見出し画像

熱海の宝“橙“をご存知ですか? 老舗和菓子屋の地域振興のお話

みなさん、突然ですが、この写真の果物をご存知ですか?


黄色くて丸い果物。

柑橘類の仲間でありそうなのは、みなさんも想像できると思います。

果たして、この柑橘をスーパーで見かけたこと、または食べてたことはありますでしょうか?

こちらの果物、「橙(だいだい)」という柑橘類の仲間で、普段スーパーには並ばないどころか、苦味とエグ味が非常に強く、生で食べることは残念ながらできません。

収穫をしなければ木の上で3年も成ったままと言われており、「代々(橙とかけて)続く縁起物」としてお正月飾りとして使われておりました。



その橙を古くから栽培していた地域が、静岡県にある「熱海市」です。

都心から1時間とかからず楽しめる温泉地として老若男女から親しまれていますね。

熱海市は、橙の栽培が盛んで、生産量が日本一だったのです。

そう、数十年前までは。

今回は、減少する熱海市の宝「橙」と、その生産者と、お菓子で支える「和菓子屋」の「熱海だいだい和菓子プロジェクト」について、まとめてみました。


橙の歴史

まず、熱海市と橙の歴史について、簡単に触れていきましょう。

「橙(だいだい)」の歴史は古く、遠く鎌倉時代に日本へ伝来したとされます。「代々」栄えるという縁起のよい名からお正月飾りに使われ、その彩りから「だいだい」という色の名にもなっています。

伊豆・熱海では江戸時代後期より栽培されており、日本一の生産量を誇ります。
太陽の恵みと温暖な伊豆の気候に育まれた橙は、柚子とも金柑とも異なる、和の柑橘らしい豊かな香りと酸味が特徴です。

石舟庵HPより出展

ちなみに、ここの「熱海が(橙の)日本一の生産量を持っているように記述されていますが、この情報はかなり古いと思われます。

熱海市にいる橙の生産者は、ピーク時の半数以下しかいないため、生産量は現在それほどないはず。これは、私が以前、熱海市の橙生産者のみなさんと交流があったため知っています。

しかし、はるか昔から橙が栽培されてきたことは確かなようです。

昔、橙農家の方から、「熱海市の港から、橙を船で江戸まで運んでいたそうだ」という話を聞かされた覚えがあります。

実際に、熱海市の農地の至る所に、植え付けて何年も経過した橙がいます。それらの多くは、雑木林と化してしまった畑ですが…。これも高齢化・担い手不足の現状です。

つまり、熱海市では古くから橙が栽培され、生産量が日本一を誇っていた。しかし、高齢化と担い手不足で今は定かではないという現状を知ってほしいです。

橙の特徴

今度はこの橙という柑橘が、他の柑橘類とは良くも悪くも一線画す特徴を挙げてみましょう。

①苦くて食べれない

そもそもこの橙という柑橘、食用には全く向きません。
なぜなら、橙独特の苦味がとても強く、酸味も強いため口の中に入れたら思わず吐き出してしまうレベルです。
まぁ腹を空かせた猪が、間違って食べていることもあるようですから、人によっては無理をすれば食べれないこともないでしょうが…。

しかしその為強い香りを抽出し、香料として活用したり、果汁を絞ってポン酢や砂糖でくったくたになるまで煮詰めたマーマレードジャムにするほか、レモンの代わりに焼酎に絞った果汁を混ぜサワーとして楽しんだりするのが一般的です。

ここまではレモンとそう変わらない使われ方をしておりますが、生で食べれない点においては、やはりレモンより使いずらい果物でしょう。

②とっても長持ち・頑丈な果実

なぜかは詳しくわかりませんが、この橙という柑橘はとにかく皮が硬い為、非常に頑丈(?)です。

橙は、収穫しなければ木の上で3年も年を越せると言われており、その名前から「代々栄える」と縁起物として扱われるようになったのだとか。

③トゲが多くて収穫しづらい

熱海市内にある、橙の多くが「実生(みしょう)」と呼ばれる、タネから育てた木になります。ここら辺は掘り下げると話が長くなるため割愛しますが、とにかく棘が多い、木の背丈が高すぎる、といった栽培管理におけるデメリットが大きいです。このため、高齢な農家さんは収穫もとても難しいわけです。

和菓子屋 石州庵について紹介

①石舟庵とは伊東市にある和菓子屋さんです。看板商品は、「みかんの花咲く丘」というチーズケーキです。ほろっと崩れるタルト生地の上にしっとりとしたチーズとほのかに香るみかんの香りがとっても美味しいですよ。

そんな石舟庵は、熱海市の橙農家と連携し、橙を活用した商品を開発しました。
・だいだいしぐれ
・だいだい畑のあんドーナッツ
→あんドーナッツはまだ食べたことがありませんが、だいだいしぐれは橙の香りがする美味しいお菓子でした。

良いなと思った点

前述した通り、橙生産者は年々減っております。悲しいことに、橙は雑木に混ざりながらも、毎年実を結実させていたりします。(加工原料に使えるかどうかは別として)
かつての生産量は、今は見る影もなくなっているわけです。
しかし、橙を収穫できなくなっているだけで、畑にまだ成っていることは確かです。つまり、これから育てて増やしていくことなく、今すぐにでも収穫さえすれば原材料を確保しやすい。ここが熱海市にある橙の秘められた魅力だと、私は考えています。

その地域に存在しなかった作物を流行りの一環で植え付け、加工品にして売り出す商売とは、一線を画すと感じてしまいます。

気になった点

まだまだ規模が小さい話であることが、気になっております。

特に、以前紹介した「春華堂の和栗プロジェクト」に比べて、地元企業との連携や行政の支援などがあるのかないのか、新聞の記事だけでは少しわかりませんでした。

とても良い取り組みだと思いますので、その地域の生産者の多くの方へ還元されるような、地域経済が好循環する取り組みへと発展してほしいです。

是非とも、官民一体の大型プロジェクトへと発展し、魅力ある貴重な資源を活用してほしいと、勝手ながら思うのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?