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事業承継M&Aで最も本質かつ必要なもの

ここ数年、課題解決が必要な分野として「事業承継」というものがあります。中小企業経営者の高齢化や後継者不在などを背景として、廃業に至った場合、今まで培った技術・販路などを失うこと、雇用への影響が大きいこと、さらには地方経済への影響が大きいということが指摘されています。確かにこの指摘に関しては、個人的には納得感を持っています。

ただし、総論においては納得感がある一方で、事業承継M&Aについての理解や方法論に関しては、やや違和感を持つ要素もあることも確かです。

では、その違和感を個人的な一考察として記していこうかと思います。
M&A支援機関の一取締役としての考察と捉えてもらえれば幸いです。

永続されるためだけの事業承継でいいのか?

まず、前提として、事業承継というのは手段であって、目的ではないということは押さえておかなければなりません。そして、市場に委ねられる部分が多分にあることも十分に認識する必要があると思います。

昨今、事業承継が個人的理解として、目的化されているような雰囲気があると感じていて、少々乱暴な言い方をすると、永続させることが目的になっている。その前提に立脚して、「問題である」と認識されていることです。

まず思うのは、その前提は適切ではないと考えています。企業が永続することは好ましいとは思いますが、永続するだけでは意味がないということは言わざるを得ません。

ある一定、市場原理が働きながら、企業の新陳代謝が為されるべきです。つまりは、役割の終わった企業や事業についてはスクラップ&ビルドが実施されなければ、社会の健全な効率化がなされません。実は日本の生産性が諸外国に比べて低いのはこのような適正な市場原理が働いていないということも要因として、大きいと考えています。労働市場についても、同様の考え方を私は持っています。(ちなみに、日本の国債市場もです)

もちろん、過度な市場原理ではなく、あくまで適正な市場原理です。

永続性という要素はよくよく考えると、あくまで「売り手」側の論理であって、「買い手」にはあまり関係がありません。これは簡単な話で、永続性を目的とした買収はしないからです。重要なのは、シナジーであり、将来性であり、収益性だからです。もし永続性に価値があるとしたら、長年培ってきたノウハウ、信頼でしょう。ただし、これも戦略上の話であるだけです。

やはり、事業承継M&Aの前提をもう一度、再確認をしなければならないと感じています。

それでは適正な市場原理を働かせ、事業承継M&Aを促進させるためには、どうすればいいのか。

支援する側、買い手、売り手、外部環境整備の4点に言及していきたいと思います。

プラットフォーム偏重の事業承継M&A支援

まず、M&Aをする際には仲介会社や専門家集団が大きな役割を果たします。昨今では、地銀も力を入れている分野ですね。
(地方経済の衰退懸念への対応、融資業務では儲けが出ないので、いわゆる手数料などで収益を上げる経営事業拡大の必要性が背景)

いわばプラットフォームというのが主になります。マッチングするにあたり、キープレーヤーであることは間違いありません。「売り手」と「買い手」が出会う大事な場であり、必須です。

ただ、私の感想としては、プラットフォームに偏重しているかなと感じています。やはり、大企業のM&Aについては、M&A規模も大きいので、投資銀行などのフォローも多くある一方で、規模が小さな事業承継に関しては、採算面でソフト面でフォローしきれない部分もあるのかもしれません。

ソフト面のフォロー体制をしっかりと整えながらの事業承継M&Aの方法論を構築する必要があると思われます。

事業承継M&Aのスキーム(サーチファンド、ファンド組成など)もどんどんと積極的に使うべきです。ただし、アリバイ的な「やりました!」という自己目的化した支援は百害あって一利なしというのは言うまでもありません。
手数料はもらえるかもしれませんが・・・。

若干厳しめに書いていますが、これは私の会社にも跳ね返ってくる点です。十分にブレずに支援をしていきたいと思います。

ではでは、ここで疑問です。
「本質的なフォローとは?」ということです。

ここからは、買い手と売り手双方がやらなければならないことを指摘しながら、フォロー・支援についても併せて、言及していきます。

買い手側のキモは、明確な経営ビジョンと戦略

買い手にとって、必須であり、必要十分条件であるのは、「明確な経営戦略」です。経営戦略といっても、抽象的であるので、言い換えると「企業理念(パーパス)」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」です。実はここが明確になっていないケースが散見されます。

M&Aというのは、「時間を買う」ということ。

本来的に考えるべきであるのは、将来に必要な経営資源と現在の経営資源を勘案しながら、溝を埋めるためには何をしなければならないかの目星をつけることです。その中で、「純粋成長か、M&Aか」という時間軸を判断できます。これをすることによって、「M&Aによって何を獲得し、機会損失をしないように時間を買うべきか?」が判明します。まずはここからです。

