目だけでは伝えられないもの
“目は口ほどにものを言う”
という言葉がありますが、その通りだと思っていました。
でも、マスクで常に口元を隠す生活を送るようになってから、考えに少し変化がありました。
3月ももうすぐ終わり。春休み期間ということもあり、遊びに出かけるご家族や、ご友人同士の姿を見かけるようになりました。
その中で、マスクを外したお顔も徐々に増えてきました。
以前は、マスクを付けるのが難しい小さなお子さんが、親御さんがマスクを付けさせようとすると嫌がって逃げ回ったり、付けてもすぐに外してその場に落としてしまったり、時には泣き出してしまう光景に出くわすこともありました。
接客業としてお店側に立つ私たちも、着用のお願いをするのが心苦しく思うことが何度もありました。
マスク着用が個人の判断となったことで、付けるのが難しかったお子さん本人だけでなく、その親御さんやまわりの方もずいぶん楽になったのではないかと思います。
見慣れた日常に戻りつつある中で、真っ先に嬉しく思ったのは、笑顔と笑い声が増えたことです。
小さなお子さんが、大きく口を開けながら思いきりおしゃべりを楽しんでいる様子を見ると、「今まで頑張ったね」と心から声をかけてあげたくなります。
子どもが大きな声を出すと「しーっ」と人差し指を立てていた親御さんも、最近はお子さんの言葉に嬉しそうに答えてあげて、親子の会話が盛り上がっている様子が伝わります。
小さなお子さんから、よくハイタッチを求められることが多いのですが、それも最近は答えられるようになりました。
触れる小さな手が、私の心のやわらかいところをそっとつかんで、いつまでも消えない温もりを残していきます。
談笑するご家族やご友人同士。
マスクを付けていた今までも見られていた姿ですが、口元が見えるようになって、声も表情も格段に読み取りやすくなったことを実感します。
たとえば目元が笑っている方を見たとき、マスクを付けていた頃は
“楽しそうにしている”
というような受け取り方しかできなかったように思います。
今は、目元と比例して口角が上がったり、歯を見せて笑う口が見えるようになり、はっきりと
“楽しんでいる”
と言えるようになりました。
冒頭にも書いた“目は口ほどにものを言う”。
マスクを付けていても、目だけで伝わるものも十分ありました。
声が聞き取りづらくても、何とか雰囲気を読み取ることもできました。
でも、目も口も、その単体では伝えられないものが山ほどあります。
電話で声だけのやり取りをしていると、相手の顔を見たくなりました。
もしかしたら、無理に元気に振る舞っているかもしれないと思うこともありました。
お客さんとの会話で、お互い声が届きづらくて、目だけでは困っているのか怒っているのか伝わりにくいこともありました。
こちらから伝える感謝も謝罪も、もしかしたら伝えきれることの半分くらいしか伝わっていなかったかもしれません。
どんなに目や眉だけで表情を伝えようとしても、逆に読み取ろうとしても、限界がありました。
口が見えることが、どれほど大切なことだったのか、改めて感じています。
みなさんが、会いたい顔を見られますように。
2023.03.26 朝
2023.03.27 夜 一部修正