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稽古の日記 二日目(+ブラジリアン柔術について)


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くらやみダンス#8
『くらやみダンスの宝島』
脚本 岡本セキユ・神山慎太郎
演出 岡本セキユ
2021年11月25日(木)-30日(火)
於:池袋スタジオ空洞
【詳細】
https://kurayamidance.wixsite.com/home/next
【予約】
https://ticket.corich.jp/apply/114981/006/

10月10日

稽古二日目の日記である。(実際にこれを書いてるのは10月14日の深夜1時で、4日前の記憶を無理やり捻り出して、さも当日の稽古後に書いたような体でもってやっている。複雑怪奇。眠い。頭が痛い。)

今日は丸一日使って殴り合いの稽古をした。総勢10人の男女が入り乱れて殴る蹴るの乱闘を繰り広げるのだから大変。まず殺陣を作んなきゃいけなくて、各々のテンポがずれたり、吹っ飛ぶ位置が悪いと、本当に人殴っちゃうから割合繊細。丁寧に一つ一つ、どうやって相手をぶん殴るか検証していく。変な作業。

品行方正な僕は生まれてこのかた人を殴ったことはないが、実はブラジリアン柔術(*1)という格闘技は習っていて、それがいい感じに役立つ場面があった。習い事は何でもやっといて損はないのだ。

そういえば今回初めましての内田くんもブラジリアン柔術をやってたみたいで、しかも僕が通ってた道場で稽古していたそうな。人間どこで何が繫るか分からないなぁとしみじみ感じた。

結局その日はみんなセリフは喋らず、ひたすら目の前の人間を殴り、蹴り、絞め上げ続けた。節度を持った暴力行為を繰り返して、音節を持たない肉体言語で語らい散らし、終わった頃には不思議とグルービーな一体感が生まれてたような気がした。
語弊を恐れず言うと、殴り合いは楽しい。

(*1)グレイシー一族によって生み出され、グレイシー柔術とも呼ばれる寝技中心の格闘技。
現在世界最高峰の総合格闘技トーナメントUFCの第1回大会にて一族最強の男ホイス・グレイシーが優勝したところからその正史が始まる。
当時のUFCはポルトガル語で「何でもアリ」を意味する格闘技バーリトゥードの流れを汲むもので、その名の通り基本ノールール、最低限目潰し、噛みつき、金的、武器使用が禁止される以外はあらゆる攻撃が許された。
そんな危険な大会には、2mを超える巨漢プロレスラー、180kgを超える相撲取りと言った規格外の選手たちが出場していた。
そんな中180cm、80kgと小柄で当時無名だったホイス・グレイシーは、その徹底したサブミッション・テクニックで並み居る強豪を打ち倒し、チャンピオンとなった。
その神出鬼没な寝技の数々は当時の格闘技界を席巻し、グレイシー一族はその栄華を極め、ブラジリアン柔術最強説といったものまでもにわかに囁かれるようになった。

しかし、おごれる人も久しからず、 唯春の夜の夢のごとし。
次第にその技術は一つ一つ攻略されるようになった。日本においては「グレイシーハンター」の異名を持つ桜庭和志の存在は忘れてはならない。

対グレイシーの基本戦術は単純明快、寝技に付き合わないことだった。
柔術家は通常、タックルで相手を倒すか、もしくは相手を引き込んでわざと通常不利な下のポジションを取ることで、自分の土俵であるグラウンドの戦いに持ち込む流れが自然であった。
打撃中心の格闘技界にあっては、カウンターでタックルに切り込むことは比較的容易であった。
引き込みに関しても、ストライカーにとって上のポジションは千載一遇のチャンス、わざわざそのポジションを捨てるという選択はしなかった。
そんな相手が上から振り下ろした拳をキャッチして、腕十字をセットアップし、したからの関節を決めるというのが柔術家の勝ちパターンであった。
しかし、寝技の威力を覚えた彼らは、徹底したタックル防御と、グラウンドポジションからのエスケープ、そして遠い距離からのアウトボクシングによって、グレイシー一族をじりじりと壊滅させていった。

そして時が経ち、今度はブラジリアン柔術最弱説が格闘技ファンの間で囁かれるようになった。

だがしかし、ここ数年柔術軍の躍進が目まぐるしい。
事件の始まりは2010年、当時総合格闘技無敗、最強の男と称された氷帝エメリヤエンコ・ヒョードルが柔術家ファブリシオ・ヴェウドゥムに生涯初の黒星を喫した。
決まり手は腕ひしぎ三角固め。
ヒョードルのフックがヴェウドゥムの鼻をかすめ、ヴェウドゥムが倒れ込んだところをヒョードルが追撃。
上から打ち下ろされるパンチをキャッチして、そのまま流れるように関節を捻り上げる。
グレイシーの基本戦術だった。
この戦いが柔術の再興を予期させる、初期微動であったことは間違いない。

日本国内における主要動はRIZINにおけるブラジリアン柔術勢の活躍、現RIZINライト級王座ホベルト・サトシ・ソウザや、現在も無類の人気を誇っている路上の伝説朝倉未来を三角絞めで失神させたクレベル・コイケなどが上げられる。
彼らはグレイシーの弱点であった打撃も得意とする、殴れる柔術家。
ストライカー相手に互角に渡り歩き、徐々に距離を詰めたところで、グランドに引き込みサブミッション。
グレイシーを乗り越えたファイトスタイルを展開している。
ここでは深く言及しなかったが、柔術低迷期も一貫して寝技一本でキャリアを築いてきたバカサバイバー青木真也の存在も触れずにはいられない。

今、総合格闘技界のパワーバランスがひっくり返ろうとしている。
面白い時代がやってきた。
柔術の未来を見逃すな。




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