ない食品でも増殖できる」ということです。端的に言えば割と色々な食品で繁殖可能です。
※水分活性:微生物が利用できる水分。単なる水分とは少し意味合いが異なります。

しかし、繁殖可能な環境であっても、カビ自体が存在しなければ、目視で確認できるようなカビの胞子は現れません

ここまで来るとお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、「カビの生えない」食品の正体は、「カビが付着していない」食品かもしれないということです。

では、カビを付着させずに包装食品を製造できるものなのか、を考えてみましょう。

●カビは付かないのか? 加工食品製造における微生物制御の考え方

まず、ほとんどの加工食品には食品の種類ごとに「微生物規格」が設けられています。この微生物規格は主に食中毒菌に対して、この菌は検出されてはいけないとか、このくらいのレベルに制御してね、みたいな基準になっています。この基準をクリアしなければ加工食品を販売できません。

ですので、メーカー各社はこの規格基準を守るために
『製造工程』『製品の化学的性質』の2つの面からこの規格基準をクリアできるように考えます。

微生物制御の基本は「つけない」「増やさない」「殺す」ですが、この考え方を製造の仕組みとして落とし込んだものが「HACCP」です。多くの食品工場はこのHACCPの要件を満たしています。(令和3年からは義務化されます。)
HACCPでは食中毒菌の汚染や繁殖のリスクを防ぐための重点管理ポイントを設けています。その中に加熱処理があります。先程登場したカビですが、100℃以下の加熱数分で死滅するので、ここでほとんどいなくなります。その後包装(または包装後加熱)されます。
包装までの間に食品にカビが付着しない限り、HACCP対応工場で作られたものはそもそも、『製造工程』による制御で「①食品にカビの胞子が付着している」リスクがとても低いのです。そして加熱後包装までに落下菌汚染が極力起こらないように工程が工夫されています。そのため、食品にカビが付着しないということはあり得ます。

付着したり、加熱後残存するリスクが高い菌があると予想・確認できた場合に、メーカーの開発者は『製品の化学的性質』を考慮し、増殖を抑制しようとします。この時に初めて食品添加物の使用が考慮されます
この考え方は流通温度や何日日持ちさせたいか、使用する原材料などによって、いくつもの方向性に分かれますので割愛します。

「でも食品添加物ってすごくいっぱい原材料のところに書いてあるじゃない。結局のところ、この『製品の化学的性質』のコントロールに依存しているんじゃないの?」というお声が聞こえてきそうです。
裏面に書かれている添加物全てが、微生物制御のために用いられるわけではないのです。パンを事例に考えてみます。

●食品添加物を入れる目的

例えばパンに用いられる添加物は何が挙げられるでしょうか?高温で焼成されるものであれば実は微生物制御に関する添加物は少ないかもしれません。

皆さんはどんなパンがお好きですか? ふわふわ? もちもち? しっとり?
このような「食感」を改良する目的で添加物が使用されるケースがあります。

また、工業的な大ロット製造の場合、材料を混ぜ合わせたりするだけでも技術が必要になります。材料の混合を助けるための添加物などもあります。

ベーコンが乗った惣菜パンであれば、ベーコンのピンク色を発色させる添加物も一緒に記載されます。

「カビの生えない」食品を見せられると、その裏側に書いてある添加物が全て殺菌作用のあるもののように思われるかもしれませんが、そのような目的で添加されるものばかりではないのです。

ちなみに、添加物の多くは、食品の味への影響が大きく、開発する立場からすると、出来るだけ配合量を減らしたいものだったりします。
そしてこれは大前提ですが、食品添加物は使用基準が定められており、その基準を破れば法律違反になります。ですので当然、人体に影響のない範囲で使用されています。

●「カビが生えない」食品は科学的根拠がないハッタリ

「カビが生えない」と聞くと、「カビが生えないほどの殺菌力がある食品」と考えてしまいがちですが、「そもそもカビがいない可能性」を考えることで、「添加物が危険だ」という主張は崩れます。開封し、カビの付着があった食品での比較でなければ、「添加物が強い殺菌作用を持つレベルで含まれている」とは言えないですね。

商品の裏面には「開封後はお早めにお召し上がりください」という文言があるかと思います。「開封したら雑菌が付いて増えちゃうからお腹痛くなっちゃうかもよ、早く食べてね」ということです。決して、「カビが生えない」食品ではないのです。

「添加物はいや」ということは個人の価値観で、正しいも間違いもありませんが、「添加物は危険だ」と不安を煽り、他の人の食の幅を狭めることには賛同しかねます。

しかしながら、食品製造の現場は見えづらく、「わからない」ことが「不安」になるということもあるかもしれません。そのような場合は是非私までご質問頂ければと思います。管理栄養士と切っても切り離せない加工食品市場について、皆様と一緒に考えたいという気持ちでおります。コメントやご意見お待ちしております。

最後までお読みいただきありがとうございました。

次回は微生物制御の視点から無添加で製造できる場合とそうでない場合を考えた記事をアップします。

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<参考文献>
・諸角聖, 藤川浩, 和宇慶朝昭と千葉隆司. 「食品のカビ汚染と防止対策」. 東京健安研セ年報 Ann.Rep.TokyoMetr.Inst.P.H. 55 (2004年).
・「HACCP(ハサップ)」, 厚生労働省HP
・「食品添加物」, 厚生労働省HP








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