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トランピアンになっちゃった人たちへ(1)

ゾンビ映画かよ

なにかがおかしい。と思い始めたのは12月のはじめ頃だった。

11月、バイデンが大統領選に勝利してから、続々と、トランピアンが増えていた。しかも日本で。今まで思ってもみなかったタイプの人たちが、日本製トランピアンになってしまっている。

まるで目にみえないウイルスに感染するように、ある日突然、知り合いが陰謀論に染まってしまっているのを知って驚愕する、ということが続いた。ゾンビ映画のように。それとも鬼に喰われた人が鬼になってしまうように。

わたしの身近な友人にはさいわい今のところ一人も「感染者」は出ていないが、数日前にも直接知っている人が一人感染したと聞いて驚愕している。

ええっあんな人が?と思うような人が、急に、「選挙は不正だった」「民主党員は悪魔崇拝者で子どもを殺して食っている」「トランプとプーチンは自由世界の救世主だ」などと言い出す。えええ?

わたしのブログにも、トランピアンさんから
「あんなにあからさまな不正を見過ごせるとは信じられません」
というコメントがやってきた。

いったい何が起こっているのだろう。

「わたしは真実を知っている」病


陰謀論者に共通しているのは、みんな、はんこでおしたように
「マスメディア(および政府や官僚組織、その他のIT大企業など)は機能していない」
「わたしは(あなたたちの知らない)真実を知っている」
と、すぱっと断言すること。

そこには一切のためらいも留保もない。

えっじゃあ、あなたはどこから情報を得ているんですか?と聞くと、怪しげなまとめサイトだったり、Qアノンが元ネタらしい奇妙キテレツな持論を展開するユーチューバーだったり……。彼らにしてみれば、その情報を「真実」だと受け取れないこちらのほうが「情弱」だと思っているのだろうけれど。

なぜこの人たちはかくも簡単に、用意されている陰謀論にストンとはまりこみ、そこで提供される「真実」を信じてしまうんだろうか。

その姿にいちばんよく似ているのは、宗教に新しく入信した信者たちだろう。

あたらしい「真実」に目覚め、今まで知らなかった文脈にもとづいて世界を見ることができた特権に、自分よりも大きなストーリーとコミュニティにつながることができたことに有頂天になり、陶酔のような喜びを感じている入信者たち。

その底には大きな不安があるのだろうと思う。

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NY Times (‘Be There. Will Be Wild!’: Trump All but Circled the Date)

トランプの言霊

トランプは、「嫌悪」を売るセールスマンだった。マスコミ、エリート官僚、移民、左派、知識人、民主党の政治家、さらには自分の言いなりにならない側近までも次々と敵認定し、毒に満ちた言葉で罵った。

「フェイクニュース」という言葉を、トランプは平均週に3回ツイートしていたという。断言を繰り返して、フォロワーたちに「マスメディアは完全に嘘」と刷り込んだ。

日本には「言霊」という言葉がある。

言葉そのものが力をもつという呪術的な考え方。これはある意味ほんとうだとわたしは思う。言葉は人の思考を律する装置だから。

言葉は心を作り、世界を作る。毒に満ちた言葉は、毒に満ちた心を作る。

トランプの毒々しい言葉に4年間さらされつづけたおかげで、アメリカの精神風土はひどく劣化し、分断が深まった。

その最終結果が、1月6日にトランプの演説を聞いた後に議事堂に押しかけ、乱暴狼藉をはたらいたあの群衆だった。

支持者の群衆を前に、ホワイトハウス前で行った6日のこのスピーチ(というより単なるデマゴーグ)を読んでいるだけで、気持ちが沈む。その言葉が政治家のものとしてあまりにも貧しく、ウソと人への中傷と攻撃と毒ばかりに満ちていて、むなしいからだ。
全文はこちら

トランプは群衆に向かって、自分は勝ったのにこの選挙は盗まれたのだ、地獄のように戦わなければならない、弱腰の共和党員に大胆さを教えてやらねばならない、さあ議事堂へ行こう、と焚きつけた。

その結果、おそらく米国の黒歴史に残ること間違いなしの事件が起きた。

1月6日に起きたこと

トランプが「負けなど絶対に認めないぞ〜!地獄のように戦おう!」と気炎を上げていたころ、議事堂内では、選挙以来沈黙を保っていた共和党リーダーの一人で院内総務のミッチ・マコーネルが、泣きそうな顔で議員たちに語っていた。

「トランプ大統領はこの選挙が盗まれたと言い、さまざまな主張をしています。何十件もの裁判が全国で申し立てられましたが、それらの主張は退けられました。……私たちの前に、選挙結果を覆すほど大規模な違法行為があったことを示す証拠は何一つありません。……憲法が議会に付与している権限は限定されたものです。……私たちが負けた側からの単なる主張にもとづいて選挙結果を覆したら、私たちの民主主義は真っ逆さまに地に落ちることになります…」(抜粋、拙訳)

全文はこちら

そしてトランプが最後の頼みの綱として、選挙人の投票結果を変えるように命令していたペンス副大統領も、文書で「わたしにはそんな権利はありません」と、大統領に従う意思がないことを発表していた。

ペンスのレター全文はこちら

支持者を議事堂に向かわせ、自分はホワイトハウスに戻った大統領は「ペンスには勇気がないのだ!」と激おこツイート。

2時すぎ、「議事堂へ向かおう!」と大統領にアジテートされた群衆が議事堂に乱入し、警官に暴力をふるい、議員の事務所を荒らし、家具を壊し、床に放尿し、ガラスを割り、盗みを働いた。

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NPR(「What We Know So Far: A Timeline Of Security Response At The Capitol On Jan. 6)

暴徒の多くがわざわざ自分たちの行いを誇らしげに動画で記録してくださっていたので、その暴力の全貌が徐々に明らかになってきた。ある動画では、興奮した群衆が「STOP THE STEAL(選挙を盗むな、というスローガン)だけでなく「ペンスを吊るせ!」と叫んでいるのも確認できて、背筋が寒くなる。

NYタイムズのインスタグラムアカウントに掲載された2分ほどの動画は、
群衆が議事堂に押しかけ、手薄な警官たちが完全に圧倒されていったようすを、いろいろな動画を時系列につないでコンパクトにまとめている。

(続きます)


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