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龍眠る宿

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#ファンタジー

龍眠る宿 最終話

第19話 理由

 ココアは早速その日の内に台湾に向けて旅立ち、『龍のお宿 みなかみ』には数日ぶりに静寂が戻った。とは言え、まだ問い合わせの未読メールは着々と増え続けている。これに里親は無事見つかりました、と一々返信しなくてはならない。里親が見つかった旨はサイトでも告知してるし、もう後は無視してもよさそうなものなのだが、どうしても八大さんがウンと言わない。だからもうしばらくはバタバタするだろう。

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龍眠る宿 18

第18話 里親

 それから何だかんだあって一時間ほど後、事務所のソファでアジ・ダハカは目覚めた。正しくはさっきまでアジ・ダハカだった人物である。彼はルド・スティールと名乗った。英語で。ルド・スティール氏は日本語は全く喋れないそうである。足利百子に通訳をしてもらいながら色々尋ねたところ、どうやらここ数か月の記憶が無いらしい。とりあえず健康状態に異常は無いとの事なので、今日はホテルにでも泊まってもら

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龍眠る宿 17

第17話 アジ・ダハカ

 この季節、夕方六時はまだ昼の日差しが残っている。その明るさを遮るように、黒塗りの大型セダンが『龍のお宿 みなかみ』の玄関前に止まった。その後に続いてワンボックスが二台止まる。ワンボックスからわらわらと男たちが降り立ち、セダンと玄関とを繋ぐ様に並んだ。その様子を防犯カメラとモニタを通して見るのは何度目だろう。

 次の展開はこうだ、セダンの運転手が降り、後部座席のドアを開

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龍眠る宿 16

第16話 茶

「気に入って頂けるといいんですが」

 なんと、長尾は一晩で動画を完成させて来たという。まだ昼前である。どんだけ仕事が速いのか。外部記憶メモリと二枚の紙を鞄から取り出すと、八大さんのデスクに置いた。

「サインは気に入ったらで良いのかね」

「勿論です」

 八大さんはメモリをPCに差し込み、

「眠っとらんのじゃないのか」

 と長尾に言った。

「いやまあその辺は、慣れてますの

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龍眠る宿 15

第15話 思い上がり

 早朝から地味な作業だった。ニュース番組の録画映像をチェックし、うちが映っているシーン、特にココアが映っている部分を中心に抜き出し、PCに保存する。新聞記事も同様に、ココアが写っていたら切り抜いてスキャナにかけて、PCに保存する。今、テレビでは朝のワイドショーをやっている。これもまた、ココアが映れば映像を抜き出さなければならない。

「どうだい、進んでるかね」

 八大さん

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龍眠る宿 14

第14話 襲撃

 八大さんの指示で、僕は防火服を着込んだ。その格好で玄関に出向く。そして十三時きっかりに自動ドアを開いた。詰めかけたマスコミの記者たちに、そしてその向こう側に居る見物客の間にも、明らかに緊張が走った。掴みはバッチリといった所か。同時に、荷捌場のシャッターがキリキリキリと音を立てて上がって行く。

「あー、あー、本日は晴天なり、本日は晴天なり」

 荷捌き場には八大さんが立っていた

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龍眠る宿 13

第13話 悪龍

 事務所へと走り込んだ僕を、八大さんは不機嫌そうに迎えた。

「騒がしいな。走っても遅刻は遅刻だよ」

「すみません、あの、寝過ごしました。いや、それより」

「それよりって何だそれよりって。遅刻した者が言うセリフじゃないだろう」

「ああ、すみません、いやでも」

「それよりも、これを見たまえ」

 八大さんは新聞の社会面を開いて見せた。大きな文字が躍っている。『新聞社社長自殺

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龍眠る宿 12

第12話 本性

 ぱこーん。僕のおでこが軽い音を立てた。飛び起きた僕の目の前には、プラスチックのメガホンを手にした八大さんが立っていた。

「やあ、おはよう」

「あれ、八大さん? ここ僕の部屋じゃ」

「そうだね、キミの小汚い部屋だね」

「……なんで居るんですか」

「何を言っとるんだねキミは。明日になったら説明すると昨日言っただろう。さっき午前零時を回ったところだよ。だから今から説明するか

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龍眠る宿 11

第11話 帝釈天

 セミが鳴いている。今年最初のセミだ。気が付いた時、僕は玄関ホールの椅子に座らされていた。

「キミは相変わらず重いねえ。ここまで運ぶのは一苦労だったよ」

 八大さんは珍しく疲れ切った様子で汗を拭っていた。

「八大さん……僕は何を」

「何をじゃないよ、事務所を飛び出したと思ったら、道に出た途端に意識を失って、頭を打ったんじゃないかと肝を冷やしたぞ」

 意識を失っていた。

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龍眠る宿 10

第10話 偶然

 電話口で開口一番、足利百子は金切声を上げた。

「あんた達、何をやったの!」

「い、いえ、特に何も」

「特に何もじゃないわよ、さっきから庁内の電話鳴りっぱなしよ。あんたの店への問い合わせばっかり。メールもじゃんじゃん来てるし、とんだお祭り騒ぎだわ」

「ああー、いや、実はその件でお電話したんですけど」

 僕は週刊ビッグのWEBサイトに記事が載せられた件、近々マスコミに宿の

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龍眠る宿 9

第9話 潜入

 瞬く間に三日は過ぎ、四日目、ココアは無事に十トントラックで家に戻って行った。萩原さんは飼い主に問題があるような事を言っていたが、結局最後まで何の問題も起きなかった。

「十五時三十分チェックアウトです。無事に終わりましたねえ」

 しかし八大さんは不満顔だ。

「気に入らんな」

「何がですか。問題なんか無かったと思いますけど」

「何も無いのが気に入らない」

 こうなるともう

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龍眠る宿 8

第8話 鎖骨

「はい、『龍のお宿 みなかみ』です」

 八大さんは今日も元気に電話に出ている。経営者なんだから、電話番など下の者――僕しか居ないけど――に任せてふんぞり返っていても良さそうなものなのだが、そうしようとはしない。どうやら電話が大好きなのでは、と思ってはいるのだが、確認はしていない。電話好きなんですか、とわざわざ聞くのもアレだからである。などと考えていると、八大さんの営業スマイル的な

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龍眠る宿 7

第7話 モケーレ・ムベンベ

 夕日が真っ赤に染める大空、その只中に僕は居た。視界は三百六十度が丸い地平線。左側に太陽が沈み、右側から夜が迫ってくる。足下に地面は無い。一体上空何百メートルなのだろう。うちの屋上が地上二百メートルだから、それよりも遥かに高い事は間違いない。もしかしたら何千メートルかもしれない。しかし不思議な事に、僕には全く恐怖感が無かった。

「何が不思議なものですか」

 頭の上

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龍眠る宿 6

第6話 狭間

 ウォォォン、ウォォォン、またP助が鳴いている。飼い主を心配しているのだろう。何がそんなに心配なのか。姿が見えずに不安なのか、それとも何か具体的な脅威の存在を感じているのか。 ウォォォン、ウォォォン、大きな声だ。玄関ホールまで響いてくる。

 玄関ホール?

 僕は何処へ行くのだろう。ああそうだ、外に行くのだった。

 何をしに?

 さあ、何をするのだろう。ただ、誰かに呼ばれてい

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