であるならば、「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」がないと、何が欲しいのか分からない状態で、マッチングすることになります。(むしろ、成立しないのでは)そして、何より単なる「膨張」になってしまう危険性を孕むことになり、経営リスクを抱え込むことになるのです。これでは、何のために買収をしているのか、分からなくなってしまいます。

結局、買収によって何を成すのかが明確でないと失敗する確率が高くなります。

何度でも言いたいのですが、一番の正念場は、買った後です。買うだけであれば、お金さえあればできます。でもそれは本質的なM&Aの価値ではないでしょう。

そして、買った後で生きるのが、紛れもなく「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」なのです。明確で円滑な統合ができることになるのです。

当たり前だろと思われますが、基本が一番大事なのは忘れてはなりません。

ですので、買い手に支援をする立場としては、マッチングの前に、こういった「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」の立案支援が重要であり、一番になくてはならないでしょう。

売り手側のキモは、先入観解消と事業検証

一方、売り手側としては、どうでしょうか。ここからは売り手側に必要なことを述べたいと考えます。

まず中小企業では、売却というものへのイメージが非常に偏っていると感じています。バブル崩壊以降のリストラのイメージが強すぎます。負のイメージが強すぎる。

私はまずこのある種の「先入観」の解消が必要であると思います。売却は、経営戦略を促進する一つの手段ですし、EXITです。ここを中立的目線、ビジネス目線に立ち、先入観なく検討をする必要があります。

上述したような前提の下で、売却を検討する際には、全ての選択肢を排除せずに事業を検証することが求められます。つまりは、「売却は最善なのか?」「売却する際には何が当社の強みや価値なのか?」「誰に売るのがベストか?」を探索する作業です。
(第三者への売却に躊躇するケースは多いと思いますが、考えようによっては、逆に第三者の方がいい場合もありますよね)

言い換えると、ここでも出てきますが、「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」です。この検証なのです。ですので、本質的には買い手側とはやることはあまり変わりません。

現在は買い手に比べて、売り手が少ないという現状がありますが、色々な要因があるとしても、先入観と「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」に基づいた事業検証が十分になされていないようにも思えます。

そう考えると、売却しようというインセンティブは希薄になることは自然なことなのかもしれません。

支援する立場では、「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」を立案・検討し、検証することが肝要であると考えています。その上で、財務はもちろんのこと、非財務での「企業価値は何か?」を中立視点で出来るだけ多くの選択肢を知恵を絞り、提示することが重要かと考えます。
(非財務こそに企業価値が宿るとの考えです。)

事業承継を促進する外部環境:リスクマネーと政策

そして、最後に簡単に事業承継を円滑に進める際のインセンティブ作りです。経営戦略上でM&Aが最善ということになったとしても、社会経済的な制度や外部環境が揃っていかなければならないのは言うまでもありませんね。

とりわけ、事業承継については、地方経済の趨勢を帰する重要な政策課題であるからには、より円滑に促進できる動機付けは必要であるし、やるべきでしょう。

まず、体感値と今後の先行きとしては、リスクマネー供給の問題です。実はパラドックスですが、地方経済の衰退はリスクマネーを遠ざける一方で、事業承継等の企業再編を行う際にはリスクマネーが必要であるのです。ここに関しては、政策的介入が必要でしょう。もう一点はマクロ経済動向を頭に入れなければなりません。マネーという観点では、「金利」であり、資金調達環境についても見なければならないと思います。

色々とリスクを上げればキリがないですが、できる限り、リスクへの対応ができる余裕、少なくとも財務的余裕を持っておくことが肝要であると思います。

雇用の問題ももちろん大切ですので、ぜひ頭に入れるべきでしょう。
(これはまた別途書いてみたいです)

ここに関しては、気づいた点(書き切れないですが、今も山ほどありますが)等があったら、政策提言的な対応として、色々と意見を共有してみたいとも考えています。

最後:「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」が、M&Aの基本中の基本

このように見てきました。
読んでいただいた方にはお分かりかと思いますが、売り手も、買い手も、支援する側も、結局は基本に忠実にということです。

「企業理念」「10年先の経営ビジョン」「中期経営計画」。

ここがまずは出発点です。

しかし、一番難しく、基本的で、本質的なことです。
本質を突かない、強引な事業承継は誰も幸せにしません。

ぜひ、皆がwin-winになるハッピーな事業承継でを目指して、私も頑張っていきたいと思います。


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