吉田裕太

俳優/文章は趣味です。この趣味が高じて仕事になれば幸せです

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爺ちゃんのバーバリー

岐阜に住んでいた父方の爺ちゃんが死んだのが去年の暮れで、葬式から半年以上経っても家の整理ができない婆ちゃん。 もう着る人のいないオーダーメイドのスーツや、読む人のいない日焼けした本、一時期凝っていたカメラや囲碁盤やら碁石やらその他諸々。 家の階段が急すぎるってのもあるし、物が多すぎるってものあるし、家の整理の前に心の整理がついていないってのもある。自分の半身だった夫が急にいなくなって、自分の足で立つだけのバランス感覚がなくなっているのかもしれない。とくかく、片付けられない婆

    • 岡本セキユと演じること(『ワイルド蛍をつかまえろ』稽古場日誌2)

      「芝居はね、労働だよ。」柄本明がバラエティー番組に出ていた。その時喋っていたこと。 当時まだ若手だった加瀬亮が「柄本さん、芝居ってなんですかね?」とぶつけた。20代もそこらでこんな問をぶつける加瀬亮も加瀬亮だが、柄本明の返しが凄かった。 「君は芝居を芸術だとかなんとか、そう思っているんだろう。そして僕にそう言って欲しいんだろ?」 黙り込む加瀬亮。柄本明はこう続ける。 「芝居はね、労働だよ。」 これは、あるウェブ記事でのインタビュー。 「俳優とは、どのようなお仕事でしょうか。

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      • 岡本セキユと待つということ(『ワイルド蛍をつかまえろ』稽古場日誌1)

        残念ながら、俳優は本がないと何もできない。例えそれが高倉健でも、ティモシー・シャラメでも、ジャン=ポール・ベルモンドでも、マーロン・ブランドでもそうだ(マーロン・ブランドだったら、呼んでもないのに急にやってきて、俺のシーンを作れとか言い出して、挙句、出てやったんだからギャラよこせとか言ってきそうだが)。 だから俳優は、どうしたって本よりも格下で、自分の出番がくるまで現場の隅で待つしかない。 まるで雨の日に主人が餌を持ってくるのを濡れながら待ち続ける芝犬みたいに。 よく言わ

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        • 日本一有名な名無し猫の謎を追う本『吾輩は猫である殺人事件』

          吾輩は俳優である名前(代表作)はまだない。というかそもそも仕事がない。仕事がないから、時間はある。 小晦日から大晦日、元旦ふくめの三ヶ日、五日丸々実家に帰る。 しかし、帰ったとてすることはない。仕方がないから本を読む。 『吾輩は猫である殺人事件』 ちなみに『吾輩は猫である』を知っているだろうか?「吾輩は猫である。名前はまだない」から始まるアレである。 ではこれを最後まで読んだものはどれほどいるだろうか。いないだろう。多分あなたは読んでいない。私も読んでいない。 名無し

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        • 本について
          14本
        • 雑記
          10本

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          フライパンを買い替えて生活を取り戻す本『私の生活改善運動』(安達茉莉子)

          卵焼きを作る。フライパンに焦げつく。私は膝から崩れ落ちた。その程度のことで、私は痛く、参ってしまう。 例えば、職場の隣のババアが嫌い。 ババアの発する小言、独言、嫌味、痰の絡んだ声、過剰なタイピング音、ヒステリックな言動、行動、あらゆることが勘に触る。 例えば、電車が嫌い。 100デシベルの走行音。不機嫌な車掌の声。永遠に繰り返される甲高い発着メロディ。意味不明にスピーカーから流される鳥の鳴き声。なぜ副都心線はこんなに地下に潜るのか。今が乗っているのは埼京線なのか、湘南新

          フライパンを買い替えて生活を取り戻す本『私の生活改善運動』(安達茉莉子)

          読書家が語る読書についての本『読書について』(小林秀雄)

          読書で金を稼ぎたい。これは読書家の夢である。ページをめくる毎に本の定価の1%、金が空から降ってきて欲しい。 派手な生活に憧れはないから、必要以上の金は要らない。 安酒を買い、塩を舐めては此れを肴に、酔いては寝つつ、日々を過ごす。 せめて駄馬のように膝を震わせ、日銭を稼ぐあの無意味な時間を、読書に充てれれば十分なのである。 しかし銭とは労働の対価であり、労働とは、雑に言えば、誰かのためにために手足動かすことである。俺が畳に横になり、煎餅片手に本を読んで、一体誰が喜ぼうか。 そ

          読書家が語る読書についての本『読書について』(小林秀雄)

          夏の朝って、夕方みたいで不思議に綺麗ねat4:45

          その不思議に綺麗な朝日の写真は、どうやったって「夕日」に見えてしまう。 眠れなくて、風呂場の排水溝を掃除して、ガスコンロの油汚れを綺麗にして、押し入れに詰め込んだ冬物の服やらなんやらを綺麗に整理しながら、そこに詰め込まれたもう使われることのない色鉛筆や扇子や定形外封筒の山なんかをゴミ袋にまとめて。 断捨離で生まれた空間には、畳の上で巨塔をなしていた本を並べ、押入れを本棚として有効活用することにした。 今まで塔のせいで日の目を浴びずに埃が溜まっていたところは箒で掃いた。 せっ

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          酒飲悪口愛妻作家のパリ生活を覗きたい時に読む本『移動祝祭日』(ヘミングウェイ)

