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さよなら春

ゆっくりと星空を見上げる-

そんな時間を持つことができたのは、久しぶりのことでした。


南の空に浮かぶ、レモンの形の月。
窓から差し込む月光が枕元にまで届きます。


月の左下には春の星、スピカ。
スピカはおとめ座の星で、「麦の穂先」という意味です。
おとめ座は農業の女神・デーメーテールの姿。
今夜はその姿をまばゆい月の光に隠し、
最後の「春」の夜に想いを馳せていたのかもしれません。



ここ数日、忙しくて心に余裕を持つことができずにいました。

空の表情、鳥たちの挨拶、草花の彩りや風の音色、
あらゆるものたちの香り、味わい………

それらがただの風景の一部となって、一瞬で過ぎ去ってしまいました。


あっという間に朝が来て、夜が来て、また朝が来て……

私の好きな「のんびり」が許されず、
ただ目の前のやるべきことに神経を集中させていた数日間。

今、嵐が過ぎ去ったかのように、心の波が静けさを取り戻し、穏やかな夜を迎えています。


夜空は春の星座から、夏の星座に変わろうとしています。

ゆるやかな春の星座たちに代わって、南東の空に姿を現しはじめたのが「さそり座」。

目を引くのは、心臓の位置に輝く赤い星「アンタレス」です。
一等星なのでとても目立っており、空の低いところでギラギラと存在感を放っています。

アンタレスは、“火星(アレース)の敵”または“火星に似たもの”を意味する、「アンチ・アレース」から付けられたそうです。

過去には火星とアンタレスの距離が近かった年もあり、同じ赤い色をした火星と見間違えてしまうほど似ている星です。
明るさや色を火星と競い合っているようにも見えます。

今ごろは西の空に火星が見えていますので、どちらがより赤いのか、そしてより明るいのか比べてみると面白いと思います。

さそり座の上の辺りでは、将棋の駒の形に似た大きな五角形を描くことができます。
頂点が頭で、肩、胴体、足。
そして五角形を横切るようにして東西に伸びるへびの姿。

春の星座では、へびといえば「うみへび座」がありましたが、
夏の星座では「へびつかい座」があります。

「へびつかい座」は複雑な形をしているため、星空観察を始めたばかりの頃は、正しく星を結ぶのに時間がかかりました。
今ではすんなりと、その姿を見つけられるようになって嬉しいです。



東の窓を開けると、夏の一等星たちがすぐに視界に飛び込んできました。

3つ並んだ星の中央には、わし座の「アルタイル」が輝きます。
目線を上げて、すきっと伸びやかに大きな十字を空に描き、
はくちょう座の姿を想像したあとは、尾で輝く「デネブ」に注目します。

最後は、頭をもう少し窓の外に出して、空高く輝く「ベガ」を見つけ出しました。
「真夏の女王」とも呼ばれる白く美しい輝きにに惚れぼれしてしまいます。

春は、夜になると雲に覆われてしまうことが多く、思うように星座探しができない日々が続きました。
夏は梅雨の時期がありますが、見つけやすい明るい星々と、七夕の物語を楽しみたいと思います。


さよなら、春。
ようこそ、夏。

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