盛夏のファンファーレ
8月が来た。
さっそく朝はやくから真っ青な空が......
とはいかず、厚ぼったい曇り空から始まる。
空のラムネは一時出荷停止のようだ。
(昨日私が飲み干してしまったせいかもしれない。)
先陣を切った立葵に代わって、今度は凌霄花がファンファーレを奏でる、
らしい。
(凌霄花について書かれたコラムを読んだ。)
トランペットの形に似ている、可愛らしい花だ。提灯のような温かみのある色。
近所に咲いているだろうか、実際にこの目で見たい。
夜中に、鈴虫の声を聞いた。
時計は見なかったけど、日付は8月に変わっていたと思う。
はやくも秋の気配。
始まりを喜びたいのに、終わりを意識してしまうのは、何だかかなしい。
顔をすぼめたひまわりが、一足先に夏の終わりを見つめている。
汗と涙が染み込んだ土は、ならされて、新たに足跡が刻まれるだろう。
燃えて燃えて、大輪の花火のように打ち上がることを夢見て、線香花火のように突然の終わり。
努力がすべて実る世界は、駄目ですか。
仕事、猛暑、他にも色々……つまり夏バテ。
溜め込んだドラマ。
読みかけの本。
覗けずにいるSNS。
文字を追う集中力が足りなくて、
吐きだす力も不十分で、
書きかけの詩が、宙ぶらりんのまま。
ラジオ体操のスタンプカードみたいに、誰かがちゃんと見ていてくれているという証が欲しい。
頑張ったことに対して貰えたのが「ふつう」という評価では、良かったのか悪かったのか、よく分からず、宙ぶらりんのまま。
(もちろん評価をいただけた感謝の気持ちの方が大きいけれど。)
『大人だって、ご褒美が欲しいのにね』
そんな台詞を、昔見たドラマで主人公が零していた。
やり切れなさを感じる時は、この台詞が頭の中でこだまする。
ご褒美を与えよう。
自分で、自分に。
解放された昨日は、朝から部屋の掃除を張り切って、汗を滲ませながら買い物に出かけて、帰って洗濯機を回しながら、窓を少し開けた暑い部屋の中、青空を見上げてソフトクリームを食べた。
コンビニで買える、最高級。
自分で、自分に「金」を与える。
カップの透明な蓋をゆっくり外すと、入道雲の先端を切り取ったようなふんわりしたツノ。
ほんのり甘い香りがする、ワッフルコーン。
最初のひとくち、すぐにふたくち。
ミルクが濃くて、香りがすばらしくて、冷たくて甘くて、軽やかなのにずっしりとした満足感。
ひとくちごとに、心の角がとれてなめらかになっていく。
“まぁいいか。また頑張るよ”
私は、自分がわりと単純で良かったと思う。
今見ている夏ドラマで、心に残る言葉がまた見つかった。
“上ばかり見ても、手に入らない”
“お先にどうぞ”
夏はすべてが眩しくて、
みなぎるエネルギーに流されて、押し負けて、
自分のペースを見失いそうになる。
焦ってはいけない。
でも、諦めない。
書きかけだった詩は、ソフトクリームを食べ終えた時には書き終えた。
今日はこうして自分の気持ちを見つめて、文章を書けるくらいの元気が出てきた。
心に余裕を。
のんびりと夏を。
8月が始まった。
私なりの、盛夏のファンファーレを鳴らす。
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