          ヘミングウェイは大酒飲みだった。彼は酒を飲まねば文章を書くことができなかった。 朝6時に起きて筆を取り、夜8時までグラス片手に書き続け、それ以降は断酒。 なんとも逆転した生活を送っていた。 彼にとってアルコールはペンのインクも同然だった。 だから彼が糖尿病に犯され、酒を控えよと医者から強く忠告された事は、彼の作家人生最大の危機に違いなかった。 そこで考案されたのが”パパ・ダイキリ” ここから砂糖を抜いて、ラムとライムジュースを倍、マラスキーノ(サクランボを原料にしたリキュ

          酒飲悪口愛妻作家のパリ生活を覗きたい時に読む本『移動祝祭日』(ヘミングウェイ)

          もうyoutubeもSNSも見たくないけど、そんな生活に戻れない時に読む本『現代生活独習ノート』(津村記久子)

          できることならインターネットから離れたい。 もうyoutubeは見たくない。SNSは開きたくない。amazonの欲しいものリストは増えてく一方。楽天からはもう要らないって言ってるのにダイレクトメールが送られてくる。Ubereatsはなんだか苦手。うるさいグループライン無視してたら未読が100件越えた。 あーヤダヤダ現代社会。 新しいものより古いものの方が好きだから、知らないうちに生まれてきた知らないものにはあんまり興味がもてなくて、それより親の世代からほっそりしぶとく生き長

          もうyoutubeもSNSも見たくないけど、そんな生活に戻れない時に読む本『現代生活独習ノート』(津村記久子)

          面白いモノを作りたいのに、手が動かない時に読む本『ライティングの哲学』

          なにかを書こうとして、白紙のファイルに向かって孤独にフリーズしているならこの本のページを繰ってほしい。ぼくらも同じように、それぞれのかけなさを抱えながら悩み、苦しみ、もがいている一人の執筆者なのだから。(pp3) 一億総クリエイター時代である。 WWWによってあらゆるコンテンツの送受信が世界単位で可能になり、大衆消費社会の出現によってあらゆる産業が第三次産業にスライド、その果てに”オモシロ”至上主義になった昨今。 八百屋のキャベツも、金物屋の包丁も、ウォーホールが書いたス

          面白いモノを作りたいのに、手が動かない時に読む本『ライティングの哲学』

          眠られぬ夜とともに

          最近ね、寝るのがめちゃくちゃ億劫なんすよ。 いや、億劫というか、夜になると焦る。なんならちょっと怖い。 一日が終わってしまうってことがすごくショック。 僕、毎日、日記を書いているですよ。 日記書きあるある。何も書くことがない日の絶望。 おいおい、こんなすっからかんな毎日だったっけ。 自分の生活のコンテンツ力の無さに呪詛。 そのくせ、休みの日なんかは爆寝。 一回寝ると起きられなくって、十四時間くらい寝ちゃう。 気付いたら夕方。タイムスリップした感じ。 目覚めると窓からは夕日

          眠られぬ夜とともに

          稽古の日記 八日目〜十日目

          くらやみダンス#8 『くらやみダンスの宝島』 脚本 岡本セキユ・神山慎太郎 演出 岡本セキユ 2021年11月25日(木)-30日(火) 於:池袋スタジオ空洞 【詳細】 https://kurayamidance.wixsite.com/home/next 【予約】 https://ticket.corich.jp/apply/114981/006 10月24日、27日、30日根っからの不精が祟って、日記が滞ってしまった。 始めたものを今更引っ込めるわけにもいけないの

          稽古の日記 八日目〜十日目

          稽古の日記 七日目

          くらやみダンス#8 『くらやみダンスの宝島』 脚本 岡本セキユ・神山慎太郎 演出 岡本セキユ 2021年11月25日(木)-30日(火) 於:池袋スタジオ空洞 【詳細】 https://kurayamidance.wixsite.com/home/next 【予約】 https://ticket.corich.jp/apply/114981/006 10月23日稽古場の近くに食パン専門のパン屋があった。 閑静な住宅街の隙間に突如として現れたそのパン屋は、檜を模した壁材

          稽古の日記 七日目

          稽古の日記 六日目

          くらやみダンス#8 『くらやみダンスの宝島』 脚本 岡本セキユ・神山慎太郎 演出 岡本セキユ 2021年11月25日(木)-30日(火) 於:池袋スタジオ空洞 【詳細】 https://kurayamidance.wixsite.com/home/next 【予約】 https://ticket.corich.jp/apply/114981/006/ 10月20日 今日は初めて自分のセリフを喋った。  下手のハケ口から出てきて、そこにいる相手に「おい」と声をかけてから、つ

          稽古の日記 六日目

          稽古の日記 五日目

          くらやみダンス#8 『くらやみダンスの宝島』 脚本 岡本セキユ・神山慎太郎 演出 岡本セキユ 2021年11月25日(木)-30日(火) 於:池袋スタジオ空洞 【詳細】 https://kurayamidance.wixsite.com/home/next 【予約】 https://ticket.corich.jp/apply/114981/006/ 10月17日今日も今日とて人の稽古をずっと見ていた。 流石に流石に飽きてきたので、共に出番がこない金子さんと一緒に衣装

          稽古の日記 五日目

          稽古の日記 四日目

          くらやみダンス#8 『くらやみダンスの宝島』 脚本 岡本セキユ・神山慎太郎 演出 岡本セキユ 2021年11月25日(木)-30日(火) 於:池袋スタジオ空洞 【詳細】 https://kurayamidance.wixsite.com/home/next 【予約】 https://ticket.corich.jp/apply/114981/006/ 10月16日今日は1日黙って人のお芝居を見続けていた。 人がセリフを喋って、それにダメ出しして、またセリフを喋って、ダ

          稽古の日記 四日目