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カオス・ノイズ 3

僕はノイズを求めている、という話を前回書きました。
どういうことかというと、それはある種の解放なのです。

日常というのはとても退屈になることがあります。当たり前のことが続くことに慣れてしまい刺激がほしいという感情は自然です。ですが同時に日常は素晴らしいものでもあります。生きるというのは日常の連続です。日常を放棄してしまっては生きることができません。僕は昔は退屈な日常というものは打破しなくてはいけないものなのだと思っていました。退屈な日常を打破するためにどんどん極端な生き方をしていくというのは世界中の何百人もの人々がやってきたことでしょう。そうじゃなくちゃダメなんだ!なんて思っていたこともありました。もっとぶっ飛んだものを、もっと前衛的なものを、もっと極端にもっともっと、と突き詰めた先にあるものは何だろう、と考えるとそこには無または死しかないように感じます。いっそのこと何も作らない表現しない何も言わないことが一番極端なのか?日常を破壊しきるなら死んでしまう?終了です。ゲームはそこで終わりです。終わってしまっては退屈を打破するとか日常がどうとかそういう話ではなくなってしまいます。僕には若くして自ら命を絶った友人もいます。彼の死の原因が何であったかは結局わかりません。ですが彼が生きていてくれたらもっと楽しい話がたくさんできたのに、と残念で仕方ありません。死を選ぶほどの切迫した苦しみがあったのかもしれません。でもやはり生きていてほしかったと思います。
生きている意味をどこまでも突き詰めることや、どこまでも続く日常を否定するの先にあるのは無限に空虚な現実の存在か、打ちひしがれた挙句全てを終わらせることしかないように感じます。ゲーム盤をひっくり返して全てなかったことにするようなそういう極端さしか残らない。それは違うように思います。その極端さは前衛でもアヴァンギャルドでもない。のたうち回ってそれでも世界を突き抜けていくことに前衛やアヴァンギャルドがあるのではと思います。

武満徹氏は、創作と表現を続ける理由を「世界の向こうにある大きなものに近づくため」というようなことを言っていました(僕の記憶の中のセリフなので言い回しは違うかもしれません)。とても共感できる言葉です。『夜と霧』のフランクルは「人生の意味は問うものではない。あなたが問われているのだ」と言いました。その通りだと思いました。僕自身「人生とは何だー!」などと狂ったように喚いていた時もありましたが、逆だと気づきました。「お前の人生が何なのかはこっちが聞いているのだからわめいてないでさっさと答えろ。お前が聞くな」だったのです。現実からの逃避や日常の打破、「誰もやってないこと探しゲーム」や「おれって個性的でしょゲーム」のために過激さを追求したり前衛を求めるのは間違っています。僕も散々間違ってきました。武満やフランクルは別に前衛やアヴァンギャルドを標榜する表現者ではありませんが、生を突き抜けて死に向かうのではなく、生を突き抜けて別の生・別の世界にたどり着きたい、という姿勢や生き方に僕はむしろ過激さや激しさを感じました。世界の向こうにあるのは死ではなく、また別の生がある。そう気づきました。

本当に嫌なのは硬直したまま衰退していくような、諦めて弛緩したままだらだらと沈んでいく状態です。世の中全体が衰え閉塞していくような状態に流されていくことこそが僕が忌み嫌うものです。日常を忌み嫌っているのではないのです。ぐったりと周囲を巻き込みながら沈んでいくような社会が嫌なのです。そんな社会に溢れるのは諦めや冷笑や小狡さです。僕はそんな硬直、衰退、閉塞した状態にうんざりしているのだとある時気付きました。むしろ毎日繰り返し繰り返し創作と創造、表現をするような日常はとても刺激的で、退屈さとは無縁です。引きずられることもありません。自虐や冷笑によって他人を押し除けながら抜け出そうとする行為は行き止まりにしかなりません。突き抜けることができません。逆に暗い穴に引き摺り込まれます。閉塞や硬直を打ち破るのは、向こう側を見たいという欲望に突き動かされた創作や表現なのかもしれません。我を忘れている状態。やらずにはいられない。そんな時、人は世界の向こう側に近づけるのかもしれません。過度な集中。無我夢中。そこにはカオスなパワーがみなぎっているように思います。

人々を引き摺り込むような暗い穴がそこらじゅうにあるのが僕には見えます。でも僕が見たいのは世界の向こうにある大きなものなのです。暗い穴の引力は強力です。そこと闘う時、強力なパワーになってくれるのがノイズやカオスです。暗い穴の引力は恐ろしく単調です。それをかき消してくれるパワーがノイズやカオスなのです。それは僕にとっては自分を守ってくれる巨大なパワーなのです。

さあ、今日も話が飛びまくりました。
何が言いたいのか。全部言いたいことなのです。まとめるのは難しいので、ひたすら続けて書くことで何とかしようと思っています。
カオス、ノイズ、そのパワー。次回は好きな音楽とそのことを結びつけた話ができたらいいなと思っています。またお付き合いください。




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